復活

□終わりは静かに
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彼のスーツにブロンドの長い髪の毛。私も彼も黒の髪の毛なのに。

初めは気にしていなかった。何かのタイミングで通りすがりの人や同僚の髪の毛がついたんだろう、と。
けれど、さすがに何度もついていると不自然で。ブロンドの髪の人が故意にやってるとしか思えない。こんなものでマウンティングを取るなんて。どこの誰のかも分からない女の髪の毛なんて、気持ち悪い。触りたくもない。
この人は、彼の背中に抱きついて、そっとつけたのかしら。もっと他にやり方もあったろうに。なんて安っぽい物語。

これが噂に聞く、"浮気"なのね。

浮気なんて、彼がするはずないって信じてたんだけど。いいえ、慢心していたのかもしれない。彼のことを一心に思う自分に酔い、きっと彼もそうであると。

昼ドラ的な展開。そんなものは望んでない。だから相手の女の人とも争うことはしないし、彼にも浮気してるんでしょう?と問うことなんてしない。そんな惨めな思いしたくない。
彼のことを本当に愛していたの。だからこそ、捨てられたなんて思いたくない。盗られたなんて思いたくない。

少しずつ、でも確実に。
彼のそばから消えてしまおう。


彼に気付かれない程度に荷造りをして、新しく住む家に少しずつ運ぶ。最近は彼はめったに家に帰って来ない。それが皮肉なことに準備がしやすく、助かる。浮気相手のところかしら。ずっと昔の物語でも、夫は本妻を置いて、他の年上の女のところに通うなんてものがあったけれど。その本妻の末路はどうだったかしら。たしか、浮気相手に取り憑かれて殺されたのよね。私はそんな目には合わない。絶対に。
彼女は強いわ。不仲の中、子どもも授かり、そして逃げなかった。私にはできない。ずっと他の女の影を感じながら、ここにとどまるだなんて。

私が浮気相手より劣っていたのか。それともただ私と彼の相性が悪かったのか。どちらにしても今となってはもう、どうでもいい。
今の私の冷めた心には、彼への恋心なんてもう残っていない。憎しみや悲しみですらも残ってないわ。

彼に対しての気持ちなんて持っていたって無駄なだけ。彼に貰った物は、彼と過ごして想いのつまっているこの家に。全部全部、置いて行くの。


さようなら。
好きだったわ。
とてもとても。

 
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