―ポツッ ポツッ 『あ…』 母さんから頼まれた買い物をすませ帰ろうとしたところで雨が降ってきた。まだ降り始めだからか小雨なので、走って帰ればそこまでぬれずにすむ。だが買い物袋が重くてどうも走れそうにない。もし走ろうものならば面白い図になるだろうし。荷物が重いため手は曲げれない、なので伸ばしたまま走る、すると髭ダンスみたいじゃないか。嫌だそんなの。 なんだか雨も強くなってきたし待っていても止みそうにないから、母さんに電話して迎えにきてもらおう。何のためにあたしが買い物に来たんだよってことになるけど。仕方ない。 「名前?」 『え?あ、恭弥』 母さんに電話をしようと携帯を取り出した時、名前を呼ばれた。声の方へ顔を向けると幼馴染みである恭弥が立っていた。 「何してるの」 『髭ダンスしたくないから雨宿り』 「意味分かんないんだけど」 『深く考えるな。 恭弥は何してるの。見回り?』 「…うん、まあ」 『歯切れ悪いな。見回りじゃないの?』 「深く考えるな」 『わ、分かったよ』 珍しい。恭弥は何でもはっきり言うからこんな歯切れの悪いことは今までない。…いや、たまにあったかな?でも基本ははっきりズバッと。 「ほら、帰るよ」 『え?』 「何、帰らないの?」 『いや、帰りたいけど傘ないしあっても持てないから母さん呼ぼうかと』 「ふーん。それなら問題ない。帰るよ」 何が問題ないって?別にぬれるのくらいどうってことないよって言いたいのか。それ困る。寒いしビシャビシャになりたくない。 『恭弥、あたしぬれたくないんだけど』 「知ってるよ。だから、」 『じゃあ母さん呼ぶからね。あ、恭弥も乗ってきなよ、家隣りだし』 「…呼ばなくていいよ。だから僕の傘に入ればって」 『え?』 恭弥は傘持ってたのか。 じゃなくて、 『いいの?』 「ダメなら言わない」 『だって並中の風紀委員長が女と一つの傘に入ってるなんて騒ぎになるよ』 「別にいいよ」 『…そっか。ありがとう』 「ほら入って。あと荷物貸しなよ」 傘をひらき、私に入るように促してから恭弥は私の持ってる荷物を全部持ってくれた。 『恭弥いいよ。重いでしょ。私が持つから』 「僕は男だよ。これくらいなんともない。それに重いなら尚更僕が持つべきだろう」 なになに。なんだか恭弥が男前なんだけど。いつからこんなジェントルマンになったの? 『でも悪いよ』 「いいから」 『…ありがとう。でも傘くらいは持たせて』 「分かった。お願いするよ」 恭弥から傘を受け取る。その時にお互いの手がふれた。ドキッ。は?ドキッて何。相手は幼馴染みの恭弥だよ。ドキッとかないない。…でも緊張するから少し距離あけよ。そうしよう。 「…名前ぬれてるじゃないか。僕は別に良いから名前はちゃんと傘に入りなよ」 『え?いや、私は大丈夫。恭弥は風邪よくこじらせるからぬれちゃダメだよ』 「名前がぬれたら僕が来た意味がないだろう」 『ん?』 それは…。 『私を迎えにきてくれた、の?』 「…さあ、どうだろうね」 そう言って顔をそらす恭弥。 『恭弥、耳赤いよ』 「…名前は顔が赤い」 チラと私を見てそう言う。なんだって。どおりで顔が熱いと思ったよ。 火照った顔を冷まそうと手でパタパタと仰ぐ。ふう、今までこんなことなかったのに。 あ、でも最近はお互い忙しくて一緒に居なかったから、久しぶりのことで照れてるのかも。…こうやって一緒に帰るのは小学校以来だからなあ。 『なんか2人で一緒に帰るの久しぶりだね』 「そうだね」 『小さいころは毎日一緒に帰ってたのになあ。それでその後どっちかの家で夜まで遊んでさ』 「懐かしいね」 『うん。ああ、あの頃は私のほうが背が高かったのに』 「それに伴い体重も名前のほうが」 『だまらっしゃい。あ、そういえば恭弥ホラー映画見て大泣きしたことあったよね』 「…幼稚園の時の話じゃないか。それにその時名前が途中で気を失ったから心配で泣いたんだよ」 『あれ、そうだっけ』 「昔から都合の悪いことだけ忘れるよね」 『私、器用だから』 「そういうのを器用とは言わないよ」 『なんだって!』 そうこう話しているうちに大分家の近くまできた。 私はこの傘の中での距離に照れながらも何故か離れたくなくて。 時々ふれる肩に高鳴る鼓動。 だから相手は幼馴染みの恭弥だって。どうした私。 ずっと右手で傘を持つのは疲れたから左手を伸ばして持ちかえる。その時にふれた手にもドキって。…ん? 『恭弥手冷たい』 雨だから体温が下がったのかな。もし私を迎えにきてくれたのなら申し訳ない。 ふと視線を恭弥の手から顔へうつすと頬を赤にそめて目が見開かれていた。何で。 『…あ!ご、ごめん』 手を掴んでたからか。そんな態度されるとなんだかこっちまで意識しちゃうじゃないか。 「別に離さなくていいよ。名前の手あったかいしね」 そう言われたからもう一度恭弥の手にふれる。あああ今私絶対顔赤い。いやさっきも赤かったけど。 この手の温もりが感じられるのは家につくまでの短い時間。 でも、家についてからもずっとこの温もりを感じていたいから、幼馴染みの枠から外れてみるのもいいかな。 …なんてね。 幼馴染み以上恋人未満 →謝罪 |