『もう帰る時間だよ』 「そうだね」 『うん、だから早く帰って。切実に』 「一緒に帰るよ」 『私、熱があるからお母さんに迎えに来てもらうし』 「オレが送ってってあげる」 『断る』 「遠慮しなくていいんだよ。体調の悪い時ぐらい彼氏を頼ってよ」 『私には彼氏はいませんが』 「またまた。目の前に顔よし、性格よしの素敵な彼氏がいるじゃないか」 『自称のね』 「ううん、公認の」 『誰も認めてないけど』 「お母様が《素敵な彼氏さんね》って」 『は?何それ、初耳なんだけど』 「そりゃそうだよ、言ってないもん」 『ふざけるな。何勝手にうちの親に嘘吹き込んでんだ』 「えっ?本当の事しか言ってないけど。だってオレ嘘つけない性格だし」 『はい、それがすでに嘘』 「そんな事より帰るよ」 『だーかーらー!』 あぁ、誰かこの分からず屋をどうにかして下さい。 この分からず屋は同じクラスの沢田綱吉。いつもいつも、まとわりついてくる。自分のことを私の彼氏だとか言ったり、私の話を一切聞かない。 今日は会わないであろうと思ってたのに最後の最後でこんな仕打ちとは…。私、何か神様に嫌われるような悪い事したっけ。 「よし、準備オーケー」 『はっ?…おいおーい』 「よし帰ろう」 『待てコラ』 「どうかした?」 『下ろせ』 どうかしたじゃないよ。どうかしまくりだよ。何ナチュラルにお姫様抱っこしてんのさ。 「だって熱あるんでしょ」 『そう、だからお母さん呼ぶって言ったよね』 「オレが送るほうが速いでしょ」 『車のが速いに決まってるだろ』 「でも今日はお母さん帰り遅いんだよね」 『!な、何で知って…』 「愛の力で」 『黙ろうか』 「本当だって。それよりどうするの?」 『何が』 「お母さん呼べないから歩いて帰るつもりなんでしょ。でもそしたら帰る途中に倒れちゃうかもよ」 『うっ…』 確かにまだフラフラしてるから途中で倒れるかもしれない。そんなことになったら沢山の人に迷惑がかかる。それは十分理解している。だけど…。いや、うん。……。 「もう答えは決まったよね」 『…非常に不本意ですが家まで送ってください』 「ツンデレなんだね。そろそろデレてくれてもいいんだよ」 『ツンデレじゃない』 「まぁいいや。またデレてね。じゃあ帰ろっか」 『誰がデレるか。それとお姫様抱っこはやめて』 「えー」 『えーじゃない、恥ずかしいでしょ』 「見せつけてやればいいよ」 『何をだよ、誰にだよ。とにかくお姫様抱っこは嫌。せめておんぶで』 「…うん、いいよ!」 『?(何で喜んでるんだろう)』 「さ、早く帰ろうか」 『あ、うん。あのさ』 「何?」 『…ありがと』 「…えっ」 『なんだかんだでいつも助けてくれるしさ。…ありがとね』 そう。沢田はなんだかんだでいつも私が困ってる時に、すぐに駆け付けてくれて助けてくれる。はちゃめちゃな事を喋ってくるけど、それは私に気を遣わせない為ってのもあるんだろうし。厄日だと思ってたけど、沢田に関してはそうでもなかったかな…。 「…っ!」 『ふふ。沢田、照れて、る』 「?…寝てる。まさか最後にお礼言われるとはな。しかも耳元で呟くなんて…」 嫌よ嫌よも好きのうち (温もりを1番感じれるからおんぶでもいいかなって) (…それよりもさっきから寝息が耳にかかってエロいんだけど) (理性、保てるかな……) 2010.09.12〜2010.09.19 |