「名前ちゃん。これ、バレンタインのお返し」 『え、あ、ありがとうございます』 「うん。あのさ、えっと……。いや、うん、じゃあまた明日ね」 『あ、うん』 ドッドッドッド。心臓がうるさい。破裂してしまいそうだ。まさかお返しを貰えるなんて思ってなかったからすごく嬉しい。 バレンタインにチョコを渡したこと忘れてくれないかなむしろあたしの存在を忘れてくれ、とか思い詰めてたけどやっぱり貰うと嬉しいね。因みにバレンタイン渡した後に思い詰めていたと言っても、特に意味もなくただ相手の口に合わなかったらどうしようとかあたしが勝手にネガティブに考えてただけなんだけど。 あ、バレンタインでは相手にあたしの抱いている想い、つまり恋心は伝えていない。だから友達感覚で相手も受け取ったと思う。いやでも2回くらいしか話したことないしな。不審には思われていたかもしれない。 それでも律儀にお返しをくれるなんて…! この感動を伝えたくて廊下から急いで教室へ戻る。放課後のため教室にはあたしを待ってくれてる友達が居るだけ。あたしの恋愛事情を知ってるのは、友達の中でも今教室に居る友達1人だけ。だから周りを気にすることなく今あった出来事を友達に話す。 『花、花!聞いて!』 「どうしたのよ」 『あのですね、お、お返しを頂いちゃいました!』 「沢田に?」 『うん』 「良かったじゃん」 うん、すごく良かったよ、嬉しいよ。でも貰う時テンパっちゃって失礼な態度とっちゃったかも。もっと嬉しさを伝えたかったのに。恥ずかしすぎてむしろ真顔だったよあたし。真顔って…。それにありがとうございますだけって、オイ。もっと笑顔で、わぁ、ありがとう、くらい言えば良かった。きっと不快にさせちゃったよな。しかも差し出された時急いで受け取らなきゃ、って焦ってすぐに手を出して受け取っちゃったよ。がめつい子って思われたかな。あぁもうどうしよう。 『花、あたし泣きそうだよ』 「嬉し泣きなら流しちゃいなさいよ」 『それもあるんだけど、さっき受け取った時の自分の態度が失礼だった気がして…ぐすっ』 「あんたは考えすぎなのよ」 『うん…でもやっぱり、ダメだようわあああ』 「大丈夫だって」 花が励ましてくれる。あたしはステキな友達を持って嬉しいよ。その優しさにも涙がほろり。実際はほろりなんてもんじゃなくドバドバ流れてるけど。 『花、ごめんね。迷惑かけて』 「別に迷惑だなんて思ってないわよ」 『ありがと。でも涙も止まんなくて…本当申し訳ない』 「涙を流すことは悪いことじゃないでしょ。泣きたい時には思い切り泣けばいいじゃん」 『花…!』 あたしは友達に恵まれてるな。花、ありがとう大好きだよ。 「……落ち着いた?」 『…うん。もう大丈夫。あ、ちょっと顔洗ってくるね』 「分かった」 目真っ赤だろうな。急いで洗ってこよう。花も待たせてるし。教室から1番近くの水道へ急いで向かう。バシャバシャと冷たい水で顔を洗うと少しスッキリした。ハンカチで顔を拭いて教室へ戻ろうと後ろを向くと少し離れた所に沢田くんが見えた。どうしよう、もう1度ちゃんとお礼を言いたいけど、しつこいって思われるかな。…でもこのままだとあたしはずっと後悔してしまうと思う。あたしの気にしすぎかもしれないけど、実際に沢田くんに不快に思われてたら嫌だし。……よし!あたしは沢田くんに向かって駆け出した。花ごめん、もう少しだけ待たせてしまいます。 『さ、沢田くん!』 「あ、名前ちゃん。どうしたの?」 『あ、あのね、さっきは本当にありがとう。すごく嬉しかった!』 「どういたしまして」 『えっと、それを伝えたかったんです、はい。あ、引き止めてごめんね』 「全然大丈夫だよ。それにそうやって改めてお礼言ってもらえてこっちも嬉しかったし」 沢田くんは優しい!こっちが引き止めてお礼を言う、言わば自己満足での行動だったのに、そんなふうに優しい言葉をかけてもらえるとすごく救われる。やっぱり改めてお礼を言い直して良かった。 『ありがとう。えっと、それじゃあまたね』 「あ、待って。あのさ、せっかくだからメアド交換したいんだけど」 『えっ、え!』 沢田くんとメアド交換だと…!何それ嬉しい!夢落ちじゃないよね、大丈夫だよね。 「あ、ダメだったかな」 『そんなことない!アド、交換したいです!』 「そっか、ありがとう。じゃあコレ、オレのアドなんだけど」 沢田くんに渡された紙にはアドレスが書かれていた。おおお、沢田くんのアド、ゲットだぜ! 『ありがとう!じゃあ帰ったらすぐメールするね!』 「うん。それじゃあ、また明日ね」 『うん、ばいばい』 沢田くんに手を振り、教室で待ってくれている花のもとへ急ぐ。小さな出来事だけど花に報告したい。 ああ、やっぱり勇気を出してお礼言って良かった。沢田くんのメアドがもらえるなんて幸せすぎる。帰ったらメールしないと。何て送ろう。無難に名前書いてこれからよろしくねでいいかな。今からドキドキしてきた。 『花!』 「おかえり」 『ただいま。あのね、沢田くんに改めてお礼言ってきた』 「そう。頑張ったじゃん」 『うん!それでね、沢田くんのメアドもらったんだ』 「良かったじゃん!アド教えてって言ったの?」 『ううん、沢田くんがメアド交換しようって言ってくれて。アドが書いてあった紙をくれたんだ』 「あんたそれ…良かったじゃない。脈有りね」 『なっ!それはないない!だってアドもらっただけだし!』 アドレス交換ってクラスメートなら男女間でもよくあるしね。沢田くんは別に特別な感情でくれたんじゃないんだと思う。ただのクラスメートだもん。あ、何か改めて考えると切ない。 「アド貰ったって、予め用意してあったんでしょ」 『え、うん。多分』 「ほらね、もう確実に脈有りじゃない」 『ん?』 「…まぁいいわ。これからも沢田と付き合えるよう頑張りなよ」 『うん、ありがとう。何かいつも相談乗ってもらってばかりでごめんね』 「何謝ってんのよ。嫌だったらあたしは聞かないし。それにあたしだって名前にたくさん相談のってもらってるしね。何より友達でしょ」 『花…!ありがとう!』 本当にあたしの周りは優しい人ばかりだ。自分でも理解してるくらいにネガティブなあたしを、嫌がることなく側にいてくれる周りの人達は本当に懐が深いです。ありがたい。 「じゃあ次の目標はデートね」 『えぇぇ!ハードル高いよ!』 「大丈夫よ。あんたならできる」 『いやいや、うー…。す、少しずつ頑張ってみる』 「その意気よ」 次なる目標はとってもハードルが高い。相当勇気をふり絞らないと…! でもまだ今は、今日の幸せな出来事に浸っていたいな。 次へのミッションはまたいずれ、ね。 (花、二人で遊びに行こうって誘うのは無理だからさ、何人かで遊びに行かない?) (んー、そうね…。じゃあ沢田に牛柄のシャツの人誘ってもらおうかしら) (あ、例の花の好きな人?あたしも見てみたい) (よし、じゃあ4人で遊び行こっか) (うん!) (じゃあまずは沢田誘わないとね。ファイト) (あ、うー…。が、頑張るよ) (あたしの恋もかかってるからね、よろしく) (プレッシャー…!) ――― コレ、見方によっては花夢にもなる気がする。 2013.03.30 |