シリーズ

□ツっくん
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今日は一年に一の大イベント。いや、大体のイベントがそうだが。まぁ、それは置いといて。
男子も女子もどこか落ち着きがなくソワソワしている。女の子達は〈いつ渡す〉やら〈受け取ってくれるかな〉などの会話で盛り上がる。男の子達も〈紙袋持って来たんだ〉とか〈母さん以外から貰いてぇ〉だとかで暑苦げふん、盛り上がっている。
普段は生徒が穏やか(?)に過ごす学校も今日ばかりは戦場と化す。
そう、それがバレンタインデー。
今日のために何度も練習してようやく成功させた本命チョコを気になるあの子にプレゼントしちゃおうぜ、な乙女で学校は熱い。いやはや皆朝から元気だね。あたしはもうこの熱気にやられて疲れたよ。女子こえー。あ、あたしも女子だ。

「おはよう、名前ちゃん」
『あぁ、おはよ沢田』

うん?いつも一緒の二人がいないじゃないか。あの沢田を取り巻く対照的な二人が。

「二人はチョコもらってて動けないから、先に来たんだ」

不思議そうにしているあたしに気付いた沢田が、苦笑いしながら教えてくれた。そうか、二人ともモテるもんね。きっと沢田は女の子達に押し退けられたんだろうな。可哀想に。獄寺が沢田を追いかけて来れないぐらいだからそうとう凄まじかったんだろう。恋する乙女恐るべし。

「何か名前ちゃんグッタリしてない?」
『バレンタインの脅威にやられたのさ』
「脅威って…。……名前ちゃんは誰かにあげないの?」
『友達にはもう渡したよ』
「いや、そうじゃなくて。その、男子に」
『何、欲しいの?』
「えっ!いや、その…」

突然慌て始める沢田。あぁ、うん。そりゃ困るよね。あたしなんかにそんなこと言われても、いらねぇよってなるよね。分かってるー。

『ごめんごめん、冗談だよ』
「え、あ……」
『沢田は京子からのチョコが欲しいんだよね』
「なっ!?」
『ほんとに分かりやすいな君は』

うん、やっぱりあたしの出る幕ないわ。京子可愛いもん。そりゃ沢田だけに限らず、フリーの男子なら学校のマドンナから貰いたいよな。くっ、切ないぜこのやろう。

「ちがっ!」
『うんうん、説得力ないよ』
「そんな、」
『あ、そろそろ先生来るんじゃない?ほら、沢田も座りなよ』

でないとあたしのガラスのハートが砕けちゃうからさ。そりゃもう風にのっていけるくらい粉々に。

「でも、」

なんだよ、そんな弁解しようとしなくてもいいじゃん。京子の事好きなんでしょ?うん、知ってる。知ってるからさ、隠さないでいいのに。ほら、そんな寂しげな顔しないで。あたし馬鹿だから、もしかして本当に京子のこと恋愛対象に思ってないのかな、って勘違いしちゃうから。そんなこと絶対ないのに期待しちゃうから。だから速やかに席ついてよ。涙腺緩むじゃんか。

「だからね、」
『あー、ごめん沢田。あたしちょっと保健室行ってくるわ』
「え、大丈夫?」
『微妙かな。悪いけど先生に言っといてくれ』
「オレもついて、」
『いい!じゃあ言っといてね、よろしく』

沢田が最後に喋ろうとしてたけどそれどころじゃない。涙腺崩壊寸前だもの。このまま喋ってたら危険だ。
涙が零れる前に急いで廊下に出る。よし、ギリギリセーフだね。あと二秒遅れてたらアウトだったよ、うん。
……あーあ、涙止まらないな。涙って自分の意志で止められないから困る。もうチャイムなるから廊下には人いないけど、風紀委員に見つかったらめんどくさいし早く保健室行こうっと。



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