「六道くん、チョコ作ったの」 「クフフ、ありがとうございます」 「六道くん、甘いの大丈夫?」 「えぇ、むしろ大好きですよ」 『……』 塵となって消えてしまえばいいのに。あ、女の子の方じゃなくて、沢山のチョコを持ってこっち見てくる腐れパイナポーの方ね。何だアイツは。ニヤニヤしやがって。……うわ、こっち来たよ。ニヤニヤしながらくるなよ気持ち悪い。 「名前、見てください。こんなにチョコを貰いました」 『よかったな』 「羨ましいですか?」 『いや別に』 「クフフ、強がらずとも、〈骸くん、僕にもチョコ一つ恵んでください〉って言ったら分けてあげますよ」 『いらねーよ』 恐らくこの腹立つ言い方は、俺にヤキモチを妬かせたいがためなんだろう。可愛くない愛情表現である。それに残念だが俺はまったく嫉妬なんてしてない。好かれている自信があるからね。 「おやおや、不貞腐れてるのですか」 『違う』 まぁ、一つ怒っていることを挙げるなら、女の子が一生懸命作ったチョコを他人にあげようとしてることに対しての怒りだな。頑張って骸のために作った女の子の気持ち考えろって。 「まったく、チョコを貰えなかったからって不貞腐れないでください」 『だから違うって。それにチョコなら貰ってるし』 「あぁ、母親からですか」 『……俺のロッカーの中見てきたら』 「見栄はらなくて良いんですよ」 骸は俺に哀れんだ視線を送りながらロッカーに近付き……。 ―ガタン ドサドサドサドサ 開けた。中からは俺が貰ったチョコが詰め込まれていたが、開けたことで雪崩れてきた。 「……」 『ちゃんとロッカーにチョコ戻しといてね』 朝、チョコをロッカーに収めるの大変だったんだぞ。今はもう放課後だから持って帰らないといけないけど、入れ物がないからひとまずロッカーに戻しとく。 「クフフ。少し名前を侮っていました。しかし、僕の方が多いです」 『あーそう』 「クッハー!悔しいんですね」 嬉しそうにしてるとこ悪いけど悔しくねぇよ。というか、お前は俺が悔しがってるというより嫉妬してるって思ってるんだろうけど。どちらにしても違うが。 『別に?つか、こういうのって数じゃないじゃん』 「負け犬の遠吠えですか。哀れですね」 見下すような骸の視線に少しばかり苛っとした。間違えた。少しじゃなく大分苛々した。なんだコイツ。やっぱ可愛くない愛情表現。いや、ここまでくると愛情表現なのかも怪しい。ただ、とりあえず苛々したのでやり返そうと思う。 『…ん』 「何ですか、鞄なんか渡してきて。そんなに僕が貰ったチョコが欲しいんですか?クフフ、仕方ないですねぇ。恵んであげま、」 『欲しいなんて言ってないし。それにもう鞄の中入んないだろ』 俺の鞄を開けた途端、骸の顔が歪む。ふはは、やられたらやり返せがモットーだからな。チョコがぎっしり入っている鞄を骸に見せてやった。うん、満足。ガキっぽいって?しょうがないよ、苛々したんだもん。 「あなたは嫌な男だ」 『お、奇遇だね。俺もお前のことそう思ってたところだよ』 「……そんなこと言ってると本め、」 「名前!!」 「……ボンゴレ」 『おーツナ、どした?』 突然教室にやって来た訪問者。彼は黒曜の生徒ではないのだが。一体何があった。敵でも現われてファミリーの召集がかかったのだろうか。 「あ、今日バレンタインだから。これ京子ちゃんとハルから」 『あ、なるほど。さんきゅ。ホワイトデー楽しみにしといてって伝えといて』 「うん、分かった。あとこれは、おっ、オレからなんだけど」 『え、俺にか?』 まさかツナから貰えるとは思ってなかった。これはツナが俺のために作ってくれたのだろうか。それともファミリー全員なのか。あ、そうすると骸にも渡すことになるから違うか。ならやっぱ俺のために? 「うん、あんまし上手く出来なかったけど。…あっ、嫌ならいいんだ!!」 『嫌なわけないじゃん。ありがと、大切に食べるな』 「うん!」 『ツナもホワイトデー楽しみにしといてな(ちゅ』 「なっ!!」 「なあぁぁ!!おおおオレそろそろ帰るね、じゃっ!」 『ん、気をつけて帰れよー』 こんな荒れてる黒曜中にチョコを届けに来てくれるなんて、ツナ頑張ったんだろうな。てか俺のためにって、何だあの可愛い生き物は。しかも、ほっぺにちゅうしただけであの反応って。小動物みたいだな。雲雀がそう呼ぶのも分かるわ。 「……」 『あ、そういえば骸さっき何言いかけてた?』 「……何でもないです」 『えー、何でもなくはないでしょ』 「あなたには関係のない事です」 『俺に話しかけたのに?』 「……本当は分かっているのでしょう」 『いや、全く』 なーんて。バッチリ分かってるよ。骸のことは、大切な人のことは、何でもね。でも言ってやんない。骸の口から聞きたいのだ。 「本当に嫌な男だ」 『それは何に対して?俺がツナにチューしたこと?』 「……」 『図星ー。骸はヤキモチやいてたんだー』 「そんなわけないでしょう。ボンゴレ相手に嫉妬するなんて」 『ふーん』 骸をこうやってからかってる俺は、自分でも意地が悪いと思う。でも好きな子ほど苛めたくなるじゃないか。あれ?捻くれてるのか俺は。 「…嫉妬なんかししませんよ。あなたが僕から離れられないのは知ってますから」 『ほー、自信満々だね』 「本当のことでしょう」 『いや、ぶっちゃけ離れられないのは骸の方じゃないの?』 「は、そんなわけな、」 『嘘。だって俺が他の人にチューしたりするのが嫌なら俺から離れればいいじゃん。でも骸は離れない。それって俺に依存してるからだろ』 「まったく…勘違いも甚だしい。あなたは顔が広いから近くにいれば上手く使える。離れないのはたったそれだけのことです」 『…ふーん、そう』 骸ってズバズバ言うよね。俺が傷つかないとでも思ってるのか。俺だって人並みに傷つくぞ。Sは硝子のハートなんだからな!優しく扱え!骸は、ツンデレのツンの部分が多過ぎる。これは深刻な問題だな。 「ただ…」 『ん?』 「あなたには他の人間よりは興味があるので…。当分そばに居ます。まぁ、あくまで都合がいいからですけど」 『へいへーい』 これはデレか、デレなのか。いやでも大分ツンツンしてる気もするぞ。……微デレだな、うん。それでも貴重なデレだけど。 「それと、これ」 『チョコ…』 「先程渡すつもりでしたがボンゴレに邪魔されてしまいましたからね」 あぁ、恐らく本命って言おうとしてた時か。てか、やっぱツナのこと地味に根に持ってんだ。骸って執念深いしな。あまりツナと仲もよろしくないし。でもまぁ一番の理由は、骸が俺を好きすぎるが故の嫉妬なんだろう。自惚れ上等。 『やっぱり骸、俺に依存中?』 「違います。これは餌づけ、ですかね」 『俺は動物かよ』 「似たようなものでしょう」 酷いやつだな。確かに人間も動物ではあるが、もちろん骸が言いたいのはそういうことではない。ふん、そんなにツンツンしてるんだったらチューしてやんないからな。せっかく骸にはほっぺじゃないところにしてやろうと思ったのに。いいよいいよー。骸のことなんてもう知らん。骸なんてほっといて、ありがたくチョコをいただきますよ。…いや、これは骸に感謝してるわけじゃなくてチョコに罪はないからであって。ああダメだ。自分でわけ分かんなくなってる。…無心になれ俺。そうだチョコ食べよう。 ―パク 『…うまい』 骸が作ったんだよ、な。男のくせに器用な奴だ。オトメンか。チラっと骸を見たら少し嬉しそうな顔をしてる。……ちょっと今ときめいた俺は末期だ。でも嫌じゃない。…うん、末期。でも俺だけドキドキしてるのは何か負けた気がする。どうにかして骸もときめかしてやろうぞ。何かいいアイデア…。……。あ、そうだ。 『骸さ、チョコ好きなんだよな』 「それが何か」 『……(ちゅ』 「……!」 骸は驚いて固まっていたが、慌ててすぐに離れようとする。残念、離さないよ。 「…っ。……ふっ…」 骸の頭を逃げられないよう押さえて舌をいれ…。自分の食べていたチョコを骸の口の中に移してから、ゆっくりと唇を離す。 『ん…。チョコ、美味しかった?』 「はぁっ…。美味しかった?じゃないでしょう!何であんな、」 『そんなの好きだからに決まってんじゃん』 まぁ、悔しかったっていうのも勿論あるけど。でもその悔しさも骸のことを好きだから生まれたものだし。さっき勝手に心の中で不貞腐れてチューしてやんないとか思ったけど、それは俺のほうが絶えれないみたい。いつだって俺は骸に触れてたいからね。…万年発情期か。いや、断じて違うぞ。きっとこんな風に思うのは、実は俺の方が骸に依存してるからだったり。…でも骸も相当依存してくれてるしな。 『どっこいどっこい、ってところか』 「何がですか」 『いや、何でもねぇ…。あ、』 「はい?」 『来年も楽しみにしてるから。本命チョコ』 「なっ!」 『ちゃんと俺もホワイトデーに本命をお返しするからな』 「…ふん。当たり前です。お返しは三倍ですからね」 『三倍といわず、何百倍にでもして愛情を返してやるから楽しみにしとけ』 (そんな重そうな愛は結構です) (またまた。嬉しいくせに) (巡ります?) (照れ隠しか) (永遠の悪夢をお見せしましょうか?) (…やっぱデレ率増やそうぜ) 2011.02.14 ――― これでも頑張って編集したんですけどね。ものすごく不完全燃焼ネ。 |