シリーズ

□雲雀さん
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「これ、あげる。…残したら咬み殺すから」

おかしいな、明日の天気は晴れって聞いたのに。雨、いや槍が降るんじゃないだろうか。まさかホワイトデーに雲雀さん手作りのお菓子がもらえるなんて、誰が予想出来たでしょうか。群れを好まず強き者と戦う事を好む、孤高の浮雲と思われていた雲雀さんがオトメンだったなんて。

「別に僕オトメンじゃないんだけど」

心を読まれてしまった。これがあの読心術とやらですか。まさか身近に使える人がいるなんて。貴重な体験ができました。心が見透かされる体験なんてあんま嬉しくないけどね。

「名前、さっきから全部しゃべってるよ」

なんという失態!自ら心の内を明かしていたなんて。恥ずかしいことこのうえないぜ畜生。

「ねぇ、そんなことより食べないの」
『え、帰ってからじゃ、』
「ダメ、今」
『えぇぇ』
「いいから早く」
『…はい』

帰ってからゆっくり食べようと思ったんだけどな。そう思いながらも雲雀さんに逆らうことはできないので、今食べることにする。赤いリボンの端を引っ張り可愛らしい包みを開けると、中にはカップケーキが入っていた。

『いただきます』

……。ジーっと見られたら食べれない。いやまぁ、食べにくいってだけで食べるけど。パクりと一口食べ、むぐむぐと咀嚼する。

『うまっ!』

どうしよう、あたしが作るのより美味しいんだけど。雲雀さんに女子力負けてしまったよ女子なのに。超切ない。

『雲雀さん、めちゃくちゃ美味しいです』
「そう…」

どうやったらこんな美味しくできるんだろう。やっぱり雲雀さんオトメンなのか。そうなのか。それならしょうがない。

「だからオトメンじゃないって」
『またか!』

ちくしょうこの口め、ベラベラとしゃべりやがって。自覚症状がないのが怖いわ。

「教えてあげるよ」
『はい?なんですか突然。勝手に思った事をベラベラ喋るこの口の止め方ですか?』
「そんなこと僕に出来るわけないだろう。それとも喋れないぐらいに咬み殺してあげようか」
『あ、いえ、遠慮しときます』
「そう、残念」

えぇぇぇ。残念て、ちょ。喋れないぐらいにぐっちゃぐちゃとかまじ怖い、容赦ない。嫌だよそんなん。普通には喋りたいもの。

「で、どうするの」
『いや、だから咬み殺さないでください』
「そっちじゃないよ」

じゃあどっちだ。この他に選択肢があっただろうか?……いや、なかったぞ。

「美味しいケーキの作り方教えて欲しいんでしょ」
『あ、そっちですか』

そういえばあたし喋ってたんだよね。その選択肢があるのは盲点だったわ。てか普通気付かないよ。

『教えてもらってもいいんですか』
「だからさっきから良いって言ってるでしょ」
『じゃあお願いします』
「うん それじゃあ行こうか」
『調理室ですか?』
「何言ってるの、僕の家に決まってるでしょ」

いきなりすぎる…。いきなりすぎる…!雲雀さん家って、そんな…。なんか照れるとか言うより恐れ多いよ。

『あの、調理室じゃダメですかね』
「ダメだよ 僕のエプロンとか材料とか家にあるんだから」

エ プ ロ ン!……そうでした。雲雀さんはオトメンでしたね。そりゃあマイエプロンがないと嫌ですよね分かります。

「ほら、早く。後ろ乗って」
『え、これバイク…。雲雀さん免許は…』
「…はい、ヘルメット」

無免許!まぁでもそうですよね中学生ですものね!てかそれなら乗りたくないね!寿命が縮まる、間違いない!いや、それならまだいいが御陀仏になったらどうしてくれるんだ!

『あ、歩いて行きません?』
「そんな恐がらなくても大丈夫だよ。今まで事故したことないし」

今までは今までであって、今日この時は何があるか分かんないでしょう。今まで無事故だからってこれからも事故らないなんて保証にはならないのですよ雲雀さん。

「…遅い」

―グイッ

『うわっ』
「しっかり掴まっててね」
『え、ちょ…わああああ!』


(意識が飛びかけたころにようやく着いた雲雀さん家)
(でもほっとしたのもつかの間、雲雀さん家の大きさに驚いてまた飛ぶかと…)
(更にとどめは雲雀さんのMyエプロンが黒のフリフリで、これがまた妙に似合ってたんだ)
(雲雀さんの新たな一面を見れた一生の思い出に残るホワイトデーでした)



2011.03.30


 

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