「綱吉、好きが止まらないよ」 「うん、ありがとう」 「結婚式はいつにする?ジューンブライドで6月?それともいい夫婦の日で11月22日?あの壇蜜もオードリー若林もいい夫婦の日に入籍だよ」 「しないから」 「ちょっと待ってよ、夕月夜に花野で誓ったあの言葉は嘘だったの?」 「与謝野晶子か何かなの?短歌でも詠んじゃう勢いだよ」 俺の横でおよよ、と泣いたふりをしているのは隣りのクラスの与謝野晶子。ではなくなまえ。こんなダメツナであるオレを好いてくれているうちの1人。こう言うと俺もモテているみたいだ。いや実際ぼちぼちそういうとこある。モッテモテとまではいかないし、山本や獄寺くんに埋もれて気づかれないけど、ハルも俺のこと好いてくれてるし?なまえも俺のこと大好きだし?満更モテないわけでもない。 正直いうと好意を抱かれて嬉しくないわけがない。窓ガラスに反射して映る自分の姿を見ながら頻繁に髪型直すくらいには気にしてるし嬉しい。みんなもするだろ。 けど、ハルといい、どうして俺を好いてくれる人はアピールが激しいんだろう。もっとこう、恥じらいやお淑やかさを持ってアピールしてくれてもいいと思うんだ。靴箱の中にラブレターとかいれてさ。わがまま言えた義理じゃないけど。ちょっとベタな展開も憧れる。 「え、今私以外の女のことを考えてたよね?え?」 「こわ!なんで分かるの?超直感目覚めちゃったのかよ」 「超直感ってなんだよ、女の勘だよ。え、そういうこと?よくわからんけど、妻として旦那の浮気を見抜く直感は目覚めてるよ」 「妻でもないし俺も夫ではないしその直感は根本が間違ってるよ!」 いつもこんなやり取りをしている。いつだったか、突然なまえに結婚を申し込まれ丁重に断った日からずっと繰り返されるやり取り。ていうか交際の申し込みじゃなくて結婚というところがなまえらしい。法に縛り付けて絶対逃さない!!って熱意がひしひしと伝わってくるよ。とって食われそう。 「まったく、綱吉はいつになったら私の愛を受け入れてくれるの?」 「未定かな」 「でたらめ言わないでよ、こちとら寝込み襲って既成事実作るのも世話ないのよ」 「犯罪だよ!」 そういうところだよ!まっすぐな愛は伝わるけど、まっすぐすぎて俺の身が危ないよ。威厳もくそもない。これでも俺、マフィアのドン候補なんだけど。いや、ならないけどね。一応その肩書きもあるからさ、俺。いや、ならないって、こっちみんなリボーン。 「将来を想像してみてよ。教会で2人並ぶ美男美女の夫婦。月日は流れ二人の間に小さな影が。よく見ると二人によく似たかわいいお子。その二人とは綱吉と私。え、幸せしかないけど大丈夫かな、世界平和が生まれる」 「世界背負うの重たすぎるよ」 確かになまえはかわいい。が、俺は美男というにはいささか顔面偏差値が足らないように思う。謙虚だから、俺。まあ、祖先はイタリアンマフィアだから、イタリアの血が流れてる俺の顔面の未来は明るいかもしれないけど。なんならプリーモに似てる俺は将来有望かもしれないけど。俺は謙虚だから。 俺だってたまには調子にのることもある。リボーンこっち見るなって。 そういえば根本的なところをいつも見落としていたのだが、今まで毎日結婚を申し込まれてるけど、その考えに至った理由を何だかんだ、1度も聞いたことがない。学校でダメツナと言われる俺のことを好きだと言う人はそうそういない。ハルは別の学校だし、そもそも死ぬ気のオレに助けられたのがきっかけだが、なまえにはそんな絡みはない。だから普通は俺なんかより獄寺くんや山本のことを好きになるはず。なまえの容姿なら俺でなくてももっとかっこいい男を狙えたはずだ。妥協するにしても俺じゃなくてもっと良い奴がいただろうに。突然のネガティブに俺自身もびっくり。 「ねぇ、そもそもなんでそんなに俺に執着するの?」 「まじで言ってる?あんなに運命的な出会いを忘れたっていうの??」 「突然結婚を申し込みに来た時?」 「それは運命的でなく、下手したら恐怖体験なのよ。自分で言うのもなんだけど」 自覚しながらそんな体験させるなんてサイコパスなの?六道骸なの?おいやめなよ俺、ファンに殺されるぞ。その前に骸が直々に来そうだ。あいつはそういうやつ。 一生懸命うんうん考えてみるが、どうにも思い出せない。そもそもそんな記憶存在しないのでは。俺からしたらある日突然なまえに結婚しようと言われたわけだから、きっかけなんて……。 「入学式の日のこと、覚えてない?」 「入学式?いや……」 「私が落としたハンカチ、拾ってくれたじゃない」 「思ったよりベターだ!」 「ベターでいいじゃない、運命的でしょ」 ちょっと申し訳ないが、やっぱり覚えてない。し、きっと目の前でハンカチ落とすのをみたら、俺じゃなくてもきっとハンカチを拾ってあげるだろう。運命的とはいいがたいよ。 もしかしてなまえって惚れっぽいんじゃ。 「ツナの考えてることが手に取るようにわかるわ、全然運命的じゃないしそれなら誰でもいいんじゃないの?でしょ?」 「あらかたあってるけどやっぱり超直感目覚めたの?もうなまえがボンゴレのドンになっちゃう?」 「何言ってるのか1つも理解できないけど、ツナに選ばれし役職ならなんだろうが喜んで」 「やめてよ重いよ」 なまえはハンカチ拾ってもらっただけで、自分の人生をひょいひょい預けちゃうの?マフィアのドンだよ?俺なら嫌だ。現にしぶってる。もちろんなまえは俺がマフィアなのも10代目なのも知らないけれど。よく俺の近くにいて銃や流暢に話す赤ん坊が出てきても変に思わないよな。まさか俺の知らないところで実は調べ尽くしてるのでは。なまえならやりかねない。 「とにかく、それだけで好きになったんじゃないのよ。あくまであの日は私がツナを気にかけるきっかけ。もちろん一目惚れもあるけど、それだけじゃないの」 「ひ、一目惚れ?!」 「他の大事な言葉はまるっとふっとんじゃったの??」 ますますわけがわからない。一目惚れなんて、俺のどこがよかったんだ。俺の頭、スーパーサイア人だし。強そうではあるよな。頭だけ見たらな。うっかりかめはめ波とか打てそうな雰囲気あるよ。 それに気にかけるきっかけって、そこから俺のことを気にかけて見ていたとして、いいところなんてあったか?運動も勉強も情けない結果を出すダメツナだぞ。自分下げが止まらない。 「惚れるところなんてあった?」 「まず第一に顔整ってる。お母様も綺麗だし、そっくりだよツナ」 「あ、ありがとう」 「次に優しく強い。どんなに馬鹿にされてもツナはその人のこと馬鹿にしないでしょ?それってなかなかできないこと。あと困った人を助けてあげること多いよね。それに親戚の子?ちびっこたちの面倒もよく見てる」 「あ、えと、よく見てくれてるんだね」 褒め殺しだ!こんなに褒められると思ってなかったし、褒められ慣れてないからどう返事していいかわからない。けど、なまえは俺のことよく見てくれてたんだなあ。リボーンと会う前の俺は本当に黒歴史だったんだけど、その時から想ってくれていて、俺のことも尊重してくれていたのか。急に照れてきた。ちょろいぞ俺。こんなんでマフィアのドンなんてつとまるのかな。いや、ならないけどね、リボーン。 「とにかくこれでツナのこと好きになったきっかけも、好きなところも分かったでしょ?まだまだ好きなところはあるけどね。一度に全部言うのももったいないから、ここぞと言う時に伝えていくわ」 「まだあるの?!」 「嬉しいくせに」 そう言ってにやりと笑うなまえ悔しいかな、やはりここでどきりと胸が高鳴ってしまうのが俺のちょろいポイント。なまえのほうがよっぽどマフィアのドンに向いてるよ。 「そうとわかれば安心してボスの妻にできるな」 「なっ!リボーン、俺はボスにはならないって言ってるだろ!」 「まって、否定するのはそこなのね?なんのボスかはわからないけどとにかく否定するのはそこなのね!!」 「なまえこわいよ、どうしたの」 「いいえ、いいのよ、ありがとう。とにかく今日も大好きよツナ!未来の妻は花嫁修行でもしてくるね、また明日!」 そう言うとなぜか顔を赤らめたなまえは、走って帰路についた。なんなんだ急に。もしかしてボスって単語になんとなく正体気づいた?勘の鋭いなまえのことだから、なくはない。 「お前の超直感も対恋愛においては相当ポンコツだな」 「なっ、失礼だな!」 次の日、やたらと未来の妻アピールをしてくるようになったなまえの様子に、俺となまえが並盛中公認の仲になってしまうことをこの時の俺は知らない。そして満更でもないなんて思ってしまう俺がいることも、まだ知らない。 結婚しましょっ ――― |