「なまえちゃん、ツナくんと別れてくれる?」 『え?』 放課後の屋上。人気はない。みんな部活だったり帰っていたりしているから当然なのだが。 そんな所にあたしとクラスのマドンナ、笹川京子はいる。その理由は笹川京子に誘われ二つ返事で了承したという実に軽いものであったが、呼ばれた内容は想像していなかったほどのものであった。別れろとか超ヘビーな話じゃないか。 笹川京子が別れろと言うからには、あたしはツナこと沢田綱吉と付き合っているわけで。お互い両想いなわけで。別れろと言われて、はい分かりましたと返事出来るようなものではない。 恐らく、笹川京子は綱吉が好きなのだろう。だからあたしという存在が邪魔なのだ。 笹川京子は女であるあたしから見ても群を抜いて可愛らしい。告白されたらほとんどの人が喜んで受け入れるだろう。ただ綱吉の彼女ポジションにはあたしがいる。故に笹川京子の告白成功率は低い。成功率をあげるためにはあたしが別れるのが確実であるので、このようなことをするに至ったのだろう。だがしかし別れるつもりは毛頭ない。 『笹川さん、悪いけどあたしは別れるつもりはないよ』 「いいの?私を敵にまわして」 脅しときたか。笹川京子を敵にまわすということは、即ちクラスメートを敵にまわすということになる。それはこれからの学校生活を考えると回避したいが、それよりも愛している綱吉を失う方があたしには耐えられない。 『いいよ。あたしは別に綱吉がいれば他が敵になっても』 「そのツナくんも皆に仲間外れにされちゃうよ」 『は?』 …それは綱吉が笹川京子を選ばなかったことに対する苛めが始まる、ということなのだろうか。 卑怯だ、綱吉を巻き込むだなんて。意地でも別れさせる気か。 「ね、なまえちゃん。どうするのかな?」 笑顔で聞いてくる笹川京子はやはり可愛らしい。でも問いかけてくる内容は残念ながら可愛らしいものではない。因みにオーラは真っ黒だ。 『笹川さん、もしあたしと綱吉が別れても笹川さんの恋がうまくいくとは限らないよ。綱吉は別れてすぐに他の人と付き合うような子じゃないから』 綱吉は心優しい男の子だ。別れてすぐ告白されても受け入れないだろう。 まぁ笹川京子が長期戦に持ち込むというなら話は別だが。 「なまえちゃん、勘違いしてるよ」 『勘違い?』 何、綱吉は別れてすぐに他の人と付き合うような子だと?そんなことない。綱吉のことなら笹川京子より分かってるつもりだ。 『綱吉は優しい子だよ。それが分からないなんて笹川さんは綱吉のこと分かってない』 「うん、ツナくんのことはなまえちゃんほど理解してないしするつもりもないよ」 理解するつもりもないって…。まさか綱吉とは遊びだから知る必要がないってこと?もし本当にそうなら許せない。 「だって私はなまえちゃんのことだけ知れればいいの」 『え…?』 あたし?あたしのこと知って笹川京子に何の利益がある。弱みを握るつもりか。いやしかしもうすでに脅されているためこれ以上の弱みは必要ないだろう。となるといよいよ分からなくなってきたぞ。 『笹川さん、いまいち言ってることが分かんないんだけど』 「私はツナくんじゃなくてなまえちゃんが好きなの」 …ん?笹川京子があたしを好きだって?はっはっは、そんなまさか。もしかして罠?あぁなるほど。 「私の方がツナくんより先になまえちゃんのこと好きだったんだよ」 『嘘は良くないよ。本当は綱吉が好きなんでしょう』 「本当だよ。信じれないんだったら態度で示してあげる」 チュッ 『!』 笹川京子の愛らしい顔が近付いてきて唇が重なる。キ、ス、されてるよえェェェェ! 『な、!!…ん……っふぅ…!』 なにするのさ、と言おうと口を開いた瞬間、笹川京子の舌があたしの口内に侵入してきて言葉は遮られた。 ちょ、待て。何だ、何が起きているんだ。 『…はぁ…っん…』 どちらのとも分からない唾液があたしの口端から零れる。 キスは初めてではないが綱吉以外とはしたことないし突然のことなため戸惑う。…少し訂正。ディープキスは初めて。綱吉とは触れるだけのソフトキスだったから。初々しいね。自分で言うのもアレだけどさ。 ていうか初ディープキスのお相手が彼氏ではなくクラスメートだなんて…。相手が相手なために舌を噛んでやることもできない。更に押し返そうにも腕を掴まれているため無理。そしてそろそろ息が…。 ―ガチャ 「あれ、なまえ…?京子ちゃ、あ、えぇぇぇ!?」 『…ふぁっ』 綱吉の声がしてからようやく離される唇。酸欠になりかけてたあたしは一瞬目眩がしたためその場に座りこんだ。 「なまえ!大丈夫?!」 『ん…』 こちらへ駆け寄ってきた綱吉が、心配そうにあたしの顔を覗き込む。 大丈夫というのは体力的なものか、はたまた精神的なものか。どちらにしても大丈夫ではない。 「…見られちゃったからにはもう堂々とさせてもらおうかな。…ツナくん、今のは宣戦布告だよ。なまえちゃんは私が奪ってみせるね」 とんでもない発言をする笹川京子。綱吉は驚いていたがすぐにあたしを抱きしめ、絶対に渡さないと言い放った。そんな綱吉にきゅーんだよ。 「ふふ、私はなまえちゃんを手に入れるためなら手段は選ばないよ」 これからを不安にさせる言葉を告げた笹川京子は、やはり可愛らしい笑顔で微笑んでいるのだった。 笑顔にこめられた思惑 (次の日から異常に過保護になった綱吉) (それと異常に積極的になった笹川京子) (朝起きてから家に帰るまで少しも離れてくれない) (帰宅後も携帯がひっきりなしに鳴る。ホラーか) (そんな2人の行動であたしが発狂するのも時間の問題だろう) ――― 何故凪莉の書く京子ちゃんはブラックなんだろう…。 いつか真っ白な京子ちゃんを書きたい。 2012.01.20 |