コーヒー屋でバイトを始めて4か月。 「財布忘れたからツケでエスプレッソ」 ませガキの来店に初めて出くわしました。 ツケでコーヒーを飲もうとしてるこの赤ん坊、知ってるぞ。と言っても間接的にだが。バイトの先輩がこの間愚痴ってた奴だきっと。先輩曰く、財布を忘れたからツケにしてくれと頼まれ、迷子なら交番連れていってあげると言ったら玩具の拳銃で血の海にするぞ的なことを言われたらしい。先輩からその話を聞いた時は、最近のガキはいろんな意味で怖いな先輩お疲れ様です、くらいにしか思っていなかったがまさか自分の時にも来るなんて。ツイてないなぁ。 『ぼく、パパかママはどうしたの。後から来るのかな?』 「オレ1人だぞ。だから財布忘れたって言ってるだろうが。親が来るなら普通そんなこと言わねぇだろ」 何様のつもりだこのガキは。余計な一言が癪にさわる。可愛げのないガキめ。 『一度お家に帰ってパパかママとまた来たらどうかな?』 「しつけぇぞ。ツケで頼むって言ってんだろ」 ぬあぁぁぁ!生意気!子供じゃなかったらキレてるところだよ。流石に子供相手にムキになるのは恥ずかしい。平常心で対応しないと。生意気な子供の戯言くらいで感情を高ぶらせてはいけない。 『あのねぼく、ツケで飲むのは大きくなってからにしようね』 「…いい加減にしねぇと撃つぞ」 チャキ》 でた。これか先輩の言ってた玩具の拳銃は。まったく、最近のがきんちょはドラマやサスペンスなどの見すぎじゃないだろうか。子供はMHKでおばあちゃんと一緒とかを見て、ピュアな心を育てるものじゃないの。少なくともあたしはそうだったぞ。 『わぁ怖い。お姉ちゃんびっくりだ。でもそんな危ないものを人に向けるとパパとママに怒られ、』 パンッ》 ……。ん?……。んー?何か今飛んできた気がする。石ころでも飛んできたのかな。いや、どうやって。 『ぼく、今何したのかな。あんまりお店で騒ぐとお姉ちゃん怒るよ』 「てめぇがさっさとしねぇからだ」 むっかぁ。年上に向かって何て言葉遣いだ。今更だが。 『もうパパとママに連絡するよ!それともおまわりさんの所に行く?』 「そんなことをしてみろ。あっという間に血の海だぞ」 『血の海の意味知ってる?ぼくには無理なことだよ。できるものならやってみたら』 うん、大人気ないよあたし。でも我慢の限界だったんだもの。 ズガンッ》 「もう一度言ってみろ」 …い、今、撃った?いやそんなまさか。先輩も玩具の拳銃って言ってたし、何より日本には銃や刀を所持してはいけないって法律がある。ていうかそれ以前にこんな小さい子が本物を持ってるはずがない。ないんだけど…。じゃああたしの顔の横を通り過ぎたものは何だ。そして後ろの大きなメニュー表に穴が開いたのは何故だ。 「おい」 『…ナ、ナンデゴザイマショー』 「エスプレッソ、ツケで頼んでもいいか」 『モチロンデゴザイマス』 あんなにツケはダメだと言っていたのにとうとう承諾してしまった。 でもまぁどうせ払ってくれないんだろうからあたしが負担しないといけないんだろうな。本当今日はツイてない。 先輩にあたしもませガキに会ったこと伝えよう。 そして教えてあげよう。玩具じゃなかった、と。 Unlucky day (後日、ませガキが訪れエスプレッソ代を払ってくれました) (ませガキは、またくるぞと一言残し帰っていきました) (…バイト変えよう) ――― バイト先の先輩は標的6に登場したコーヒー屋の店員さんです。 2012.02.05 |