ずっと側に居たなまえがオレの下を離れ他の奴と並んで歩いている。なまえは今までオレには見せてくれたことのない顔、女の顔でそいつに笑いかけてるんだ。 オレは何度その場所を望んだことか。女性としてのなまえの側に立ちたかった。 決して叶うことのない願い。決して届くことのない想い。それは残酷にも生まれた時から決まってたんだ。 なまえは知らないよな。オレがこんなにもなまえを1人の女性として愛し、求めていることを。 だってオレのこの想いは、胸の中に押し込められ続けて表に出ることなどなかったんだから。 本当は想いを伝えたかった。何度も言おうと思ったけど、まるで話し方を忘れたかのように言葉にすることができなかったんだ。この許されない想いを、なまえに拒絶されることを恐れて。 だから諦めようと努力した。いろんな女と交際をして、それなりのステップだって踏んだ。でも、なまえのことが頭の中から離れることはなくて、諦めるなんてことはとてもできなかった。オレの体や脳はなまえに支配されてるみたいだ。 それだけの愛を持っているのに、窮屈な枠組みの中にいたために叶えることはできなかった。 同じ日に生を受けたなまえは、誰よりも近すぎて、誰よりも遠すぎた。いつも一緒に居られたけれど、いつまでも一緒にいることはできないオレたち。双子という、家族という枠組みに居たがために。 だからオレは妙な枠組みに属さない奴が、なまえと肩を並べることができるそいつが、ひどく妬ましいんだ。 なぁ、もしそいつが居なかったらまだオレの側にいてくれるか?もし側に居てくれるんだったら、オレは迷わずそいつを殺してなまえを取り戻すだろう。 でもきっとそんなことをしてしまえば今まで通りのなまえは手に入らない。側に戻ってきてもなまえの気持ちは何処で彷徨ってるかも分からないそいつの魂に向けられるだろうから。そうじゃないんだ。そんな状態のなまえに戻ってきてほしいんじゃない。オレを1番に思ってくれてるなまえに戻ってきてほしいんだ。 そんな日は来ないのかな…。もう手遅れなのかな。 なぁ、オレにも笑顔を見せてくれよ。そいつに見せる以上の飛び切りの笑顔を。そいつと居ることで浮かぶ笑顔なんかじゃなくて。オレだけを想う、オレと居ることで浮かぶ笑顔を、見せてくれよ。 もうオレはなまえなしじゃ生きていけないくらい愛してるんだ。 『ツナ、ドレス姿どうかな?』 「すごく、綺麗だよ」 『ありがとう』 なまえ、なまえ。お願いだからそんな幸せそうに微笑まないでくれ。オレは嫉妬でおかしくなってしまいそうだ。 『それじゃあそろそろ行くね。また式場で』 「……あぁ」 オレに背を向けて歩きだすなまえに、祝福の言葉をかけることはできない。その背中に抱き付いて止めることもできない。 ああ、オレはこれから一生胸に蟠りを抱え生きていくのだろうか。 禁じられた想い (式で飛び交う祝福の言葉) (幸せそうに微笑むなまえ) (オレにとって拷問でしかないこの場所で) (誓いのキスをする2人) (汚い感情が渦巻くオレは) (きつく拳を握り締め) (過ちを犯しそうな自身を必死に抑えこんだ) ――― 切ないのが無性に書きたくなる時があるんだ。 2012.03.07 |