世の中にはたくさんの人間がいるのだから、その分様々な考えがあって当然だ。そう思っているから俺は別に偏見なんてもってない。同性愛だって本人等が幸せならそれでいいと思うし。だけどこれは俺が当事者じゃないから言える話であって。いや、別に偏見はないのだが驚きはする。というか今までクラスメートだと思っていた男子から突然の告白を受けて驚かない奴がいたら見てみたい。よほど肝の据わった奴か同族か。生憎俺はそんなでっかい肝なんぞ持ち合わせていないし、言い方はアレだが同族でもない。…この言い方だと偏見を持ってるように思われるかな。そんなつもりはないのだが。日本語って難しい。いや、英語だってからっきしできないが。…母国語くらい真面目に勉強しよう。うん。 「あの、返事、は…」 『え、あぁ』 おっといけない。驚きすぎて脳が現実逃避を始めていた。 俺はクラスメートの沢田に昼飯の誘いを受けた。そんなに話したことはなかったが別に断ることでもなかろうと、友達に昼飯を一緒に食えないことを伝えて待ち合わせの屋上へ向かった。そして他愛ない話をしながら昼飯を食ってる途中、告白されたのだ。それはもうナチュラルに。 「オレ、甘い卵焼きが好きなんだ」 『おー、気が合うな。俺も卵焼きは甘い派』 「だよね。あ、オレみょうじのことが好きなんだ」 『おー?…ん?』 って。告白だと気付くのに少し時間がかかったくらいだ。告白だと気付いてから冒頭の考えに至ると。で、今は返事だったか。えーっと…。 『俺さ、男だよ』 「うん、知ってるけど」 ですよねー。むしろ女だと思われてたらビックリするよ。俺のどの辺が女っぽかったのか小一時間は問い詰めたい。いや、そんなことしたら男としての尊厳がボロボロになる。 「やっぱり、男から告白なんて気持ち悪いよね」 『あ、いや、そんなつもりじゃ。つか俺、偏見は持ってないつもりだし』 「本当?」 『あぁ』 そう言うとホッとした顔をする沢田。やっぱ緊張するよな告白って。ましてや同性なのだからその緊張は計り知れないほどのものなんだろう。真剣に告白してくれたのだから、俺も適当に返事をしてはダメだな。 『俺さ、沢田のこと好きだよ。でもその好きは恋愛じゃなく友達としての好きなんだ。だから、ごめんな』 「嫌いじゃないんだね?」 『え、うん』 「じゃあ、お試し期間として一か月付き合ってくれないかな」 『…え?いやいや、え?』 お試し期間?確かに嫌いではないがそれはちょっと。どんなに時間を重ねても友達以上にはみれないと思うし。 『悪いけど、それはできな、』 「これ、何だと思う?」 『ん?』 沢田はポケットから数枚の写真を取り出した。その写真に写っているのは…。俺?え、俺!?しかもレパートリーが豊富で寝起きの写真から授業中の写真、お風呂に入ってる写真まである。全て隠し撮りであるが。…どうやって撮った! 「ここにあるのはほんの一部なんだけど」 『一部?これで?あと何枚持ってんだよ!怖いな!』 「ここ一年は撮ってるから数えきれないや。でさ、これバラまかれたくなかったら…ね」 にっこり笑った沢田。ただ目が据わっている。一年分の写真をバラまかれるとか何その羞恥プレイ。そんなこと言われたら断れないじゃないか。用意周到だなこのやろう。 『お試し期間、付き合ってやるよ』 「本当!嬉しいな。一か月間よろしくね」 よろしくしたくありませんが。今すぐ逃げ出したいですが。数十分前の俺、何故昼飯の誘い断らなかったよばかやろう。…まぁいい。一か月絶えれば、そう一か月さえ乗り切ればいいんだ。頑張れ俺。 『お試し期間、俺が沢田に恋愛的感情を抱かなかったらそれっきりだからな』 「うん、もちろん」 『脅迫もなしだ』 「大丈夫。オレだって男だから、その時は写真はもちろん、ネガも焼き捨てるよ」 本当に大丈夫だろうか。いや、今は信じるしかないな。 『絶対だからな』 「うん。でもこの約束は意味ないと思うんだ。一か月の間に、オレに惚れさせてやるからね」 ニヤッと笑った沢田にドキッとした。悪い意味で。俺はとんでもない奴に好かれたのではないか。とりあえず帰りたい。 この胸の高鳴りを俺は知らない (ていうか知りたくない。そして感じたくないよ、こんな悪寒!) (みょうじ、一緒に帰ろう) (あ、あぁ) (みょうじ、お前沢田とそんな仲良かったっけ?) (友よ、聞いてくれるな) (…沢田に弱みでも握られたか?) (…!この戦いが終わったら俺、お前と結婚するよ) (どうしたお前。因みにそれ死亡フラグだ) (…みょうじ?帰らないの?) (いいい今行く!じゃあな!) (あ、あぁ(まじで何があった)) ――― 凪莉は暑さにやられたようです。 因みに続きません。 2012.08.24 |