《昨日、午後7時頃、並盛町で女子中学生が何者かに腹部を刺される事件がありました。犯人はまだ見つかっていませんが、最近女子中学生を狙った同様の事件が多発していることから、警察は同一犯とみて捜査しています》 「怖いわねぇ。あんたも気をつけなさいよ。最近帰り遅いんだから」 「大丈夫だよ、防犯グッズもってるし。それじゃ、いってきます」 最近並盛町で起きている傷害事件。被害者は全員女子中学生。しかも並中の生徒。先週から起き始めたこの事件に風紀委員も総出で捜査しているみたいだが、未だ犯人は捕まえられていない。物騒なこの事件に学校閉鎖の話も持ち上がってはいるが、受験を控えたこの時期に何日も学校を休みにされると困るからと言う声もあり実行されていない。受験と生徒の命、どっちが大事なんだ。普通の学校ならありえない。平々凡々並がいいという割に、この地域は、この学校はおかしな点が多すぎだろう。 まぁそうは言っても、私としては学校がある方が助かる。それは受験を控えて勉強したいから、など殊勝な理由ではないが。単純に、学校に来ることが、彼に会えることが日々の楽しみなのだ。休校なんかになったら耐えられない。 「あ、おはようなまえ」 「おはよう、ツナ」 この大好きなツナに会えるなら、危険を冒してでも学校に行く価値がある。ツナの笑顔が見れるなら、ツナの声が聞けるなら、ツナの目が私に向くのなら私は別に刺されたっていい。それにどうせ私に危険は降りかかってこない。 「今朝のニュース見た?」 『あー、見たよ。また刺されたんだってね』 「なまえも気をつけなよ」 『それさっき母さんにも言われたよ』 あたしは笑いながら言う。しかしそんなあたしとは対照的にツナは真剣な顔つきになった。 「本気で心配してるんだ。今まで狙われた子、皆オレと面識ある子だったからさ。なまえも本当に気をつけて!」 泣きそうな顔で心配してくれるツナ。好きな人にこんなにも心配してもらえるなんて。不謹慎だけど事件の大きさに感謝した。 『大丈夫だよツナ。あたしは絶対に刺されたりしない、約束する』 「絶対だからな」 『うん。心配してくれてありがとね』 ツナを安心させるため笑顔で言う。あたしは絶対にツナを悲しませたりなんかしない。 「おい、ニュース見たか。刺されたのって隣りのクラスの奴らしいぜ」 「あ、知ってる。うちのクラスによく遊びに来てた子だよね」 「これって並中の女子を無差別に刺してるのかな」 「だとしたら怖いよね」 学校に着きクラスに行くと、やはり今朝のニュースのことで話題はもちきりだ。最近ではあまりにも事件が続くので学校にテレビや新聞の取材がくることもしばしば。女子生徒に恐怖を植え付けるこの事件はうんたらかんたらと長々しく報道されている。あまり騒がれたくないんだけどな。受験前だし。 「やっぱり皆、今朝のニュースのこと話してるね」 『そうだね』 「刺された隣りのクラスの子、すごく優しい子だったのに」 『そうなんだ。話したことないから知らないや』 「他にも刺された人、皆優しい子だったんだ」 刺された子と話したことがないので何とも言えないが、そんなに優しい子たちだっただろうか。刺されたのは3―Cの子2人とうちのクラスの子が1人、そして昨日刺された3―Bの子だけど。 「初めに刺された3―Cの子は、ごみをぶちまけたオレを嫌な顔せず手伝ってくれた。次に刺されたうちのクラスの子は、日直の仕事でオレが書き終えるまでずっと待っててくれた。その次の3―Cの子は、オレが忘れ物した時にわざわざ届けてくれた。で、昨日刺された3―Bの子は、クラスに遊びに来た時オレに手作りのお菓子くれたし」 『ふーん。妬いちゃうね』 「えっ?」 『あ、いや…。なんでもない』 「おーい、席につけ」 『あ、先生だ。じゃあツナまた後で』 「あ、うん」 危ない。ツナにバレてしまうところだった。タイミングよく先生が来てくれて助かったよ。 朝会も今朝のニュースについての話だった。どうやら暫くは部活動を停止するようだ。3年はもう部活動を引退しているので関係ないが、部活動に勤しむ後輩たちからしたら、たまったもんじゃないだろう。 また、当然のことだが6時以降の外出は控えるようにとも忠告された。それは非常に困る。 「まだ犯人捕まってないし、怖いね」 『ん?あ、あぁ、そうだね』 「最近お兄ちゃんが帰りもずっと一緒で」 『京子ちゃん可愛いもん。そりゃお兄さんも心配だよ。気をつけないと』 「なまえちゃんも気をつけないと」 『うーん。でも最近塾に行き始めたからどうしても帰り遅くなるんだよね』 「えっ、危ないよ!お母さんに迎えに来てもらったら?」 『んー、そうしようかな』 確かに京子ちゃんの言う通り、事件が相次ぐ今、夜遅く出歩くのは危険だ。お母さんに送り迎え、してもらおうかな。ツナと絶対に刺されないって約束したし。 そういえばツナ、刺された子のことすごく詳しく覚えてたな。 あたしもツナの心に残るくらい親切な人間になろうっと。 呑気にそんなことを考えてたあたしがこれから先、真実を知ることはない。 容疑者B 「嫉妬してくれてたんだ…。じゃあ、成功かな」 ――― 目指したものと違うものができました。なんてこった。 読んだ人が「あ、初めに想像してた犯人と違う!」ってなるような展開を目指したんだけどね。うん。 あ、題名が違うのは仕様ですん。 2012.12.02 |