『お願い骸。ここから出して』 「黙りなさい」 窓が一つもなく電気もつけられていない薄暗い部屋。そこに僕の愛するものを閉じ込めました。誰にも触れられぬよう大切に大切に保管し、僕だけを必要とするように。 これに口出しをしてくる者は少なくありません。ボンゴレに居る者は僕の愛し方が間違っていると訴えてきます。 しかしそれは僕から愛するものを、名前を奪うための詭弁でしかない。そんなものに従うわけにはいきません。ですから僕は僕の愛し方をまっとうとし今のまま愛し続けます。 「名前は僕のことが好きでしょう」 『好きだよ。でもこんな愛され方は嫌い』 「……」 愛が足りないのでしょうか。そうですね。それ以外有り得ない。ならもっともっと愛を与えなければ。 『…!ちょ、骸、やだ!』 僕は名前の手足を鎖に繋ぎ、三叉槍で浅く傷をつけました。そこから流れ出る赤は契約の証。ほらこれで僕からの愛を感じれたでしょう。 名前は痛みからなのか目に涙をため僕を睨んでくる。ですがその反抗的な目ですらも、 「綺麗ですよ名前」 『…今この状況でそんなことが言える骸はおかしい』 おかしい?僕はただ褒めただけなのに。僕の愛で満たされた名前は最高に美しい、と。 まさかボンゴレ達に感化されたのでしょうか。いくら僕が閉じ込めたといえどボンゴレなら優に入ってくることができるでしょう。 「ここにボンゴレが来たのですね」 『来てないよ。来れるわけないじゃない』 「いえ、ボンゴレなら来ることができるでしょう。さぁ本当のことを言いなさい」 『だから誰も来てない』 名前の目を見ても嘘をついてるようには見えない。僕を真っ直ぐに見つめる目。そこに映っているのは僕だけ。 それに満足する。 「そうですね。疑ってすみません」 『…分かったならこれ外して』 これ、とは鎖のことでしょう。 外すつもりはありません。だって僕の愛の表れですから。むしろ足りないくらいです。 「何故ですか」 『何故って…当たり前のことでしょ』 当たり前?鎖をつけることが当たり前でしょう。外しては意味がない。 「鎖は繋ぐ為にあるのですよ」 『あたしは鎖なんかで繋がなくていいの』 それでは目に見える愛が減ってしまう。それとも名前は僕の愛をはねのけるというのですか? 「僕の愛がいらないということですか?」 『そうじゃない』 「なら何故!」 『っ…』 僕は名前の肩を掴み壁に押さえ付ける。僕には名前の気持ちが分からない。こんなにも側にいてこんなにも愛しているのに。 『…こんな所に縛り付けなくても骸から愛されてることは分かってるから。それに、目に見えるものだけが愛じゃない』 「でも…。ここに縛り付けないと名前は逃げてしまう。ですから、」 『あたしは骸の側から離れたりしない!』 僕を真っ直ぐ見つめながら大きな声でそう言う名前。 『あたしの愛はそんなちっぽけなものじゃない』 そう、ですね。僕が名前を愛するように名前も同じように僕を愛してくれている。…こんな暗い部屋に閉じ込めなくとも、鎖で繋がなくとも、名前には僕の愛が伝わる。 「…僕は名前を外へ出すのが怖いんです。もし僕以外の誰かを好きになってしまったら、と。だからそうなる前に外との関係を絶たせた」 『そんなのあたしだって同じ。骸が他の女の子のところへ行ってしまったらって考えるとすごく怖い。でも、骸を信じてるから』 信じる…。僕は不安になるあまり名前のことを信じる事ができていなかったのですね。 『骸、今からはあたしを信じて違う愛し方をして』 これまでとは違う愛し方。それは僕には、 「分からない」 今までの愛が正しいと思っていた。決して間違ってはなかったでしょうが名前に対しての愛としては間違っていた。ならばこれからはどのような愛し方をすればよいのでしょう。 『何もせず側に居てくれるだけでもあたしは幸せなんだよ』 「それだけ、ですか?」 『うん』 何もせずとも僕の愛が伝わる。これほどまでに名前に愛されていた。今まで気付けなかった自分が情けないです。 僕は鎖を外し名前を抱き締めた。 「今更言うのもなんですが、抱き締めても良かったでしょうか?」 『うん。鎖じゃなく骸に包み込まれるのなら大歓迎だよ』 そう言ってふわっと笑う名前。久しぶりに名前の笑顔を見た気がします。名前は笑顔のほうが似合う。これからはこの笑顔を失わないよう変わっていこう。 鎖に繋がれていたのは、 (鎖を繋いでいたのは僕) (逆に繋がれていたのも僕) (あなたを逃がしたくない一心で) (間違った愛し方に縛り付けられていた) (そんな鎖を外してくれたあなたを) (僕はこれまでとは違う愛し方で) (これからも愛し続けましょう) →謝罪 |