リク

□愛され苦労
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「名前は僕と黒曜へ来るんです」

「何言ってるの。名前は僕と応接室に行くんだよ」

『ちょいちょーい、どっちも行きませんけどー』

右手は骸に、左手は恭弥に掴まれている。どうやら今日一日をあたしがどちらと過ごすかで揉めている模様。だがしかしあたしはどちらとも過ごす予定はない。録画した番組が二、三週間分残っているのでそれを見て過ごすのだ。たまの休日くらい家でゆっくりしたいもの。そう言ってもあたしの意見はちっとも聞き入れてくれない二人。争うならあたしの腕を放してほしい。このままの状態じゃ何もできない。ああもう誰か助けて。

「応接室なんかに行ったって楽しくないでしょう」

「二人で過ごせれば何処だって楽しいよ。ていうか黒曜の方が荒れてるし何もなくて楽しくないだろう」

「黒曜というより僕の部屋へ行くんです。そうすれば十分二人であんなことやこんなことが楽しめます」

「黙りなよ変態」

「おや、僕はあんなことやこんなこととしか言ってないのに。クフフ、変態という発想へ至った君の方が変態なのでは?」

もうどっちも変態でいいよ。てかどっちも変態だろう。あたしの部屋に無断で入って来てさ。しかも窓からって君達は常識というものを何処に忘れてきた。この変態共め。変態同士仲良くしてればいいよ。でもあたしは変態じゃないので巻き込まないでくれ。

「名前は勿論僕の方へ来るよね」

「君は黙りなさい。名前、僕の方へ来ますよね」

『二人とも黙りなさい。あたしは家でまったりするのです、邪魔するな』

「応接室でもまったり出来るよ」

「黒曜でも寛げますよ」

そうじゃないんだよおおお!あたしは家で、一人で、誰にも邪魔されず、ゆっくりしたいんだよ!出かけてしまってはダメなのだ。

『あたしは家でゆっくりしたいの!』

「「……」」

突然おとなしくなった恭弥と骸。お、お?ようやくあたしの気持ちが分かったか?そう思ったのも束の間、二人はニヤリと笑ってあたしを見た。え、ニヤリ?

「何だ、そういうことならしょうがないね。応接室は諦めるよ」

「僕も黒曜は諦めます」

『え、まじで!』

やった!ニヤリと笑ってたから不安だったけど、どうやらちゃんとあたしの意志が尊重されたみたいだ!これでたまってた録画を消化できる。…って、ん?

『何で二人とも座るのさ?』

何を思ったのか二人はあたしのベッドに腰を下ろす。いやいや帰るんでしょ君達。座ったら帰れないよ。そして未だにあたしの腕を掴んでいるその手を離せ。

「何でって、家でまったりするんでしょ」

『え、うん。そうだけど』

「だからここでゆっくりしようとしてるじゃないですか」

『…は?』

ゆっくりって…。え、あたしが家でゆっくりするんであって、君達は関係ないよね。え?

『あたしは一人で、』

「ほら、名前も早く座りなよ」

『いや、だから、』

「名前、僕の足の上に座っていいのですよ。できればこちらを向いて跨がる感じで」

『嫌だよ。てかそうじゃなくて、』

「南国果実は黙りなよ。気持ち悪い」

「おや、僕が嫌なら君は帰ればいいじゃないですか」

「そっちが帰りなよ。早く僕の前から消えて」

いやいや、二人とも帰ってください。

『あたし一人で録画してたものを見たいんだけど。一人で』

「しょうがないな。じゃあテレビのある部屋に移動しようか」

『いやだから一人で、』

「さあ、名前行きますよ」

『だから…』

あたしの話を聞き入れてくれない二人は腰を上げ歩き始める。恐らくテレビのある部屋へ向かっているのだろう。おかしいな。あたし一人っていうのを強調したつもりだったんだけど。

「ちょっと、君はついてこないでくれる」

「そちらがついて来ているのでしょう」

「変な言い掛かりはやめてくれない」

「それはこちらの台詞です」

勝手に揉める二人にあたしも一言物申したい。あたしの場合ついてこないでというか、連れていかないでっていう。いやまぁそもそも一番言いたいことはさっさと家に帰れってことなんだけどね。犬でも言えば分かってくれるような単純なお願いなのに、何故こいつらは聞いてくれないのだろうか。犬の方が賢く思いやりがあるよ。…犬とこいつらを比べるのは申し訳ないな、犬に。ごめんねわんちゃん。てかこいつら早く帰らないかな。

『…二人ともハウス!』

「「……」」

早く帰ってくれないかな帰れよ、って思いが強すぎて言葉になってしまった。すみません、調子にのって。いやね、ちょっと言ってみたいなって軽い気持ちだったんだって。悪いと思ってるって。だから押さないで。テレビのある部屋に移動するんでしょ。ベッドに用事なんてないでしょ。

「僕を犬扱いするなんていい度胸じゃない」

『そ、それほどでも』

「名前の犬ですか。嫌ではありませんが何分僕は攻めたいので」

『ひぃっ!』

骸にベッドへ押し倒される。ぎゃあああ、ごめんってごめんんんんん!

「クフフ、ではぐふぅっ!」

あたしの上に跨がろうとしてた骸は一瞬にして吹っ飛んだ。恭弥の腕にキラリと光るトンファーが見えるので、どうやら恭弥がやったらしい。グッジョブ。

「変態は僕の視界に入ってこないで。目障りだ。それに、僕の名前に手を出したんだから覚悟はできてるんだろうね」

「クハハ!君の方こそ僕の邪魔したんですから、覚悟しなさい」

そう言いながら戦闘モードに入る二人。戦闘にあたしを巻き込まないためかはたまた真剣勝負だからか、漸く掴まれていた腕は放された。これであたしは自由だ!

「君のその房、もぎ取ってあげるよ」

「これは房ではありません!それにそう言ってられるのも今のうちですよ」

武器を交えながらお互いを挑発する二人。そんな二人にバレないよう部屋を出る。どうやら戦闘に夢中であたしが部屋から出たことには気付いていない。
ああ長かった。ずっと掴まれていた腕はほんのり赤くなってるし。何これ一種のDV?いや、彼氏とかそういうのじゃないからただのバイオレンスだけど。まあ何はともあれ脱出できて良かった。さて、それじゃあ一人でゆっくりしようかな。


愛され苦労


(ふう、漸く今までの録画を消化できたよ。…ん?)
(名前は僕のです)
(寝言は寝て言いなよ)
((こいつらまだやってたのか…!))


→謝罪


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