玄関の戸を開け家に入ると甘い香りがした。母さんがケーキを焼いてくれたのだろうか。何歳になってもお祝いされるのはやっぱり嬉しいし、ケーキだって楽しみの一つ。どんなケーキなのかワクワクしながらリビングに向かう。 「やぁ、遅かったね」 「おかえりなさい。待ちくたびれましたよ」 パタン。一度開けたリビングの扉をすぐさま閉める。どうやらあたしは疲れて幻覚を見てしまったようだ。危ない。深呼吸をしてからもう一度開ける。……うん、残念ながら幻覚じゃなかった。 リビングの扉を開けると、玄関よりも更に甘い香りが充満していた。そこに何故か寛いでいる男二人がいる。一人はソファにゆったりと座り、もう一人は椅子に腰掛けて片肘を机にのせて、それぞれテレビを見ている。 二人が我物顔で寛いでいるから、一瞬家を間違えたかと思ったよ。 「何ボーッと突っ立ってるの。早くここに座りなよ」 「何を言ってるのですか。名前はこちらに座るのです」 驚きで突っ立ったままのあたしに、二人がそれぞれの隣りに座るよう促してくる。いやいや、ここはお前らの家か。 『何でここにいるの?…あれ、母さんは?』 そういえば母さんの姿が見えない。買い物に行ってるのかな。…それならこの二人はどうやって家に入ったんだろうか。まさかピッキングか、ピッキングしたのか! 「名前のお母様なら、先ほど夕飯の買い物に行かれましたよ」 『あ、そうなんだ』 母さんの場所を知ってるってことは、ちゃんと母さんとのコンタクトがあったのだろう。不法侵入じゃなくて良かった。よく見たらテーブルに、母さんが入れたであろうお茶も置いてある。まさか自分で勝手に注いだということはないだろうしね。……いや、二人ならしそうだけどさ。 「そんなことより、コレ、受け取りなよ」 『え?』 「雲雀恭弥、抜け駆けなんて卑怯ですよ」 「うるさい。君が渡すの遅かっただけだろう」 「ものごとには順序というものがあるんです。君には一生分からないかもしれませんが」 「…どういう意味」 「クフフ、そのままの意味ですよ。さて、そんなことより…。名前、コレをどうぞ」 『え?』 二人から渡された四角い箱。なんだろう。というか突然何で渡してきたんだろう。いや、思い当たることはあるが、まさかね。だって二人が知ってるとは思えない。言ってないし。 『えっと、これは…』 「名前、あなたへのプレゼントです」 「今日は君の誕生日だからね、特別に祝ってあげるよ」 もしかしたら誕生日プレゼントかもしれないという予想はあたってた。二人ともあたしの誕生日を知ってたんだね。まさかだったわ。ツナとかリボーン辺りから聞き出したのだろうか。あのグループは学校でお祝いしてくれたから、確実にあたしの誕生日を知ってるし。他校のハルまでお祝いしてくれたことにはびっくりだったな。いろんな人にお祝いしてもらって幸せである。 『二人ともありがとう!…開けてもいいかな』 「もちろんです」 「名前のプレゼントなんだから名前の好きな時に開けたらいい」 貰った箱を一つずつ開ける。最初に骸から貰った箱を開ける。中にはチョコクリームがたくさん使われたチョコケーキが入っていた。続いて恭弥から貰った箱を開ける。こちらは鮮やかな黄緑の抹茶ケーキが入っていた。どちらも非常に美味しそう。甘い香りの正体はコレだったのか。 『すごく美味しそう!本当にありがとう』 「では、どちらの方が美味しいか食べ比べてみてください」 「まぁ結果なんて火を見るより明らかだけどね」 「えぇ、僕の作った方が美味しいに決まってます」 「寝言は寝て言いなよ。僕の方に決まってるだろう」 『え、コレ二人が作ったの?何それすごい』 売り物かと思うくらい細部まで丁寧に装飾されているケーキ。実際に売り物だと思ったし。これを二人が作っただなんて。女のあたしより手先が器用なのね羨ましい。 「名前のために頑張りました」 「名前が生まれた大切な日を祝うためだからね。感謝しなよ」 う、嬉しい!こうやって心をこめてお祝いしてくれる二人の優しさに、胸が熱くなる。あたしはとてもステキな友人を持ちました。友人に恵まれてて嬉しいよ。 「ということで、はい、あーんしてください」 『えっ!』 「ちょっと、僕が先だよ。ほら名前、口開けて」 『ちょ、むぐっ!』 あーんってだいぶ恥ずかしいわ!とか考えてる途中で、フォークに刺されたケーキが恭弥によってあたしの口へ突っ込まれた。口の中で広がる少しの苦味と優しい甘さ。抹茶ケーキうんまっ!!抹茶ケーキは普段あまり食べることがないが、こんなに美味しい食べ物だったのか。今度からケーキ買う時は抹茶ケーキにしようかな。 『上品な甘さですごく美味しい!プロが作ったみたい』 「……当然でしょ。名前に喜んでもらうために作ったんだから」 「また君は卑怯な手を。…まぁいいです。次は僕のを咥えてください名前」 『なんつー言い方を、むぐっ!』 骸のどこかやらしく聞こえる言い方を注意しようと思ったら、口に突っ込まれたチョコケーキ。お前らもっと優しくしてくれよ。 突っ込まれたケーキにより、口いっぱいに広がったチョコの甘さ。甘いものが好きなあたしには、スポンジもクリームもチョコ味なこのケーキはとても好みだ。 『うんまっ!甘いもの好きにはたまんないね』 「クフフ、そうでしょう!このチョコケーキにはベルギー産のチョコを使用して、」 「名前、どっちの方が美味しかったか言って」 「ちょっと、僕が説明してるのに遮らないでください!」 「うるさいよ。名前、早く言いなよ」 恭弥のケーキは、ほどよい甘さでとても美味しかった。 骸のケーキは、チョコ好きのあたしにはたまらないものだった。 どちらも美味しく甲乙付けがたい。というかそれ以前に……。 『どっちもすごく美味しいよ。二人ともがあたしのために作ってくれた大切なプレゼントに順位をつけれるわけないじゃん』 それぞれがあたしのためにと用意してくれたプレゼント。どちらも優しい想いが詰まっているのに、それを比べて順位をつけるなんてことはできない。大切な人達から貰ったプレゼントは全部1位なんだよ。 「そう、ですね。名前の言うとおりです」 「今日のところは名前に免じて引き分けにしといてあげるよ」 『ふふ。二人とも、本当にありがとね』 あたしはお礼を言ってから、二人のぶんのお皿とフォーク、それと切り分けるために包丁をとりにキッチンへ向かう。 まじ二人ともホールでくれるとか凄いな。いい奥さんになるよ。男であるのが勿体ない。 「名前」 『んー?』 お皿を出す最中に恭弥に呼ばれ、そちらに顔を向ける。どうしたんだろう。 「誕生日、おめでとう」 「生まれてきてくれてありがとうございます」 『恭弥、骸……』 大切な人にこうやって自分の生まれた日を祝ってもらえて、あたしは最高に幸せ者だ。 生まれてこれたこと、そして元気に育っていること、周りにいるたくさんの大切な人たちに、心から感謝した。 『二人ともありがとう。大好きだよ』 \HAPPY BIRTHDAY/ (今の大好きは僕に向けて言ったんだよね) (黙りなさい雲雀恭弥。僕に向けてに決まってるでしょう) (ふざけないでくれる。僕だ) (いいえ、僕です) (……いや、だから二人に対してなんですけど、って聞いてねぇなこいつら) →謝罪 |