リク

□呪われたプリンス
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「すみません、少々お尋ねしたいのですが」
『あ、はい。え、あ、子供?どうしたのかな、ぼく』
「私の婿になりませんか?」
『うん、ん?』

トテトテとあたしの足元まで寄ってきた赤ん坊に目線を合わすため、しゃがみ込む。すると発された言葉。婿にならないか、だと?
道を尋ねるかのようにナンパ、いや、プロポーズされてしまったよ、見知らぬ赤ん坊に。
最近の子はませているとかよく言うが、これはまたハイレベルなおませさんに出くわしたものだ。道を尋ねるような軽いフリなのに、内容は全く軽いものではない。こんなおませさんな子、私は某野原さん家の子供しか知らないよ。誰が赤ん坊にこんなこと教えたんだよ。親御さんちょっと来い。いや、もしかするとテレビの受け売りかもしれないが。どちらにしても教育方針が間違っているだろう。
そもそも物騒な時代であるのに、こんなに幼い子を一人で出歩かせているのもいただけない。タ○ちゃんやイ○ラちゃん時代なら有りかもしれないが。…いや、車とか通るしあの時代も幼子の一人歩きは危険か。
複雑な視線を目の前のおませな赤ん坊に送ってみる。残念ながら君の気持には答えられないよ、という気持ちも込めて。

「そんなに見つめられると照れるのですが」
『ナンパは平気なのに?君、変わってるね』
「そんな変わり者と結婚するのはあなたですよ」
『ちょっと何言ってるのか分からないな』

おめでとう!ナチュラルに結婚フラグが立てられた!
嬉しくないしそんなフラグ求めてない。恐るべし赤ん坊。子供ってよく突拍子もないことを言うよね。いやはやびっくりだ。
…ん?子供といえば、よく幼稚園の先生に結婚を申し込んでるよな。僕は大きくなったら○○先生と結婚するの!的な。この子もそういうノリなのかもしれない。というか普通に考えたらそうだよな。親御さん、さっきは変な罪を被せてすみませんでした。でもこんなに小さい子を一人で出歩かせるのはどうかと思います。誘拐されちゃうよ。あたしはショタコンじゃないからよかったけど、もしナンパしたのがショタコンの危ないお姉さんだったら即お持ち帰りだったね。

「さあ、私と共に人生を歩みましょう」
『嬉しいけど、君がもっと大きくなってからね』
「分かりました。約束ですよ」
『うん』

はたしてこの子が大人になった時に、この約束を覚えているだろうか。恐らく九割方無理だろう。きっとその頃には、あたしだって忘れてる。まぁ、仮に覚えていたとしても笑い話になるくらいだろう。

「では、さっそく婚姻届を取りに行きましょう」
『お?あれ、あたしの話聞いてた?』
「えぇ、大人な私なら結婚してくださるんですよね」
『うん、大人ならね』
「それなら問題ありません。私の精神年齢は成人済みですからね」

なん、だと…?確かに大人びた物言いだが、どうあがいたって子供は子供なのだ。それともアレか?見た目は子供、素顔は大人、その名も名探偵コ○ン!か?まぁ、確かに彼なら子供といえど結婚もセーフな気がしなくもないが。いやしかし、そんな漫画みたいな出来事があるわけないので、きっとこの子はテレビの影響を受けてこのような考えに至ったのだろう。
ほんとにこの子の家の教育方針が気になる。

『屁理屈はダメだよ。ちゃんと結婚できる歳になってからね』
「何故そんなに年齢にこだわるのですか?日本だって昔は13〜15歳くらいが元服でしたよ。ちなみに婚姻できる年齢は男性が15才、女性が13才と、現在とは異なります。つまり、そこまで年齢に固執する必要はないのでは」
『いやいや、よく考えてみて。いくら昔の婚姻年齢が若いっていっても、10才は超えてるからね。それに婚姻年齢が定められてるってことは、ちゃんと意味があるってことだから。ていうかさすがに赤ん坊と結婚はないわ。あたしが捕まる』

この赤ん坊はえらく博識だが、常識がスコーンと抜けている。いや、赤ん坊だから知らなくて当然なのだが、どうもこの子は普通の赤ん坊とは違うみたいなので常識くらいは心得ていてほしいと思ってしまう。というか、なぜ元服云々の話は知っていて、赤ん坊は結婚できないとか婚姻年齢が定められている理由を知らないのだ。それとも何だ、知ってはいるが自分に対して不利益な内容だから触れないだけか?この子ならそれも有り得る。…恐ろしい子!

「そもそも私は一応成人しているのですが」
『精神年齢が、とか言うんでしょう。それはダメだって』
「いえ、もちろん精神年齢もですが、リアルな年齢でもです」
『はい?』

どこからどう見ても赤ん坊なこの子が成人済みだと?いや、体の成長なんてものは個人差があるし、事実、世界には赤ん坊くらいの身長でも成人している人はいる。が、目の前にそのような人物がいるというのはにわかには信じられない。これだけベビーフェイスで小さな成人男性がいたら既にメディアで取り上げられて有名になっているだろう。もしそうだとすれば、彼がこんなところを一人で歩いているはずがない。必ずお付きの人がそばにいるはずだ。しかし辺りを見回しても私と彼以外の人間は見当たらない。つまり彼がメディアに取り上げられているという線は薄く、彼が成人済みという線も薄い。

『君は受け売りで言葉を言ってるんだね』
「にわかに信じてもらえないのは分かります。しかしこの姿は仮の姿なんですよ」

魔法使いに姿を変えられた王子様か。
なんだかんだと多くの知識をぶつけてきても、やっぱり幼子である。おとぎ話を現実世界に持ち込む彼は、その年齢に見合った思考であることが分かる。
そうだよな、そもそもこんな幼い子供が大人と同等の考え方をするわけがない。

「呪いが解けた暁には、元の姿へと戻り、あなたを魅了すると思います」
『そっかそっか、きみは王子様なんだね』
「王子様ですか…。まぁ、あなただけの、という点ではそうとも言えますね。では、私の呪いを解くのはあなたの真の愛を受けてからでしょうか」

美女と野獣か。いや、彼は野獣なんかではなく、むしろ美少年であるが。将来有望な顔である。羨ましい。

「はやく呪いを解いてくださいね。あなたの真の愛で」

ちゅっ、と可愛らしいリップ音と同時に頬に感じた柔らかさ。さらにフッ、と笑ったその笑顔が妙に大人びていたこともあり、相手は赤ん坊だと分かっていながらときめいてしまった。
…少しくらいは王子様の呪いを解く努力をするのも、悪くないかもしれない。


呪われたプリンス





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