「ノボリは強いなあ」 「ナマエも十分強いですよ」 「本当?」 「ええ」 「ノボリにそう言ってもらえると嬉しいな」 ぼくとそっくりな双子のノボリ。ノボリの隣にはナマエが居る。昔はその隣にぼくも居たのに。いつからか、ぼくだけ置いてけぼり。 ぼくとノボリはナマエが好き。ナマエはノボリが好き。ぼくはナマエの気持ちを知ってた。知ってたんだけど、ノボリには黙ってた。ナマエを見ては悩ましげにため息をつくノボリを横目に、ずるいぼくは仮面のような笑顔をはりつけて、時がこの恋を滲ませ消し去ってしまうのを待っていたんだ。ノボリの恋心なんてどっかいっちゃえ、ってね。 3人の関係が崩れないよう、少しでもぼくがナマエの側にいれるよう、沈黙を守り、祈ってた。 両想いの2人の恋を見て見ぬ振りをしていたことに別段罪悪感はなかった。だってぼくもノボリもナマエの側にいれるし、ナマエもノボリの側にいれるんだから不都合なことなんて一つもない。誰も悲しまない、みんなが幸せな状況を守ることが悪いことなわけない。 でも、幸せなんて長くは続かない。きっと自分のことだけを考えていたぼくに、バチが当たったんだ。 ため息ばかりついていたノボリ、からじゃなく、ナマエから想いを告げた。 ノボリはぼくを気遣って断ろうとしてた。けど、ぼくはノボリにもナマエにも幸せになってほしいから何でもないふりをして付き合うよう促したんだ。 なんて。そんなの建て前。本当はノボリのその気遣いに耐えられなかった。 だってずっと好きだったナマエから想いを告げられたっていうのに、ぼくのことを気にかけるノボリが憎らしくて。ぼくは2人の想いを知って、無視してたのに。自分の醜さが際立つようで、2人の側にいられなくなった。恋愛でも、人間性でも、ノボリに勝てないぼくはどうしたらいいの。 「はい、これ。今日のお弁当」 「いつもありがとうございます」 「いえいえ。花嫁修行だからね。ノボリの奥さんになるため日々努力」 「なっ!」 「あらあら、ノボリ顔が赤いよ」 「か、からかわないでくださいまし!」 ああ、やっぱりぼくは入れない。3人で過ごしていたあの頃が嘘みたい。 ぼくがいなくても2人の時間は進む。2人がいなくてもぼくの時間は進む。 過去は記憶となって今に埋もれる。 ひどく虚無感に襲われながら、ぼくは今日も独り挑戦者を待ちながら、薄れつつあるあの頃を思い出す。 変 わ り ゆ く (待てども待てども挑戦者は来ない) (あの頃は狭く感じたこのトレインも今ではなんだか少し広い) (この空間をうめてくれる人はぼくにはいない) |