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□HAPPY ハロウィン
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「トリックオアトリート」

トリックオアトリートとは。
勿論言葉の意味は分かる。毎年10月31日が近くなると街はハロウィン一色になり、当日にはコスプレをした若いちゃんねーなどが街中でよく言うお決まりの言葉だよね。知識の偏り。
でも私はバトルしにきたんだ。20連勝してようやくサブマスのクダリさんと戦えるところまできたっていうのに、何故悪戯かお菓子かと問われなければならないのだ。むしろ客である私にお菓子を振舞ってほしいところである。茶もでねーのか、ここは。電車だもの。

「どちらも嫌です。さあバトルしましょう」
「どっちも嫌なんて無し!お菓子くれないと悪戯する。選択肢は二つだよ」

若いコスプレしたちゃんねーが「トリックオアトリート」って言っても許されるのは、若さと、コスプレをすることで相手に幸せを与えているというサービス面がみられるからである。企業の戦略。しかし、成人男性、しかもいち駅員に言われてもこちらの利益は一つもない。、、いや、待てよ、この奇抜なサブウェイマスターの制服はむしろコスプレに値するのでは?失礼。
そんな偏った認識は結局のところどうでもよくて、そもそもトリックオアトリートと言われても困るんだよね。悪戯はもちろん嫌だ。こと男に何をされるか分かったもんじゃない。かといってお菓子を渡すのも嫌、というより無理。だって手持ちにない。邪魔になるからといらない荷物はコインロッカーに置いてきた。大阪のおばちゃんじゃないんだから、飴ちゃんを常に持ち歩いているわけないじゃない。

「ねえねえ、もしかしてお菓子ないの?」
「……」
「ないんだね。じゃあ…」

私がお菓子を持ってないと分かり、クダリさんはまるで伊藤鴨太郎と共にトッシーをハめた時の沖田総悟のようににんまりと笑っている。映画第二弾もめっちゃ良かったぞ。思わず三回劇場に赴いたよね。でも私の1番の推しは窪田万斉でござるよ。

「ぼくとデートに行くこと!」

木刀デート?侍目指してんの?カフェ行っていじめられてるメガネ見つけて店ぐちゃぐちゃにしちゃう?まだ冷めやらぬ映画第二弾熱。

「ねえ!ぼくとデート!」

ああやっぱり木刀デートか。そんなわけ。
…悪戯?まって、それが悪戯?恐らくクダリさんは挑戦者みんなにトリックオアトリートと言っているのだろう。そしてお菓子を持ってなかった人全員をデートに誘っているって、こと?……。
確かにサブウェイファンは男女問わず数多くいる。彼らからすればデートイベントはそれだけで好感度MAXに値する特別イベントになるだろう。しかし、私は好色な男性は好まない。つまるところ、一途な男性が好きなのだ。お妙さんのお尻を追い回す近藤さんのように。映画第二弾熱冷めやらぬ。そろそろしつこい。

「お断りです」
「ダメ。これは悪戯なんだから」
「クダリさん、トリックオアトリート」
「へ?…あ、ぼくお菓子持ってる!はい」

クダリさんはすぐにズボンのポケットからチロルチョコを2、3個取り出し、あたしの手の上に置いた。
ちょっとあったまってるじゃないか、溶けてたらどうするのよ。でもチロルチョコ選抜のセンスはかなりよい。ミルクとビスケットなやつ、とヌガー!コーヒーヌガー!私これ苦手、このヌガー!!って感じがちょっと…。

「クダリさん、これをどうぞ」
「?」

私がクダリさんに渡したのは、たった今クダリさんにもらったチョコ、のヌガーだけな。あとは好きなやつだったから渡さない。一度私の手に渡ったら私のものよ。ヌガーは別。
たった一個でも、苦手なのやつでも、お菓子を渡したという事実はここに確かにある。

「お菓子を渡したので悪戯はチャラですね」
「…!ずるい!」
「ずるくないです。だってクダリさんはお菓子が欲しいんですよね。ならこれで問題はないはずです。まあ他の人とのデート楽しんでください。何人お相手の方がいるのか知りませんがヘマはしないように」
「え?」

皮肉もこめてクダリさんに警告をする。女の勘はなめないほうがいいぞ。バトルも恋も百戦錬磨の友達が言ってた。いつもは置き忘れても何も言わないのに、ある日突然置き忘れのネックレスを律儀に渡してきたらグレーだぞ。さらに家まで送ってもらってる途中で気づいたにもかかわらず、わざわざ取りに帰ったら黒だぞ。って。

「ぼくが誘ったのはナマエだけ!ナマエが挑戦してるの知っていろんな作戦ねった。今日はハロウィン、ナマエは鞄ロッカーに片付けたからお菓子持ってないし上手くいくと思ったのに!」

私の頭じゃこの展開についていかないぞ、何が起きたの。作戦ねった?しかも鞄をロッカーに置いてきたことまで知ってるの?何?ストーカー???ロマンもときめきもありゃしない。ロマンて何?ハリマロン?最終形態がああなるとは夢にも思わなかった。
閑話休題。これまでのとめどないクダリさんdisからは考えられないかもしれないが、私とてクダリさんに好意を寄せる女子の一人…。間違えた、好意を寄せるトレーナーの一人。つまり恋愛感情ではなくバトル好きとしての好意であるが、それでもプラスかマイナスかで言えばプラスの思いを持っている。そんな人にまあ好意を匂わせる言葉をかけられたら動揺するわけで。こんな中で華麗なバトルはできない…!いつも特に華麗じゃなかったわ。どちらかと言えばパワーでゴリ押し型。じしん、じしん、じしん!トレーナー無能説。

「今日はバトル中断します、さようなら」
「え?…え!なんで!せっかくバトルするのに」
「動揺しちゃってバトルに集中出来ないので帰って整理してきます」
「…。分かった。じゃあぼく返事楽しみにしてるから。またナマエが来るの待ってる!」
「はい、また」

私はバトルをせず途中下車した。クダリさんに言われたことをきちんと整理してからまた来よう。
まって、クダリさん、返事待ってるって言ってたけど、何の返事を待ってるの?木刀デート?クダリさん木刀持ってないじゃん。ぼくには生まれつき立派な木刀が、ってか?下品だぞヒロイン。
そもそもお菓子をお返ししたのでデートの話はチャラなんだけど。もしかして告白されてた?私告白されてた?まったく覚えないんだけど。え、本当に告白されたっけ??

このあと悩むことに疲れた私は全てを忘れ、シングルトレインに挑戦し、そのことに怒ったクダリさんからノボリさんのインカムを通して怒られるという珍事件が起きるが、今の私はまだ知らない。

HAPPY ハロウィン



2011.10.31
 

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