「ナマエ、朝でございますよ」 「ん」 「ナマエ、起きて!」 「んー」 眠い。起きたくない。 今日は土曜日で学校は休み。休日は朝方まで起きて、そこからお昼まで惰眠をむさぼるのが私のスタイル。兄さんたちもそのこと知ってるはずだ。だからノボリ兄さんもクダリ兄さんも私を起こしてくれるな。嫌がる妹を無理やり起こすなんて、その手の人に薄い本作られちゃうよ。嫌がったフリなんてして、そんなにぼくたちの気を引きたいの?そんなことしなくても、ぼくたちはナマエのものだよ。なーんて、やだもうお兄ちゃんの不潔!!それは私だ。清々しい朝に不純な脳みそ。 「早く起きないと朝食が冷めてしまいます」 「昼にレンジでチンするからいいよ」 「だめ!朝ご飯食べないと元気でない!」 「今日は休みだから元気は閉店」 「そうはいきません。本日はわたくしどもと一緒にバトルサブウェイに来ていただきます」 ワイジャパニーズピーポー!!そんな話聞いてないよ。いつ決まったよ! 妹参観か何かなの?働くお兄ちゃんの姿を見せようとしてるの?お兄ちゃんが頑張ってることとか、働く姿、バトルする姿がかっこいいのはもう知ってる。だからもういいよ。休みの日くらい休ませてよ。正直休みとお兄ちゃんの働く姿見るかを天秤にかけたら、秒で休みに傾く。妹ってそんなもんだよ。すまんな。 それにほら、布団が私を離してくれないんだよね。愛が重いんだよ私の布団。だがその分包容力がある。それにこの温かさと守られている安心感。もしかしてスパダリ?スパダリだった??そうかこれがスパダリ。 「今日は挑戦者が増えますのでわたくしどもだけでは追いつきません」 「だから挑戦者がぼくたちの所に来る前に倒してほしい」 私がスパダリことお布団とラブラブチュッチュしている間にも、話は進む。 無茶を言わないでほしい。確かに休日だから挑戦者は増えるだろう。でも挑戦者たちと同じく、私も休日なのだ。一週間の疲れを癒すには今日一日ウダウダするしかない。ほら、言い方変えればデートだから。スパダリとデートだから。デートドタキャンはないわ。 私のその発想がないわー。 「兄さんたちの所にたどりつく人はきっと僅かだと思うよ。だから大丈夫だよ。さよなら」 それだけ言って肩までかかっていた布団を頭までかぶり、起きたくないと主張してみる。だが、そんなささやかな抵抗は、クダリ兄さんが布団をはぎとったことによってあっけなく終わった。人の男寝とるなんて!!しかも身内の!めくるめく寝取られホモの世界へ誘われちゃう!!清々しい朝とは。 「寒い。布団返して」 「そしたらナマエまた寝る」 「寝ないよ。布団とデートするだけ」 「いい加減諦めて起きてくださいまし。遅れてしまいます」 時計をチラチラ見ながら深いため息をつくノボリ兄さん。なんで私が悪いみたいになってんだよ。ふざけんな。そもそも今日サブウェイでバイトさせようと思ってたなら、昨日の段階で伝えとくべきだろう。御宅の会社はホウレンソウどうなってますの?社会人の基本でしょ?崩壊錬成走馬灯?それは錬金術師。そろそろ頭の中も疲れてきた。 「眠いから無理だよ」 それに、私が行ったところでそんなに役には立てないだろう。なぜなら私は分身の術を心得ていないので、一つのトレインでしか挑戦者をおさえられない。それって私がいてもいなくても、さして人数に大差ない。 「ナマエがいないとつまんない!」 知ってるんだぞ。強い挑戦者が来た時の爛々とした目を。社会科見学でよりによって身内の働く職場に当たったことで既にテンションが下がっていた私に、追い討ちをかけるようにギラギラした目でバトルする姿を見せつける兄。身内ながら恐怖で震えたよね。私でそうなんだから、友人たちは顔を真っ青にさせて懸命にパートナーポケモンを抱きかかえてた。トラウマ製造地サブウェイ。でもあの中でも目をきらきらさせてたやつが将来あのサブウェイに就くんだろうな。廃人製造地サブウェイ。闇の組織じゃんかよ。 「ナマエ起きて!ぼくナマエとたまには一緒に出かけたい!」 え、まって。きゅんとした。ほっぺを膨らませてかわいい顔でお願いするクダリ兄さん、の後ろでそっと諭吉を見せてくるノボリ兄さんに。我が兄ながらクダリ兄さんは可愛いと思います。が、それ以上にノボリ兄さんのずる賢さが私の心を掴む。金で妹を買うなんて!!上等よ、1人方々に1諭吉な。がめつい。 「分かったよ。今日だけだからね」 「ほんと!うれしい!」 ああ笑顔がまぶしい。太陽のようにきらきら笑うクダリ兄さんと、への字に下がった広角を片側だけクッと上げて計画通りとほくそ笑むノボリ兄さん。クダリ兄さんの純粋さを見習って。買われた私が言うセリフじゃない。 「さ、はやくご飯食べよ!」 「そうでございますね。ではナマエ、わたくしどもは先に下に降りておりますから支度ができましたら来てくださいまし」 「ん」 兄さんたちは笑顔で私の部屋を出た。キラキラ笑顔のクダリ兄さんは勿論だが、悪い顔をしていたノボリ兄さんも柔らかな笑顔である。 …そういえば最近お互い仕事や学校が忙しくて一緒に過ごす時間なかったな。兄さんたちが突然私をサブウェイに呼んだのは、一緒に過ごす時間を少しでもつくろうとしたからかもしれない。優しい兄さんたちだもんな。そう考えると面倒だった休日の朝からの外出も、気分の良いものに変わる。まあ、たまには?こんな休日も良いかもしれない。 休日特別運転 (ナマエはぼくと一緒にダブルトレインに乗るの!) (いいえ、わたくしと一緒にシングルトレインに乗車するのでございます!) (マルチでよくない?) (ダメ!) (マルチでしたらナマエは誰かとペアを組まなければなりません) (別に私は構わない) (知らない男とナマエを2人きりになんてさせない!) (何かあってからでは遅いのでございますよ!) ((何故男が相手なの前提…)) 2012.03.10 |