pkmn

□dangerous partner
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目を開けると見知らぬ人間が俺の横で寝ていた。
暗転。

と、人間都合よく意識が遠のくわけではない。残念だ。
ひとまず体を起こし、現状確認。俺のベッドには見知らぬ誰かがいる。相手は見たところ綺麗な顔をしているが男のようだ。胸は平らだし。……。ふむ、何故相手は上の服を着ていないんだ。まさか下も履いていないなんてことはないよな。というかあってはならない。だって相手が裸イコールそういう過ちを犯してしまったという可能性が生まれる。そんなフラグはいらない。相手は綺麗な顔ではあるが、紛れもなく男。そして俺も男。さらにいえばノンケ。そう、ノンケ。いくら綺麗だからといって俺は男に靡くなんてことはしない。そもそも俺は昨日、いつもと変わらぬ一日を過ごしたのだ。こいつを家に招いた記憶はない。し、全く知らない相手だし。一瞬酔った俺が招き入れたのかもとも思ったが、そもそも昨日は酒を飲んでない。となると不法侵入、しかも上裸って俺に何かしらの罪をなすり付けるのが目的だったりして……。
昨日のこと、忘れたの?酷い!もうお嫁にいけない!訴えてやる!!みたいな。犯罪に男も女も関係ないからな。
訴えられる前にとりあえずジュンサーさん呼ぼう。

ベッドから降り、ジュンサーさんを呼ぶため机に置いていたポケギアを手に取る。驚きはしたが、特に焦ることもせず落ち着いて次の行動へと移る。この時もし自分まで上半身裸とかそんな姿であったなら焦っていただろう。だが俺は、きちんとお気に入りのブルーのパジャマを着込んでいる。はだけたりボタンを掛け違えたりもしていない。ついでに布団から出るときに、相手がズボンを履いているのも見えた。やはり過ちなど犯していなかったのだ。もし過ちを犯し、慰謝料請求されたら大変だったな。無駄遣いはしていないからそこそこの貯金はある。だからといって大金を払ってしまえば、バトルで食いつないでいる俺は、今後いろんなトレーナーにバトルを挑み、金を巻き上げなければならなくなる。それは面倒だし、何よりポケモン達に申し訳ない。特に一番のパートナーであるレントラーは他のポケモン達よりバトルに繰り出されるであろうし。……。まって。そういえばレントラーの姿が見えない。いつもなら朝、俺のベッドで横になっているのに。昨日もちゃんと共にベッドに入ったのに。変な奴がいたからボールへ戻ったのだろうか。……いやいや、レントラーなら変な奴が入ってきた時点で気付いて教えてくれる筈だ。となればレントラーは伝えることが出来ない状況にあったということで。まさか誘拐?!確かに最近なんとか団がポケモンを盗むってニュースをよく見掛けるが、まさか俺のレントラーまで盗まれるなんて。トレーナーとして、あいつのパートナーとして、あいつの危機に気付けなかった自分は最低だ!
ジュンサーさんへ連絡するつもりだったポケギアを放り投げ、未だにベッドですやすや眠っている奴に掴みかかる。

「おい、お前!俺のレントラーを何処へ連れてった!」
「んー?」

こちらの気も知らずまどろみの中にいるそいつに腹が立ち、腕を引っ張ってベッドから落とす。んー、じゃないわ!人ん家で惰眠を貪ってんじゃないよ!まどろんでんじゃないよ!吹っ飛ばすぞ!事後。
布団をがしりと掴んでいたそいつは、運のいいことに布団と共に落ちたために、そんなにダメージはなさそうだ。

「いっ……!」
「レントラーは何処だ。さっさと吐け」
「ちょ、マスター、痛ぇって!ケツ打った」
「は?」

マスター?マスターボール?投げつけてほしいのか?その綺麗な顔めがけて投げつけてやろうか!半分は妬み。
もちろんレントラーの居場所がわからない今、不安と焦りと怒りはある。それに加えなんだこいつの美しい顔は。それでも同じ人間か。当てつけか。兎にも角にも、レントラーの居場所を吐いたってこいつは許さない。絶対にな。俺は!怒るぜ!!嫉妬が醜い。

「もうちょい優しく起こしてくれよ」
「泥棒に優しく接する義理はない」
「泥棒?……えっ、マスター、泥棒に入られたのか!オレが探してきてやるよ」
「は?いや、待て、泥棒はお前だ」
「は?」

相手はきょとんとした顔でこちらを見てくる。ここまできても尚演技を続けるこいつに少しばかり感心した。悪い意味で。
もしかして、探すふりをして逃げるつもりでは。逃がさん。俺の特性、鋭い目!ただ目つきが悪いだけである。

「とぼけるのもいい加減にして、俺のレントラーの場所を吐け」
「レントラーって……。あ、そっか。ふふ、マスター、オレがそのレントラーだよ」

やっぱりジュンサーさん呼ぼう。あ、いや、その前にジョーイさんか。どっからどう見ても人間であるのに自分をポケモン、それも俺の手持ちだと言うこいつは演技なのかガチなのか。どちらであってもひとまずジョーイさんに頭の方を見てもらわないと。演技だったら発想からして正常でないし、ガチなら言わずもがなだ。それともあれか、今流行りの転生したら勇者でした的なやつで、シンオウでポケモンやってたらある日突然人間に転生してました、ってか。売ってそう……。
今度本屋で探してみようと思いながら、先程放り投げたポケギアを再度手に取りポケモンセンター、通称ポケセンへ繋ぐ。レントラーの安否も気になるが、あいつは俺が一番育てあげたポケモンだ。その辺の奴等には負けないだろう。そこまで考えるとポケギアからポケセンの音楽が聞こえてきたので意識をそちらに向ける。お馴染みの、ててててんてんてててん、だ。

「あらナマエさん、どうなされました?」
「ちょっと頭の方を見てもらいたい奴がいるんですけど。あ、人間で」
「頭?何処かへぶつけちゃったのかしら」
「いえ、そういうのじゃなく中身が、」
「マスター酷ぇ!それオレのことだろ!」
「ちょっ……!」

俺がジョーイさんと話しているのを聞き、話の内容に対しての不満からかこのまま通報されるかもしれない不安に駆られたからなのか、こいつは俺からポケギア奪い取り、あろうことか無断で回線を切ってしまった。ジョーイさんがびっくりしちゃうだろ!俺の癒しのジョーイさんが!!ジョーイさんはみんなの天使。タケシが口説いちゃうのも分かるよ。

「お前何するんだよ」
「マスターはオレが異常者扱いされて傷つかないと思ってるのかよ、このドS!」
「感謝されることはあれど怒鳴られるのは納得いかない。早くレントラーの居場所を知りたいのにお前をジョーイさんの所まで連れて行ってやると言ってるんだ」
「だから、オレがそのレントラーだって言ってるじゃん」

ダメだな、こいつはもう手遅れだ。もう一度ポケギアを手に取り、今度はジュンサーさんへ繋ごうとする。するとポケギアははたき落とされた。壊れる!

「マスター、信じてくれよ!」
「……じゃあ俺とレントラーの出会いは何時何処で」
「オレがコリンクの時に202番道路で。因みにモンスターボールは投げたと言うより手から滑ってた」
「……俺が何歳の時?」
「13歳」

……。おいおい、こいつぁ驚いた。どうやら本当に「シンオウでポケモンやってたらある日突然人間になってました」じゃないか。
俺が旅に出たのはこいつの言うとおり13歳。周りが10歳で旅に出る中、家の手伝いが忙しくて旅に出ることが出来なかったのだ。13歳になり、旅に出ていた姉が帰ってきて、漸く自分も旅に出ることができた。このことを知ってるのはごく一部の人間だけ。更にモンスターボールの件は、周りに人はいなかった為レントラーしか知らないはずだ。もちろん投げようと思ったモンボが手から滑り落ちてたまたまコリンクに当たってゲットできました、なんて恥ずかしいこと自分から他の人に言うわけもない。

「本当にレントラー、なんだな」
「だからさっきからそう言ってるじゃん」
「何で人間になったんだ?」

この人間がレントラーだということは信じよう。現実は小説より奇なり。俺じゃなきゃ信じなかったね。なろう小説をむさぼり読んだ俺じゃなきゃ、ね。
けど、何故人間の姿になったのか。よくある転生系の話では、刺されたり交通事故にあったりして死ぬ、本やゲームを開いたら突然目を開けられないくらいの眩しい光があたりを包み気づいたら本、漫画の世界、というのが多いが。レントラーは昨日俺とともにベッドで寝たはずなので、どちらの可能性もないだろう。そもそも本読まないしな、こいつ。

「オレにもハッキリとは分かんねぇ」
「気付いたらこの姿にってことか」

変な薬を飲まされたということもないだろう。四六時中俺の側にいたのだから、何か怪しいことをする奴がいれば気付く。とすれば人間になった理由はなんだ。まさか俺のあずかり知らぬところで変なものでも拾い食いしたんじゃないのかこいつ。美味しそうな香りのするポフィンのかけらとか落ちてたら、試しに舐めてみるもんな。全く誰に似たんだか。……俺じゃないぞ。俺はそんなお行儀の悪いことはしない。ちゃんと3秒ルールを守る男だ。安心した、間違いなく俺に似たことが判明。

「あのさ、ハッキリとした理由は分かんねぇけど、こうじゃないかなっていう憶測はある」
「どんな」
「多分オレがマスターのこと好きすぎて人間になって触れ合いたいって思ったからだと思うんだ」
「本当に憶測の域を出ないな」

自分の意志で本当にできるものなのか。それとも神様が叶えてくれたとかファンタジックな出来事なのか。いやでも、たしかに俺の読んでた転生漫画にもゲームのキャラが好きすぎて転生するやつもあるし……。人が思いつく限りのことは実現できるとも言うしな。俺もそろそろ転生したら村人だったけどレベルマックスでみんなにすげぇすげぇ言われたい。煩悩しかない。

「なぁ、ポケモンには戻れるのか」
「うーん、やってみるよ」

レントラーがそう言うと突然辺りが光だし、……なんてこともなく、するすると縮み元のレントラーの姿へとなった。本当にレントラーだったのか。いや、先程の尋問で分かってはいたが実際に変化課程を見ると、改めてこいつはレントラーだったのかと思う。

「ポケモンに戻れるんだな。じゃあ悪いがまた人間になってくれ」

レントラーへそう言葉を投げ掛けるとレントラーの体は先程のようにするすると、だが今度は大きくなる。人間になるとレントラーは俺より少しばかり背が高い。なんでだよ。顔も整ってて背も俺より高いって我が相棒ながら嫉妬しちゃうぜ。処す?処す?心が狭い。

「マ、マスター……!」
「なんだ」
「……!」
「顔赤いぞ、大丈、」

大丈夫か、と最後まで言葉を紡ぐことはできなかった。レントラーに口を塞がれたために。それは優しく触れるだけのものではなく、噛み付くようなもので……ってなにやってんだ!飼い犬が飼い主に噛み付くなんて!俺そんなひどいことしたか?こんなに愛情注いできたのに!!まあさっきはベッドから落としてしまったが。さらには頭の中でレントラーの見た目に嫉妬心を燃やし妬んでいたが。けど落としても布団がクッションがわりになって無事だったし、実行に移さなければ脳内で何を考えるのも自由だし?何も俺悪くないし?性格が悪い。

「むーっ!!はぁっ。おま、何すんだ!」
「マスターがオレに上目遣いするからさ、誘ってんのかと思って」

上目遣いで誘ってるだと。誰が。俺か。いや、そんなわけないだろ!そもそも上目遣いになったのは故意にやったわけじゃない。不可抗力だ。むしろ俺は見下すくらいの身長が欲しかった。それに誘っただなんて。

「どこでそんなこと覚えたんだよ、まったく」
「ミミロップが上目遣いは誘いの合図だってさ」
「ミミロップゥゥゥ!」

俺の手持ちはなんて話をしてたんだ。いや、人間でも年頃になればそういう話をしたりはするが、上目遣いと誘いをイコールで結ぶのは間違ってる。ミミロップはなんて余計なことをくっちゃべってくれるんだ。というかそれ以前の問題で、俺はノンケだ。

「レントラー、発情期なのは分かるが俺にキスするのは間違ってる。だれかれ構わずするんじゃない」
「何言ってんの。オレ、マスターにしかキスしねぇよ」
「言っておくが俺は男だ。雄だ」
「何今更。それくらい知ってるよ。何年過ごしてきたと思ってるの」

なにこいつ馬鹿なこと言ってんの?みたいな目で見てくるな。こっちの感覚がおかしいみたいになるだろ。いや、まてよ、もしかして俺の感覚がおかしい?そうか、好きもキスも、恋愛としてではなく忠誠とかそれの類いなんじゃないか。何でも恋愛につなげちゃうのがいけなかったな。

「あ、ミミロップに聞いたんだけど、子どもは流石にできないけど男同士でも性交はできるから問題ないって」

違った!忠誠のそれじゃなかった!しかも性交だと!ん、成功?男同士でも成功できるってことか、なんだ。いやいや、無理があるよこの誤魔化し方は。何が成功するんだ?子作り?ってことだろ。どうしろと。

「とりあえず戻れレントラー!」

オレはモンスターボールを手に取りレントラーをボールへ戻す、はずだったが戻らない。人型だと戻らないのか!

「マスター、オレ念願の人間になれたから。ね!!」
「そ、そうだ、さっきレントラーが無断で切ったからジョーイさん心配してるだろうな。お詫びしに行かないと」

出かける準備をするべくオレはそそくさと洗面所へ足を進める。それについてくるレントラー。ちょっと離れなさいよ。今のお前は相棒であり、俺の貞操を脅かす悪魔だからな。

「マスター」
「お前も顔洗って行くぞ。できればポケモンへ戻ってくれたら嬉しいが」
「ちぇ、じゃあ帰ったら、な」

帰ったらそこで試合終了ですよ。安西先生……!!
俺は試合を放棄しない。身の安全なために今日はポケセンに泊まろう。

dangerous partner

(ところで何で上半身裸なんだ)
(ミミロップが人間の男は好きな人と寝る時に上を脱ぐもんだって言ってたから)
(ミミロップちょっと出てこいこのばか者!)

2012.06.10


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