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□至高のエンド
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「これからは、ずっとこの部屋にいてね」

電気はつけてよ、真っ暗だよ。

コウキに見せたいものがあると誘われ、ある部屋の前に連れてこられた。扉を開けるとただただ真っ暗で、よくよく目を凝らすと暗がりの奥にベッドのようなものがある。むしろそれしかない。そんな寂しい部屋だった。こんな場所に居ろだなんてコウキはどういうつもりなんだ。

俺とコウキは親友と呼べる関係。俺の方が一応年上だが、ポケモンのことについては、ナナカマド博士の助手なだけあってコウキの方が詳しい。そんなコウキを俺は尊敬し良好な関係を築いてきたと思ってたんだが。どうやら途中で道を誤ったらしい。
これが噂のヤンデレというやつだろうか。ヤンデレの親友に愛されすぎて困っています。ラノベのタイトルか。

そういえば思い当たる節はいくらかあった。
友達と遊んだ次の日、何故かそいつはポケモンに襲われた怪我を負っていたり。
残り一つだったピッピ人形を先にたんぱんこぞうに買われてしょんぼりしてたら、これまた何故か怪我したたんぱんこぞうが戻ってきて気が変わったからって俺に譲ってくれたり。この時は俺ツいてるくらいにしか思ってなかったが。いや、ツいてることにはツいていたが表記するならばむしろ憑いてるだな。
で、極めつけには殺しちゃいたいくらい好きだよ、ってコウキにいつも呟かれてた。……何故気付かなかった俺。いやだって、食べちゃいたいくらいかわいい、みたいな意味かと思ってたんだ。冗談だと思うだろ普通。まさかそれがヤンデレ的意味を含有していたなんて、夢にも思わないよ。第一俺たちは友達でそれ以上の感情なんて持ち合わせていないのだから。
行き過ぎた友情愛?確かに親友と呼べるくらいに仲はいいが。まさかこいつが俺を閉じ込めておきたいくらいに好いてくれてるとは。どうせなら普通の愛情をください。

「いや、まだ俺バッジ集めの途中だし。ここにはとどまれないかな。あ、でも会う約束はいつでもできるからさ」
「彼女でもいるの?」
「は?いやいや、いないって知ってるだろ」
「そうだよね。ナマエには僕以外必要ないもんね。だからナマエに近付く女は僕が散らしてきたしいるわけないよね」

散らしてきたって何したの?!俺に女っ気がないのはこいつのせいだったのか。まあ別に俺ってそんなに大した奴じゃなく、その辺にごろごろいるしがない一般トレーナーだから、モテることもないだろうが。にしても!よくよく考えたらバトルだって男とばかりしてきた気がする。女の人とするのはジム戦とか公式戦のみ。そこまで管理されてたのかよ。すごいわ。
そもそも何故こんなに病まれるくらい好かれてるんだ。もしや、コウキはナナカマド博士の手伝いで忙しくて、なかなか他の友達と遊ぶ機会がなかったからか?だから俺に依存したんだな、なるほど。全く、ナナカマド博士には困ったものだ。10歳で遊び盛りの子どもを拘束するなんて。

「ねぇ、部屋に入らないの?」
「コウキ、お前は多分他の奴と遊ぶ時間がなかったから俺に依存してるだけだ。俺からナナカマド博士に休みが貰えるよう言っといてやるから、ジュンやヒカリ、他にもいろんな人と遊んで視野を広げてこい」
「僕と一緒にいるのが嫌なの?だから遠ざけようとしてるんだよね。僕から離れようだなんてそんなこと許さない!」
「きゃっ」

きゃっ!なんて少女漫画のヒロインさながらの可愛らしい悲鳴じゃないか。これから王子様が守ってくれるんだよな。守って。
キレたコウキが勢いよく掴みかかってきたため、俺は体制を崩し硬く冷たい床にしりもちをついた。まじ痛い、お尻割れたんじゃねコレ。王子様、今だよ今。今助けて。

「僕がこんなにナマエを愛してるのに!どうしてナマエは僕を遠ざけようとするの?ねぇ?」

コウキの白い手が俺の頬と首にあてがわれた。冷たい手が首筋にあり、自然と顔が強張る。頬はいいとして首に添えられたこの手はなんなんですか。絞めるつもりじゃないよね?バッドエンドなんて望んでない。俺はハッピーエンドしか認めない!いや待て、この場合のハッピーエンドってなんだ。

「遠ざけようとなんてしてない。ただコウキには俺だけに依存せず、もっといろんな友達と触れ合って視野を広げてほしいなって」
「だからそれが僕を遠ざけようとしてるんじゃないか!」

頬に当てられていた方の手も首に添えられる。バッドエンドまっしぐらじゃねぇか!俺まだ生きたい!この先長いのよ!

「違う違う!コウキが好きだからこういうこと言うんだって!」
「僕のことが好き?」

今まさに力がこめられそうになっていた手がスッと離れる。バッドエンド回避成功?よくやった俺、ミッションクリア。首の開放感に涙が出そう。首への圧迫こわすぎて、これからマフラーも巻けなくなりそうだよ。

「僕が好きならこの部屋に入ってくれるよね」

▽新たな バッドエンドが 表れた!
ていうかふりだしに戻ったのかコレ。部屋に監禁されるか死ぬかしかないエンド。無理ゲー。全年齢対象のはずだろ!勘弁してくれ。

「コウキ、俺は他の奴なんかよりコウキが一番好きだから閉じ込める必要なんてないだろ。な!」
「でも可能性はゼロじゃないでしょ。それに僕は他の奴等にナマエを見られるのも嫌なんだ」
「じゃあそれを言ったら俺だってコウキが他の奴に見られるのは嫌だ。でも生きていくためにはそうもいかないだろ」
「……」

俺の熱意は伝わっただろうか。多少大袈裟に言ったところはあるが、嘘は言ってない。一番好きだよコウキのこと。親友として。でもまぁ別にコウキが他の人に見られても、な。むしろもっといろんな人間ときゃっきゃするべきだと思う。まあバッドエンドを回避するためなのだから、多少話を盛るくらい許されるだろう。

「じゃあずっと二人でここにいようか。食事なんかは博士に持ってきてもらおう。これで全て解決したね!」

回避できない、だと?そんなバカな。コウキは満面の笑みで全て解決だと言ったが、俺の中では何一つ解決してないぞ。問題しかないわ。

「よし、落ち着こうかコウキ」
「文句あるの?僕とナマエの二人だけの空間だよ。何人も邪魔しにこれない。ねぇ、これ以上ないくらいステキなアイデアだよね」
「また!」

またも首にあてがわれるコウキの冷たい手。マフラーも巻けなくなっちゃった俺に上乗せの恐怖。え、何。また俺バッドエンドまっしぐらなの?ていうかもうコウキからの愛は俺にとってのハッピーエンドをもたらしてはくれないの?コウキからしたら俺が死んでも監禁されてもハッピーエンドだろうけど。そんなバイオレンスな愛はやめてくれ、切実に。

「ナマエなら、僕のアイデアに賛成するよね?だって僕とナマエは相思相愛だもんね。断るなんて有り得ない。そうでしょ、ナマエ」

据わった目でこちらを見つめ、俺の返答を待つコウキ。首に手があてがわれているということもあって、俺は下手なことを言えない。最初から俺に用意されたエンドは監禁か死か。ハッピーエンドにはなり得ない運命だったんだな畜生。だったら俺が選ぶエンドはもう、一つしかないだろう。

「そうだな。俺はコウキの意見に賛成するよ」
「うん、ナマエならそう言うと思ってた!」

ようやく首から離された手に再び安堵する。死ぬのはいただけないからな。監禁ならいつかは終わると思うんだ。コウキもお母さんやお父さんや妹に会いたくなってくるだろうし。10歳の子どもが閉鎖的生活に耐えれるわけないさ。だからそれまでの辛抱。それにいざとなればコウキの寝てる間に逃げればいいし。ナナカマド博士に頼んで、テレポートのできるポケモンに逃してもらうのも有りだ。

「じゃあ僕は博士に食事のこととか頼んでくるね!」
「ああ」
「あ、僕のいない間に逃げたりしないでね。まあもし逃げても必ず捕まえて、僕の側から離れたことを後悔させるだけだけど」

笑顔でそう言い放ったコウキ。俺のもしもの時の逃亡計画は不可能だということが分かった。どうやらコウキが耐えれなくなるのをひたすらに待つしかないらしい。飽きろ!秒で俺に飽きてしまえ!1、2、3、ポカン!忘れろ!

「これからはずーっと一緒だね!ずっとずっと!」

ひたすらに待つというささやかな可能性でさえも、コウキの歪んだ笑顔を見ると叶わない気がしてきた。
とりあえずヤンデレ怖い。

至高のエンド

(言わずもがな、至高だと思っているのはコウキだけである)
(ナマエ、何か言った?)
(…ナンデモナイヨ)

2012.11.19


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