なんということだ。体の震えが止まらない。 試験開始まであと15分。そのため、席について面接時のシュミレーションをしている。カタカタと体を震わせながら。 一番後ろの席で良かった。一番前の席でこんな醜態を晒すなんてありえない。もし前なら緊張していること周囲に丸分かりじゃないか。 この戦場では味方などいない。友達は選抜Uで受けたり、他の学校だったりでいない。とってもアウェーなのだ。つまりみんな敵。だったら少しでも不安を煽ってやりたいところだが、これではむしろ安心させてしまう。「あ、なんだあいつも緊張してるんだ」とか「震えてるあいつに比べればオレは大丈夫なほうか」とかね。そんなこと考えるのは私くらいだよ。性格の悪さが自分にダメージを与えている。くそう、このままではろくな結果にならない。焦ることはないさ、無になれ自分。……いやいや、無にならずに面接のシュミレーションせねば。いやだから震えが!悪循環。 「おい、大丈夫か」 「はい?」 隣りの席の男に突然バトルを仕掛けられた。 大丈夫って何が?私の頭のこと?身の程知らずにこの学校を受験するなんて頭大丈夫かってこと?ぶっ飛ばすぞ。 頭で言えば隣りのコイツの方がやばそうだ。髪型が。何あれ寝癖?ウニみたい。面接もあるのによくそんな髪型で来たな。 私の性格の悪さが留まるところを知らない。受験は人を魔物にする。決して私の性格がもともと悪いわけじゃない。本来は純粋で虫も殺さないような性格なの私。おっと蚊が。パチン。冬なのに蚊が飛ぶわけないだろ冗談だよ。 まって、なんの話だっけ。 「さっきからずっと震えてんじゃん。体調でも悪いのかよ」 「いや、そういうわけじゃ」 「でも、尋常じゃないほど震えてるだろ。寒気がするとか、」 「しません」 「いや、そんな無理しないほうがいいぜ。あれならオレが保健室まで送るけど」 「いりません」 尋常じゃないほど震えてる、だと…!恥ずかしい!何なのこの人、私を動揺させて試験失敗させるつもりなの?更には保健室に強制連行して受験者の母数を減らそうとかそういう魂胆か。恐ろしい、そしてずる賢い!正々堂々戦え!私も人のこと言えた義理じゃない。 「でもその震え、明らかに大丈夫じゃないだろ」 「だから、これは別に体調が悪いわけじゃないし」 「じゃあ何で……あ、もしかして緊張からか?」 「は?」 「なるほどな。分かるぜ、その気持ち」 「は?」 もしかしなくても緊張からの震えって分かるでしょ。ていうか分かってたんじゃないの?え、まさか嫌味とか私を陥れる戦略とかじゃなくて、本気で体調心配してたの?やだ、この人も虫も殺せないピュアだっていうの…。そんな、嘘よ…。 「オレも緊張してさ、ほら見ろよコレ。実は靴下の色、左右バラバラに履いてきちまってさ」 「それはないわ」 「お前、真顔で言うなよ。切なくなるだろ」 いや、だって普通、受験当日に間違うか?家を出る前に確認するだろう。しかも靴下の長さが違うとかなら分かるが、なんで黒とグレーだよ。履いた時に気づくでしょ。ズボンと中履きのシューズで靴下が見えないからいいものの、もし女子だったらアウトだ。 「ま、いっか。震えも止まったみたいだしな」 「え?」 …本当だ。いつの間にか震えがおさまってる。このウニみたいな人と話すことでリラックスできたのか。これでいい感じにシュミレーションができそうだ。小論文だっていつもの調子で、慌てることなく書けるだろう。 ……ウニの人は、まさかコレが狙いで? 「それじゃ、お互い頑張ろうぜ」 「あ、あのさ」 「ん?」 「ありがと。その、話すことで震え止まったし、うん。……頑張ろうね」 「あぁ」 二カッと笑ったウニに不覚にもときめいてしまった。この人と一緒にこの学校に通えたらいいなーなんて。ちょろいぞ私。 でも、本当にウニと話したことでかなり安心できた。 試験開始まであと10分。隣りの席のウニをちらりと見て、私は最終確認を始める。 なんとしてでもこの学校に受かってみせる! 目指すものは (この手で合格をGETしてみせる!) ――― 推薦を受ける人へ向けての応援小説です。まって、受験生は恐らく勉強中。 2013.02.03 |