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□瞳が映す狂気
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次に目覚めた時、辺りは真っ暗だった。大分眠った気がするがまだ夜なのか。それにしても本当に暗い。闇の中に一人ぼっちということから不安になる。誰かいないかな。そういえばさっきトウヤくんの夢を見たが、ここはまだ夢の中なのだろうか。暗闇に少し目が慣れてきたため部屋の様子がぼんやり分かるが、ここは私の部屋じゃない。何だかここはひどく殺風景だ。私の部屋にはいつどの推しが来ても大丈夫なように、いい香りが漂う女の子らしい部屋にしてるからね。まあ実際来るのは通信してくれる弟くらいなんだけど。悲しすぎる事実。閑話休題、結局ここはまだ夢の中か。またさっきの続きが見れてるといいんだけどなー。そうぼんやり考えていると、急に扉が開いた。開けられた扉から差し込んだ光に目を細めながら、そこに立つ人物を見やる。

「トウヤ、くん?」
「あ、起きたんだ」

こちらからだと顔は影っていて見えないが、先ほどまで聞いていた声にトウヤくんだと分かりほっとする。私は立ち上がり、トウヤくんの側へ行こうとした。

―ジャラッ

「は?」

そう、行こうとしたのだが何かがひっかかって進めない。それに腕や足が重い。
と、急にトウヤくんがパチリと明かりをつける。急に光を取り入れた目は、眩しさにぼんやりしてしまうが、少しの間瞬きをすると徐々に慣れてくる。少しずつ見えてきたものは腕や足に繋がっているもので。ふーん、えっちじゃん?何て言っている場合ではない。人生で初めてだよこんな経験。鎖でベッドに繋がれるなんて。

「ごめん、トウヤくん、助けてほしい」
「助けて?」
「え、うん。この鎖を外してほしい」
「何で?」

何で、とな?そんなに不思議そうに言う?ベッドに繋がれることが人類のアドバンテージだったっけ?私が知らないだけ?いや知ってるよ、このシチュエーション、もしかしてこの後私をどちゃくそに抱くんでしょ!エロ同人みたいに!!だとすればなぜそんなシチュエーションに私がなっているんだ。世の中は間違っている。
よく分からないけど、今の私は側から見て危ない状態だよね。普通なら助ける、よね?それとも何、ここに繋いだのは、トウヤくんだと?ふーん、えっちじゃん?だからそういう場合ではない。トウヤくんだとしても怖すぎでしょこのプレイ。

「ぼくさ、ナマエちゃんにどのタイプになればいいかって聞いたよね」
「え、うん」
「ナマエちゃん、防御重視がいいって言ったよね」
「言ったけど」
「だからだよ」
「うん?」

話の繋がりが分からない。防御重視を頼んで何故こうなる。私が攻撃しないために鎖で繋いでるとか。それで自分を防御してるのか。そんなに私血の気多くないんだけど。確かにタイプ相性より力でごり押しするところがよくあるけど。ポケモンバトルに限りで私自身はそんなことしません。

「ナマエちゃんが他の奴等に狙われないよう、ぼくがこれからずっとこうやって防御してあげる」

あ、そっち〜。私のことを防御してくれてたのね。防御っていうか監禁なんだけど。確かに完璧な防御だよね。外からの情報を断ち切って、鎖で繋いで逃げられないようにして。でもそれって、怖すぎない?監禁されるんだったら攻撃重視にしてもらえば良かった。くそ、選択ミス。

「あぁ、因みに攻撃重視だったらナマエちゃんに近付く奴みんな殺しちゃってたけどね」

ぼく的にはそれでも全然いいんだけど、と笑顔で言うトウヤくん。そういえばジャッジさんと話した時、防御重視で良かったね、と言っていた。それはこういう意味だったのか。私の選択は全く間違っていなかった。危うくジャッジさんが殺されるところだったよ。私は大切な命を守ったわけよ。何でポケモンでそんな命がけの話になるのよ。いや、それは昔からか。人に向かってはかいこうせん打つ危ないやつもいたもんな。それがチャンピオン。
それにしても、私の想像してたトウヤくんと大分違う。誰だコレ状態。自分の夢だってのに理想と違うなんて。まだまだあたしも妄想スキルが足りないようだ。いや、ヤンデレトウヤくんの夢を見ているあたり、逆に妄想スキルは十分に備わっているのかもしれない。普段見ないジャンルも開拓するのんて。才能の鎌足。

「あんまり怖がってないみたいだね。もしかして監禁されるの好き?」
「いや、それはない」

監禁されるのが好きって、そんな人なかなかいないよ。希少価値だよ。まぁ、確かにそこまで恐怖はないが。どうせ夢だしね。少し絶望したりしたけど、夢だからしょうがないと割り切った。目が覚めたらこれもいい思い出の一つだよ。覚えてたらな。夢って大抵御廟も覚えてない。儚い。

「それとももしかして、夢だと思ってる?」
「え?」
「図星、かな。……ねぇナマエちゃん、残念だけどコレ、夢じゃないよ」

そんな馬鹿な。これが現実だったらとんでもないことである。だってゲームの世界に入ったってことでしょ。そんな馬鹿なことがあるわけない。バーチャル映像で入った気分になれるというのではなく、実際に体がゲーム機器の中に入るだなんて。そんなことができるのは恐らく某青ダヌキくらいだろう。いや、アレはたぬきじゃないが。なにこれドッキリ?私ユーチューバーでもなんでもない、しがない学生なんだけど。どこからのドッキリ??

「ぼくさ、ずっとこうやって会えるのを楽しみにしてたんだ。ナマエちゃんがぼくに会いにきてくれる度、実際に会ってみたくって。だからさ、もう帰さないよ。ナマエちゃんもぼくに会いたいって言ってたから、問題ないよね」

本当にとんでもない夢を見ている。ありえないよねこんなの。病んでるあまり二次元と三次元の壁を越えさせちゃうなんて、トウヤくんったら。自分では気付かなかったが、夢に見るほど病んでるトウヤくんが好きだったのか。新たな自分に出会えた日ですね。ヤンデレ記念日。そんな記念日はいらない。

「あれ、震えてるみたいだけど大丈夫?そんなに怖がらなくても、ぼくがずっと側にいてあげるからね」

安心してよ、って笑うトウヤくん。据わった目で笑いかけてくるトウヤくん。君のどの辺に安心すればいいんだろう。ちょっとその感覚分からないなお姉さん。
心の中で強がったって震えはおさまらない。なんてことだ、こわい。意識を飛ばす前だってこわいって思ってたのに。なんであの時に何かアクション起こさなかったの?

「ナマエちゃんの僕に会いたいって望みは叶ったよ。今度は僕が望んだように、ナマエちゃんはここにずっと居てね」

トウヤくんに優しく頬を撫ぜられる。
ああ、きっともう逃げられない。
トウヤくんの歪んだ瞳には、絶望した少女が映っていた。

瞳が映す狂気

(これが夢だったら……)
(後悔しか残ってない私は、今日も暗い部屋でトウヤくんからの歪んだ愛を受ける)


2013.02.06
 
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