『寒い』 秋も深まり紅葉が見ごろになってきた10月。ひたすらに寒い。マフラーに顔をうずめて歩くため、視線も自然と下がり、せっかくの紅葉も視界に入らない。ポケセンに預けていたポケモン達を受け取った帰り、まだ5時だというのに辺りは暗く風も冷たい。こんな寒い日は家でコタツに入りアイスを食べるのがいい。コタツに入りながら食べるアイスは格別だ。外では温かいココアを飲むのがいいね。持っている手も温もるし、もちろん飲むと体も温まる。ということでココア買おう。 近くの自販機に向かい、温かい飲み物を見る。 『あ、おしるこがあるじゃん』 この時期になると、あったかーいの列に並ぶおしるこ。あたしは甘いものが好きなため、この時期にしか出ない特別な存在であるおしるこは毎年必ず買うのだ。ココアもいいがせっかくおしるこがあるのだから、ここはおしるこを買うしかないだろう。一種の宿命のようなものを感じ、あたしはおしるこを購入する。缶を手に取ると、冷えきっていた手が次第に温もる。うおー、あったけぇ。両手でしっかりと缶を握り、手を温めながら再び帰路に立つ。 「あら、ナマエじゃない」 『ん?あ、トウコちゃん』 自転車にまたがり声をかけてきたのは、幼馴染みのトウコちゃん。ホットパンツから伸びる長い足は、タイツをはいているとはいえ寒そうである。そういうあたしもミニスカートにタイツなのだが。やっぱ寒いね。こんなに足を出してる上に自転車に乗るだなんてあたしには考えられない。トウコちゃんは元気だな。 「珍しいわね、ナマエが外に出てるなんて」 『人を引きこもりみたいに言わないでよ』 「だってナマエ、寒くなったら全く外に出てこないじゃない」 確かにあたしは、毎年寒くなると家にこもる。コタツに入り、ポケモンたちとまったりする生活を送るのだ。だがしかし、たまにはバトルしたり散歩に出かけたりもしてるぞ。2週間に1回くらいは家から出てるもん。…あ、わりと少なかった。悔しいが確かに引きこもりだ。 「今帰りでしょ?後ろ乗らない?」 『寒いからいいや。歩くよ』 「歩くより早く家に着くわよ」 『いや、自転車だと風をきるから寒いし』 「そう?案外平気よ」 それは元気なトウコちゃんだから平気なのであって。寒がりなあたしには無理です。歩いてるだけで挫けそうなのに自転車に乗ったら凍え死ぬ。 「ま、いいから乗って」 『え、やだよ寒いもん』 「いいからいいから」 何がいいのだろうか。あたしには何一ついいと思われることはなかったが。トウコちゃんの頭の中でどんな会議があってそのような結果になったのか知りたい。 「今日はこれからナマエの家行こうと思ってアイス買ったのよ」 『まじでか。よくアイスをチョイスしたね』 「ナマエ、コタツで食べるアイス好きでしょ」 『おうよ。さすがトウコちゃん。で、それと自転車に乗るのどう関係があるの』 「ちんたら歩いてたら溶けちゃうでしょ」 それはない。これだけ寒いし、何より家へはすぐ着く。ゆっくり歩いてもアイスが食べれなくなるほど溶ける心配はないだろう。 『アイスが溶けちゃうほど家遠くないよ』 「まあまあ。乗りなさいって」 『ちょ、話が進まない』 「ナマエが自転車に乗れば解決でしょ」 だから寒いんだって。乗りたくないんだって。そこんとこオーケー?分かってくれてる? 『じゃあもうトウコちゃん先に行って家上がっててよ』 「そんなに嫌なの?あたしと自転車に乗るの」 『いや、一緒に乗るのが嫌なんじゃなくて寒いのが嫌なの』 「それなら大丈夫よ。だって二人で引っ付いてた方があったかいでしょ」 『いや、だから風が、』 「もう!私がナマエと引っ付いて乗りたいの!」 え、なにそれズキュン。そんな可愛いこと言われたら断れないよ。くそう、さすが幼馴染み。あたしのツボをいい感じに突いてきやがる。 「女の子にここまで言わせたんだから、断ったら許さないわよ」 『いや、あたしも女の子ですけどね。まあトウコちゃんの可愛さに免じて自転車に乗るよ』 「そうこなきゃ。さ、乗って」 トウコちゃんの後ろに乗る。自転車の冷たさがタイツを通して伝わってきた。うおお、寒い。振り落とされないためと寒さのために、トウコちゃんにしっかり抱き付く。 「それじゃ行くわよ」 『あいよー』 トウコちゃんが自転車をこぎ始める。やっぱり肌に当たる風は冷たい。それでもトウコちゃんに抱き付いてるから、いくらか温かくはある。 「ナマエがひっついててくれるから温かいわ。人間カイロね」 『人間カイロって。お役に立てて嬉しいですよー』 「私もナマエと久し振りに二人乗りできて嬉しいわ」 『……またトウコちゃんは…』 やっぱいちいちあたしのツボを押さえてくるんだよなこの子は。幼馴染みって怖い。 まぁでも、寒いのも嫌いだしこの時期あまり外には出たくなかったけど、こうやってトウコちゃんと一緒に過ごすのならたまには外に出るのもいいかもしれないな。 感じた温もり ――― トウコちゃんと二けつしたい。(※二人乗りは危険です) そしてこの季節感のなさ。10月なんてとっくの昔に過ぎたよ。もう春だよ。 2013.02.26 |