pkmn

□計画通り
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ついに、ついに見つけたぞ!この丸み。あわいピンク色。やわらかな感触。ああ、何ていう愛らしさ!!!いつも私が買いに来た時はなぜか売り切れで手に入らなかったけど、今日ようやく出会えたよマイフェアリー!!
こんなに愛らしいものを身代わりに置いていくなんて私にはできない。でもこんなに可愛かったらポケモンもそりゃ威嚇やめて恋しちゃうよね。フォーリンラブだよ。ペロペロしちゃう。おっと、いかん、ヒロインにあるまじき発言。でもそれくらい私は興奮している。
この運命的出会いに落ち着いていられるだろうか、いや、落ち着けない。だって残り一つだから。売り切れ直前だからね!!
と、そうだ、感動冷めやらぬがそれより先にゲットしないと。他の人に買われてしまう。さぁ、ピンクの妖精よ、私の手の中へ!!!

「あ」
「あっ…」

ピンクの妖精は私の手の中に入った。半分だけ。
残り一つのピンクの妖精を狙ったのはどうやら私だけではなかったようだ。分かるよ分かる。こんなに愛くるしい姿見ちゃったら手にしたくなっちゃうよね。でもさ、先にこの子と会ったのは私なのさ。確かに手にした瞬間は同時だったかもしれない。けど私は感動している間もこの子の前にいたわけだからさ。もっと言えばこの子の目の前で愛を語ってくどいてたわけね?心の中だけど、この子には伝わってたはずなのね?まぁつまり何が言いたいのかって、その汚い手を離せ。失礼。

「ピッピにんぎょう好きなんですか?」
「えぇまぁ、毎日抱いて愛情で押しつぶしたいくらいには好きです。あなたは?」
「俺はまぁシロガネヤマに登るときに使おうと思って」
「…シロガネヤマってあのシロガネヤマ?」

おいちょっと聞いたか。こいつシロガネヤマに登るんだってよ。あのシロガネヤマだぜ。猛吹雪のうえ、数々のトレーナーを敗った猛者(ポケモン)たちが集うシロガネヤマに。
…じゃあこの人とんでもなく強いんじゃ。私が娯楽で手に入れようとしてることがバレたら、そんなことに使うなら有効に使える俺に譲れ、って脅してくるんじゃ…。そうか。詰んだ。
でもでも、バトルで使うだけがこの子の生きる道じゃないから!!かの有名なお嬢様だってこのピッピにんぎょう大事に持ってたんだからね!バトルに使わず主人公にプレゼントしちゃう超大らかなお嬢様だよ。私とは天と地の差だな。ピッピにんぎょうに対してのみ。キャラデザは似たようなもんよ。私もアローラ でマラサダ食べまくっちゃうから。それはハウ。

「君がどのシロガネヤマを想像してるのかは分からないけど、多分そのシロガネヤマ」
「いやね、私はね、確かに愛情で押しつぶしたいくらいにこの子のこと好きだけど、ちゃんとその使命を全うとさせてあげようとは思ってるよ」
「じゃあバトルの時にそのピッピにんぎょうを置いていけるんですか?」
「いや、無理だな」
「即答なんですね」
「しまった!はめたなこのやろう!!」

こいつ、できる…!
私がこの子を見捨てていけないことを見破って、かまをかけてくるとは…。さすがシロガネヤマへ行けるだけの実力者である。私がちょろいだけともいう。
…ていうかこの人どっかで見たことある気がするんだけど。どこだったかな。うちのカフェの常連?違うな。……気のせいか。世の中似ている人なんてたくさんいるし。自分に似た人だって三人はいるらしいんだから。ましてや他人なんて見たことがあっても大体ハッキリとは思い出せず、覚えてるパーツパーツで似たところを認識するんだから、そりゃそっくりさんもごまんといるわけさ。それにシロガネヤマでマウント取ってくる人、人生でまだ一度も出会ったことないし。
さて、そんなことよりピッピにんぎょう。

「ここは平等にじゃんけんで決めようと思うんだけど、いかがかな」
「いや、」
「嫌?!因みにバトルは却下だよ!私トレーナーじゃないから、ミニスカートだから!!」

え、ミニスカートも立派なポケモントレーナーだって?ミニスカートはミニスカートであってミニスカート以外の何者でもないんだよ!!考えてみろよ、ミニスカートはミニスカートであってロングスカートでもタイトなスカートでも、ましてやズボンなんかでもないだろ!!だから私はミニスカートであり、ミニスカート以外の何者でもないんだよ!!この世ではそれをトレーナーに分類する。ミニスカートが通り名って悲しみ。私だってアロマなおねえさんとか、大人なお姉さんとかがいいよ。色気くらい出してみたい。…無理だな。まず性格に難あり。ミニスカートでいられることに感謝だよ。何歳でこれ剥奪されるんだろう。いや、おばあちゃんになっても私はミニスカ履き続けるんだからね。

「いや、そうじゃなくて、ピッピにんぎょうは君に譲るよ」
「え、いいんですか?え?え?」
「うん。俺は別に今すぐシロガネヤマに登るわけじゃないし。それにピッピにんぎょうがなくてもバトルに勝てばいいわけだし」
「くっ、このご恩は一生忘れないよ!!」

なんだよイケメンかよ神様かよ!サラッと俺は強いからノープロブレムとか言われたけど、そんなことよりこんなに可愛いピッピにんぎょうを譲ってくれるなんてとてもいい人!!フォーリンラブしてしまうわ!3秒くらい!1、2、3、ポカン。私はフォーリンラブしたことを忘れてしまった。

「あはは、大げさだなぁ。じゃあさ、ご恩は忘れないっていうなら、俺と友達になってよ」
「え、なに?僕と契約して魔法少女になってよ?」
「それでもいいね。俺と契約して奥さんになってよ」
「え、まじで何?なんの話?」

確かにピッピにんぎょうもらってフォーリンラブとか思ったけども。興奮しすぎて話ちゃんと聞いてなかった。これあれかな、ピッピにんぎょうあげたんだからそれなりの責任とれやってことかな?あれ、それ当たり屋じゃね?あれだろ、払えねぇならてめぇの身体で払ってもらおうか!そ、それだけはご勘弁を…!!あ〜れ〜!!ってやつだろ!!知識の偏り。

「冗談冗談。よかったらこれも何かの縁だし、俺と友達になってくれないかなって思って」
「あ、友達か。びっくりした、歯ぁガタガタ言わすぞって脅されるかと思った」
「いま君の中でどんな物語が繰り広げられたの?」

どうやら彼は私とお友達になりたかったらしい。この年になってお友達になろうってなんだそれ照れる。いや、彼は見たところ私より少し年下だろうから、全然恥ずかしくもむず痒くもないのだろうけども。私からしたらお、お友達だなんてそんなっ…。なんだかむずがゆいぞ。

「そうだね、戦友としてこれから仲良くしていこう」
「ナマエと戦った記憶ないけど」
「もう忘れたの?!ピッピにんぎょうをかけてあんなにも白熱した戦いを繰り広げたこと…!……待って今なんて?」
「ん?戦った記憶はないよって」
「その前だよ」
「…それにしても、君は面白いことを言うんだね。君みたいな子と友達になれて嬉しいよ」

▽目の前の少年はスルースキルを使った!
それチート技じゃねぇか。
さっきこの子、私の名を呼んだ?私たち初対面だよね。あれ、名前紹介したっけ…。あれ?君の名は、、?
私には知らない男の子と体がいれかわっちゃうこともなかったし、黄昏時に名前を書くと思わせて好きなんて書かれたこともないし、もしそうだとしても結局名前わからないわ。そんなわけで私の名前を初対面の相手が知ってるなんて…。まさか知らない間に私の個人情報が流出してるのでは。最近はちょっとネットに書き込むだけで特定される時代だからな。恐ろしい世の中である。
ネットに書き込んだ記憶なんてないけど、どこかで私の噂が広まってるのかもしれない。きっと私の隠れファンの仕業だな。

「そういえば俺の名前を言ってなかったね。俺はファイア。よろしくね」
「あ、私はナマエです」
「うん、さっき聞いたよ」

おおっと!!!どうやらネットでもファンの仕業でもなんでもなく、私自ら名乗っていたらしい。この短時間で記憶が曖昧とか私も年取ったな…。いやそんなバナナ。まぁでも確かに私自身が名乗る以外、彼が私の名を知る術はないよな。別に私、有名人でもなんでもないし。一般ピーポー極めてるし。ミニスカートなんで。つまり息をするようにサラッと名乗ったのだろう。意外とコミュ力高いのかもしれないよ私。

「さっそくなんだけど、友達としてこれから家に来て話しない?」
「あ、私この後予定あるんで」
「ああ、ジム戦だよね?今日はグリーンのジム閉まってるみたいだから、行っても無駄だよ」
「まじかよ、ジム休みとかマジかよ…!年中無休じゃないのかよ!ってちょっと待て」

この子何で私の予定知ってるの?私たち初対面だよね。あれ、予定詳しく言ったっけ…。あれ?何これデジャブ。
確かに予定あるからこの後は無理と伝えたが、ジム戦、それもグリーンさんのところへ向かうなんて一言も漏らしてない。…はず。ちょっと自分の記憶力に自信がないのが痛いところ。

「私は予定があると言いました」
「そうだね」
「しかし、その内容を言った覚えは、」
「さっき聞いたよ」
「えっ?」

おおっと!!!どうやら私は自ら予定の内容を告げたらしい!!ってんなバカな!!そんなタイミングなかったでしょ。初対面の人に、私これからグリーンさんのところジム戦挑みに行くんだよねー、なんて言うか?言うわけない!いくら私のコミュ力が高いからって、そんなことはしない。むしろコミュ力の高さで言えば彼の方が高い。なんで会ったその日に家呼ぶんだよ、ホップステップ踏もうぜ、いきなりジャンプしないでよ。どうせあんなことやこんなことしようと思ってたんでしょ!エロ同人みたいに!!

「きさま、なぜ私の予定を把握している」
「さっき自分で言ってたの、忘れたの?」
「いや、そんなはずないからね!騙されないよお姉さん!」
「因みに同い年だから」
「あ、そうなの?てっきり年下なのかと、ってちょっと待てい!!何で年まで…」
「だからさっき聞いたよ」
「嘘つけ!!」

この子、譲らない!まるで私が発言したかのように話を進めるが、その流れ、もう使えないでしょ!これだけ怪しまれても尚歪みなく嘘をつき続けるか…!!ピノキオなの?鼻伸びちゃうの??

「そんなことより、早く家に行こうよ」
「いや、行かないよ?!この流れではい行きます!なんてならないよ」
「残念だなぁ、僕の部屋には原寸大のピッピにんぎょうあるのに。たくさんあるから良ければあげようと思ってたんだけどなあ」
「さあ、早く行こうよ!」

え、ちょろい?うるさいわ!!原寸大の妖精人形くれるとか言われたら行くしかないでしょ!!むしろそれくれるファイアくんが妖精だわ!!
この際私のことをいろいろと知っていたことは言及すまい。世の中にはね、そんなことより大切なものがたくさんあるの。ピッピにんぎょうとかピッピにんぎょうとかね。原寸大とかどこ売ってたんだろう。もしかして作った…?

目の前の欲に踊らされた私は、この時ファイアくんがとっても悪い顔をしていたことを知る由もない。


計画通り


(原寸大、ピッピにんぎょうだああああ!!)
(喜んでもらえて良かった)
(まじ感謝感激あめあられ!!あ、でもこれどうやって持って帰ろう)
(それなら心配ないよ、ここに住むんだから)
(え?)
(え?)
(え!)
(ね?)


ーーー
タマムシデパートにて。
ストーカーファイアさん。

2016.04.03


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