激闘の末、ようやく勝負がついた。例え次ページには勝負が終わっていたとしても、主人公が激闘だったと言えば全てはその通りになる。主人公力とはそういうもの。 とはいえ、御二方は本当に強かった。例えスーパートレインでなくとも、私のような卵の厳選をしていないミニスカートには厳しいバトルとなる。だが、写真の撮りたさにつき動かされた今日の私は冴えていた。ポケモンの華麗なる技、私の適格な判断。ほれぼれする。 っていうのは半分フィクション。実際はトウヤくんが頑張ってくれて勝てました。私は一匹瀕死、もう一匹は赤色ピコンピコン。本当なのは写真撮りたい欲求の強さのみ。ほとんど嘘の塊じゃねえか。 いや、だって御二方強い。何あの強さ。今までのトレーナーの比じゃないよ。廃人施設の恐ろしさを身をもって知る羽目になるとは。そんな中でも安定の強さ、トウヤくんは本当パーフェクトヒューマン。ト、ウ、ヤ、トウヤ、いっつパーフェクトヒューマン。サングラスをかけたトウヤくんもきっとかっこいい。 それは置いといて、正直私はあまり活躍してないが勝ちは勝ち。約束どおり写真を撮らせてもらおう。 「ぼくクダリ。ノボリと一緒に負けちゃった。きみたちのコンビネーション最高、バツグン!」 「ブラボー!!」 サブマスに勝ったらこんなに褒めてもらえるの?ご褒美豪華すぎない?しかもノボリさんのテンションどうしたの。ふざけてるの?これ以上のおふざけは許さない、なぜなら!魚雷だから!魚雷ガールの名にかけて、これ以上のノボリさんのキャラ崩壊は阻止するわ。例えアニメでニッコリ顔して既にアイデンティティを失っていたとしても!! メタ発言はこれくらいにしておかないと消される。まって、消される前に写真を…。 「さらなる目標に向かって《パシャッ…」 「あ、続けてください」 「あーノボリだけずるい!ぼくも写真写る!」 「もちろんですよ!あ、御二人のツーショットとはもちろん、トウヤくんも混ざったスリーショットも撮りたいんですけど」 「え、ぼく?」 まさか自分まで巻き込まれるとは思っていなかったのだろう。トウヤくんは大きな目をさらに見開いて驚いている。びっくりした顔もとってもチャーミングよ、トウヤくん。トウヤ専属カメラマンの腕がなるぜ!今日は特別出演でサブマスも撮るけど。先週はたまたま通りがかった緑髪のイケメンも撮ったけど。私は一度専属という言葉を調べなおしたほうが良い。 「いったい何枚撮るおつもりでございますか!」 「最低30枚は撮らないと気がすみません」 私がそう告げると顔をひきつらせる面々。こんなことで顔をひきつらせるなんて、お前らそれでもプロかよ!モデルさんはな、数ページのために何百枚も写真を撮られるんだぞ!それに比べたら30枚なんてチョチョイのチョイでしょ!まったく、もっとプロの自覚を持ってほしいものである。一番自覚を持たねばいけないのは私である。不審者の。 「い、いくらなんでも撮りすぎでは。それにわたくしどももまだバトルが残ってございまして、」 「いくら御二人が本気のバトルじゃなくっても、ポケモン達は一生懸命頑張ってくれたし、次のバトルへ繋がる大切な一戦だったことには変わりないでしょう。ということで約束はきちんと守ってください!それに写真撮るのもそんなに時間をとらせません。5分もあれば終わります」 「「!」」 突然驚く御二方。私、なにか変なこと言った?支離滅裂なそれっぽい言い訳を並べただけで、説得力のない言葉だとは自分でも思ったけど、何か問題でも?今日もアグレッシブ。 それとも30枚もの写真撮影を5分で終わらせる技術に驚いた?それくらいで驚いてもらっちゃ困るね。私はイケメンの一挙一動を見逃さないために、1秒に5枚写真を撮れる技術を持っているのだよ。その技術を駆使してシンオウ地方で走り回るジュンくんの写真を撮り続けたのも記憶に新しい。遠方で私は何をしているんだ。ジュンくんは一度止まれ。 「そうでございますね。例え力量を抑えていても、次へ繋がる大切な一戦でございます。それは理解しているつもりでしたが、どうやら失念していました」 「ぼくもうっかり忘れてた!どのバトルにも意味がある!それを思い出させてくれるきみ、すごい!」 別にそこまで深い意味をこめて言ったんじゃない。写真を撮りたいがために適当にそれらしいこと言っただけである。でもそのことは黙っとこう。そしてこの御二人がこんな大切なことを忘れているわけがない。ということはまさか、使ってしまったか我が家に伝わる秘密の奥義を。こうなったのも計画通り。つまりは何をしても主人公のこの私が一番強いってことなんだよ!!嘘つきで権力を振りかざすヒロインなんて聞いたことがない。私が初めてなんじゃない?流行の最先端。嬉しくないわ。 「たまたまですよ。そんなことより写真を、」 「謙遜などしなくてもよろしいのですよ」 「いや、謙遜してないですよ。だから写真を、」 「ぼくきみのこと気に入っちゃった!」 「わたくしもあなたさまのことをクダリ同様に思っております」 イケメンな御二方に突然気に入られるってどこの夢小説だよ。この後どうせ「僕の攻撃を避けるなんて。面白い。君、明日から風紀委員ね」って展開になるんだろ!!それは雲雀夢。もしくは「へぇー、土方の攻撃避けるたぁ、やるじゃねぇかぃ。おもしれぇ、あんた、オレのおもちゃになりなせぇ」ってドS王子に遊ばれちゃうんでしょ!それも違う星のお話だよ。 とにもかくにも、自分のもつ主人公力が恐ろしい。 「大袈裟すぎですよ」 「そんなことない!それにぼく、その言葉だけで気に入ったんじゃないよ。きみだから、だよ!」 「そうでございます。なにかあなたさまに惹かれるものがあったからでございますよ」 もうこのシナリオには私の力じゃ抗えない。助けて、トウヤくん!とアンパンマンに助けをこうカバオくんさながらの涙目でトウヤくんにヘルプ申請すべく視線を送ると、なんだか禍々しいオーラを放つトウヤくんが立っていた。 分かったぜ、この展開。犯人は目に見えない特殊なパワーを持っていて、無意識化のうちにその能力を発動した、と。つまり、黒トウヤ寄りの逆ハーだ!!くっ、これが生まれ持った主人公力!!それならジュンくんも私のために少しでも立ち止まってほしかったわ。あの子常に駆け回ってるんだけど、落ち着きどこに落としてきたの?私のことそんなに嫌だったの?主人公力は地域が変わると発動されない模様。 「トウヤくん、怒ってるよね。なんかもう、いろいろごめん」 「ナマエちゃんに怒ってるわけじゃないから大丈夫だよ」 にこっと笑いかけてくれるトウヤくん。え、かっこよすぎない?因みに黒いオーラを放つトウヤくんも魔王みたいでかっこいいよ。黒トウヤとしての肩書きを遺憾なく発揮してるよ。黒なんちゃらって死語では。 「…トウヤ、だっけ。きみこわいよ。ナマエが怯えてる」 「え、今名前で…」 はいきました。名前呼びイベント。突然名前呼びをすることで、ヒロインをキュンとさせる上に親密度があがるという特別なイベント!それまでヒロインのことを「おい」とか「カス」って呼んでいたボスが突然名前を呼んできた時のようなあのトキメキが今ここに!あるわけがない。クダリさん、トウヤくんのことも名前呼びだからね。名前呼びがデフォなんですわこの人。そして私は怯えていない。ひとつ恐ろしく思うとすれば自分の主人公力に対してだよ。 「なれなれしく名前を呼ばないでください。ぼくの名前もナマエちゃんの名前も」 「お言葉でございますがあなたさまもナマエさまの御名前を断りもなく呼んでいるのでございましょう」 別に名前を呼ぼうが呼ぶまいが、好きにしてくれ。こちとら写真をまだ取れていなくてフラストレーションたまりまくりである。あれだけ主人公力をうたってきた私だが、そもそも主人公力があれば難なく写真撮れるのでは。己が思うままにイケメンの写真集められるのでは?それができない私は所詮かませ犬。よよよ。 「ナマエちゃんとぼくはパートナーだから当然です」 「それはきみの勝手な考え!きみの名前はずっと呼ばないけどナマエのことはナマエが決める!」 私のことについて話してくれているのに当人である私が蚊帳の外なのは一体全体どういうことなの。私の姿見えてる?大丈夫?私、主人公とちゃうんか。それとも実は幽霊だったパターンの切ない夢なの。勝手に殺すな。 「さっさとBP渡してください。ぼくたちもう戻るんで」 「BP渡してあげるからきみだけ帰れば。ぼくはまだナマエといる」 「ナマエさまはまだわたくしどもに用事がございますのであなたさまだけ先にお帰りになられても結構でございます」 だから写真を撮りたいんだって。誰も私の意思を尊重してくれない。まさかどさくさに紛れて写真を撮らせないつもりか?みんなそんなに被写体が嫌なの?そんなデルモみたいなナリして?才能の無駄遣いだと思わないのか。もっとカミツレさんを見習ってほしい。女も男も魅了する、カリスマモデルカミツレさん!さらにジムリーダー!ビリビリしちゃう!!むしろ痺れを切らしそうだよ私は。 「だいたい今日初めてあったのに何に惹かれたんですか」 「時間の問題じゃないよ。ぼくたちはきみ以上にナマエのこと考えてる!」 「会って数十分で?ぼくのほうが先にナマエちゃんに会ってるから、ナマエちゃんのことを考えてる時間は負けてない」 「クダリも申しましたように時間ではござません。どれだけナマエさまを強く思ってるかが重要でございます」 これ、聞いたら今後元の関係には戻れなくなるやつでは。己のヒロイン力が憎い、憎いぞ。写真は撮らせてもらえない上に空気になっているけれども。みんな私のこと無視しすぎだからな。誰も気づかないなんておかしいから絶対口裏あわせてきただろう。まさかの嫌われ夢……?いつから逆ハーだと勘違いしていた。トラウマになるわ。 「私もう帰りますね!バトルありがとうございました。トウヤくんもありがとね!それじゃ!」 不毛な争いに心を痛めたピュアハートな私は、トレインから降り、鉄道員さんに話しかけ一足先にライモンシティへ戻った。 もう、当分バトルサブウェイには行かない。 どうしてこうなった (私はただイケメンなみなさんを写真におさめたかっただけなのに。誰だ途中で夢あるあるのような展開に結びつけたのは。やるなら最後まで面倒みてくれ。ヒロインが空気になるなんて聞いてない) →おまけ |