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□僕のもの
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僕は君だけを愛してる。
君は?
いつも僕以外の草食動物に笑顔をふりまいて。
ああ、ほら、今も僕をおいて草食動物達と話してる。
君まで群れるのかい?



《2ーAのみょうじなまえ、今すぐ応接室に来て》

休み時間に鳴り響く放送。賑やかだった教室も水を打ったような静けさに包まれる。呼び出されたなまえにクラス中の視線が集まるが、当の本人はそんなことを気にしている余裕はなく、肩を震わせ怯えるだけだった。
そんななまえを見てクラスメイトの一人が口を開く。

「なまえ大丈夫?震えてるよ」
「えっ、ああ、うん。大丈夫だよ。ありがとうツナくん。じゃあ行ってくるね」
「うん。……気をつけてね」

短いやりとりの後、なまえは教室を出て、呼び出された応接室へと向かった。なまえが教室を出てから教室は騒がしくなる。しかし、誰もなまえの話はしない。初めの頃はなまえに対する同情の声が上がっていたが、この呼び出しが回数を重ねるごとにその声も減った。何より下手な噂をすれば自分の身が危うくなる。どこで聞かれているか分からないのだから、自然と声は小さくなり、消える。結局みんな自分の身が一番かわいいのである。
先程なまえと短い会話を交わした生徒も、悲しそうな顔をしながらその騒がしさの中に入り込んだ。


***


応接室へ着いたなまえは扉の前で深呼吸をし、恐怖から早まった鼓動を落ち着ける。深呼吸のあと、なまえは扉を軽くノックしてから開いた。
中で雲雀は、壁に背を預け、腕を組み立って待っていた。

「恭弥、来たよ」
「さっさとこっちへ来なよ」

なまえはゆっくりと、自分を呼び出した相手、雲雀恭弥のもとへと足を進める。暗い表情でゆっくりと近づくなまえの、明らかに怯えている様子に、雲雀は顔をしかめた。

「……急に呼び出して、どうしたの?」
「自分の呼び出された理由がわからないのかい」
「……ツナくん達と話したから?」
「他になにがあるの?あれだけ草食動物達と群れるなって言ったのに」
「そんな、」
「何、文句あるの?」

雲雀の鋭い眼差しになまえはぐっと押し黙る。文句の一つや二つ、言いたいところだが、雲雀の無言の圧力になまえは何も言えず、ただ怯えるだけ。

「僕はなまえが好きだよ。なまえしか見てない。でも、君は草食動物達にもヘラヘラして…。群れた草食動物は咬み殺さなきゃね」
「あ、あの、もう恭弥の嫌がる事しないから。だからやめて…」
「うるさいよ」
「いっ!」

雲雀はなまえの手を取り、その白い腕に思い切り噛み付いた。雲雀の歯はなまえの肌を傷つけ、なまえの腕からはじんわりと真っ赤な血が滲む。痛みから顔を歪めるなまえを見て、雲雀はその光景にひどく興奮した。傷つけることで自分のものだという証を刻む。自分以外の誰のものにもならないようにと付けられた傷は、既に数えられないほどなまえの体に刻まれていた。雲雀はそれに満足感を得る。しかしその傷は一つとして他者の目に写ることはなかった。

「なまえは僕のつけた印、隠してるよね」
「そんなこと、」
「こんなに暑いのに長袖なんか着て」
「……」

体の至る所に付けられた傷を隠すため、なまえは一年中長袖を着ている。それは自分のためだけではなく、他人に雲雀を悪く言われたくないための行動でもある。しかしそんなことを知らない雲雀は、自分のつけた印を隠すなまえに不満を覚えていた。

「ふん、まぁいい。今度は首筋に残すから。長袖でも隠せないようにね」
「お願い、もうやめて…。こんなの嫌だよ」

なまえの口からはっきりと吐かれた拒絶の言葉。雲雀はそれを聞き、目付きを一層鋭くさせなまえを睨みつけた。

「…僕が、嫌いなの?」
「ちが、」
「ねぇ、どうなの…。どうなんだよ!」

怒りにまかせ、思い切り机を殴る。その衝撃で、机の上にあった書類がバサバサと落ちていくが、雲雀はそんなことは気にも止めずなまえを睨み続けた。

「ち、違うよ、嫌いじゃないから」
「何それ、嫌いじゃないって好きでもないって事?」
「そ、そんなんじゃなくて」
「苛々する。どう思ってるのかはっきり言いなよ」
「あ、愛してる、から」

体をカタカタと震わせながらなまえは告げた。恐怖を滲ませた目からは涙が溢れる。
明らかな怯えをはらんだ愛の言葉であったが、か細く紡がれたそれに、雲雀は満足し、睨むのをやめた。

「…その言葉忘れないでね」

そう言いなまえを強く抱き締めた雲雀の目には、狂気の色が写し出されていた。

僕のもの

(君の震えた唇から愛してるの言葉)
(その言葉も)
(真っ赤にしたたる血も)
(全部全部)
(僕のものだよ…)


沢田視点



 
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