私は両親の転勤で、中2の秋に並盛中学校へ転校してきた。クラスのみんなは優しく接してくれたため、すぐにとけこむことができた。 そして転校から2か月たった今…。 腹黒大魔王のパシリにも慣れてきました。 腹黒大魔王は皆の前ではか弱い男の子、私の前では魔王降臨…という二重人格な野郎だった。 パシリになったのは転校初日から。運悪く大魔王の隣の席になった私は、仲良くなろうと"よろしくね"と笑顔で声をかけた。すると魔王は、"よろしくね。オレのパシリとして"って…。後半のパシリとして、ってところだけ、私だけに聞こえるくらいの小さな声で言ってきた。しかもにっこりと笑って。そう、清々しいほどにっこりと! もちろん私は転校初日からパシリなんて嫌だから一応断った。が。 "は?お前に拒否権なんかあるわけないでしょ" って。そんなこと言われたら断れないよ。怖かったんだもの。だって真っ黒なんだよ!後ろには阿修羅みたいなのがみえるし、断ったら明日の朝日が見れなくなる気がしたんだ。 そういうわけで非常に不本意ながら私はパシリにされた。 「なまえ」 今私の所へ来られたこのお方こそが大魔王様こと沢田綱吉。今日も大魔王様は真っ黒な笑顔で、村人である私の生活を脅かす。 「誰が大魔王?」 『心の中を読むなって』 「読まれるのが悪い」 はい、理不尽なお言葉いただきました。そんな言葉はゴミ箱にすててやんよ。いや、怖くてできないけど。 「そんなことより今日さ、宿題やってくるの忘れちゃって」 『へぇ、今日も』 「その言い方ムカつくから、おわびに後でジュースおごって」 『は?』 お前の態度のがムカつくけど。お詫びにとか言うならむしろ私に奢れよ。今までの謝罪をこめて。 「何?殴られたいの?」 『なんでもないっす、サーセン』 「じゃあ後宿題よろしく」 『……』 「返事は」 『チッ。はーい』 「ジュースもう1本追加ね」 『げ…』 何で理不尽な理由で大魔王に献上しないといけないんだ。嫌だよ。それに私だって友達と話したりしたいんだよ。宿題とか私の貸してあげるから自分で写せばいいじゃないか。 「誰がそんなめんどくさいことやるかよ」 『やれよ』 めんどくさいって、皆はきちんとやってるんだぞ。ていうか写すくらいのことやれって。何様だよ。あぁ大魔王様でしたね。なるほど。 「よお、ツナになまえ」 「あ、おはよう山本」 『武おはよ』 こちらは爽やか王子こと山本武。ツナの本性を知るボンゴレファミリーとやらの1人です。所謂いつメンってやつ。そのメンバー名的なものがボンゴレファミリーなんじゃないかな。よく分からんが。多分そう。 「ん、なまえ今日もツナの宿題やってんのか?」 『うん、まぁね』 「そっか。いつもいつも大変だな。オレも手伝うぜ」 『武優しいな、惚れてまうやろ。武が神様に見えるよ』 どっかの大魔王とは大違いで。武の優しさを爪の先ほどでも分けてあげたいね大魔王に。爪の先ほどじゃ全然足りないけど。 「…なまえ、お菓子も追加ね」 『ちくしょう!』 もう嫌だ。泣けてくるぜ。ていうか私さっきから自滅しすぎだろ。仕方ないよ。日頃のストレスで愚痴ばかり思い浮かぶんだもの。 「ツナひどいのな。なまえ、そんな泣きそうな顔すんなって!オレがいつでもお前を支えてやるから」 『武ありがと』 武ヤバい。今の言葉きゅんってした。そういうのきっと無意識に言ってるんだろうけど女の子はメロメロだよ。天然って恐ろしい。 「山本は朝練で疲れてるだろ。先生来るまで寝てろって」 「大丈夫だぜ、それに困ってるなまえをほっとけないだろ」 『ありがとう、武』 「全然いいのな」 『でもツナの言う通り、武は部活で疲れてるだろうからゆっくり休んで』 「大丈夫だぜ」 『気持ちだけもらっとくよ。ありがとね』 「ん、分かったのな…。でもしんどかったらいつでも言えよ!」 『うん』 人間ってすばらしいね。武の優しさにふれてつくづくそう思うよ。世の中捨てたもんじゃない。というか大魔王以外はみんな優しくて良い人だからね。大魔王が異例なだけですから。 「……」 「じゃあオレは一眠りするのな」 『おやすー』 「おう」 「……」 『ツナ、宿題あと少しで終わるから』 「……」 『ツナ?』 「……」 『ツナってば』 「…なまえさ、山本のことが好きなの?」 『は?急になに?』 「オレが質問してんだけど」 そうですね、質問を質問でかえして本当申し訳ない、ごめんなさい。だから禍々しい黒いオーラひっこめてくれ。 『武のことは友達として好きだよ』 「へぇ」 反応薄っ。自分から聞いといてそんな薄い反応すんのやめて。てかそもそも急に変な質問するなよ。どういうつもりだよ。…ん? 『あのさ、もしかしてヤキモチとか』 「……」 ……。おーい、なんか反応してよ。冗談とはいえ、ちょっと恥ずかしいじゃないか。何言ってんだこいつみたいな空気が流れるから。私が勘違いして痛い子みたいになってるから。まじ辛い。 『冗談です、ごめんなさ、』 「そうだよ」 『え?』 「なまえが山本とイチャイチャしてたから…」 『それって』 好きってこと、か?……。いやいやないない。だって普段からツナ、私のことパシリとか下部とかその他多々罵ってくるんだよ。確実に好かれてないじゃん。うん。あ、もしかして冗談?そうか、冗談だよね。……なんだか少し残念。 「残念ってことはなまえはオレのこと好きなんだ」 『なっ!また心の中勝手にみて…!』 「今更だよ。…で、どうなの?」 『それは…。ツ、ツナはどうなのさ!』 「オレはなまえのこと恋愛的な意味で好きだけど」 『何サラッと言ってんだよ!恥ずかしいな!』 「なまえは鈍感だからはっきり言わないと伝わらないだろ」 『鈍感じゃないし!』 失礼な奴め。勝手にキャラ設定つくらないでほしい。 「鈍感だよ、オレがなまえのこと好きなのお前以外は皆気付いてたのに」 『…うそん』 皆気付いてたのにたった1人気付かなかった私って…。 「鈍感だよな。それよりオレへの返事は?」 『う…。分かってるのに言わす気か』 「だってなまえの口から聞きたいし」 ニコッと笑うツナ。ずるい。いつもの黒い笑顔じゃなくて純粋で裏のないまっさらな笑顔。そんな笑顔を向けられたら逆らえるわけないじゃないか。いやまあ真っ黒な笑顔でもある意味逆らえないけどね! 『……す、好きだよ』 「よく言えました」 『…ねぇ、ツナ』 「ん?」 『今からツナは私の彼氏なんだからパシらないでね』 「嫌」 『即答!』 大魔王様健在!いや、すぐに優しくなるなんて思ってなかったけど。即答っておま。せめて少しは悩め。 「だって………」 『…!』 〔だって離したくないから〕 (パシリならずっとオレの側から離れられないだろ。 これからもオレの側で俺だけに笑顔を見せててよ) ――― ヒロインちゃんを他の人とイチャコラさせないためにパシリにしたツナくん。でもそれで逆に山本とイチャコラしちゃうことになるっていうね。 |