『失礼しまーす。すみません雲雀さん、クラスの用事で遅くなりました』 「別に君を待ってたわけじゃないから。今日は少し来るの遅くて心配だなとか全然思ってないんだから!」 『すみません、部屋間違えました』 ―パタン おかしいな。ここ応接室だと思ってたけど違ったみたい。だって応接室には、あの泣く子も黙る風紀委員長様がいるはずだもんね。いやあ、結構長い間応接室通ってたけど部屋間違えちゃうなんて。あたしってばお茶目さん! きっとこれは、今日は応接室に行ってはいけないという神様からのお告げだな。よし、じゃあもう今日は帰ろう。 「ちょっと、なに帰ろうとしてるの?あ、別に君が帰るのが寂しいとかじゃないから!仕事の人手が足らなくて少し困るから引き止めようとしてるんだから、勘違いしないでよね!」 『どちら様で?』 「何言ってるの?いいからさっさと入りなよ」 『え、いいです。今日は帰ります。部屋間違ってすみませんでした。ではさようなら』 「いいから入ってって」 『うわっ!』 雲雀さん(仮)に思い切り腕を引っ張られ、そのまま応接室へと入ってしまった。えぇ、あたしもう今日は帰るつもりだったのに。 不審者に捕まってしまった。風紀委員長助けて!…悲しいかな、この不審者が風紀委員長である。 『何するんですか、雲雀さん(仮)』 「(仮)って何だい。ぼくは本物だよ。それに何って君が帰ろうとするからでしょ。あっ、別に寂しいとか、」 『少し黙ってください』 「…とにかく君が委員をサボろうとしたから引き止めたんだよ」 決してサボろうとしたわけではない。あたしは神のお告げに従おうとしただけ。神様がせっかく教えてくださったことだものね!無下にしないよ!信仰しちゃうよ!だから帰らなきゃ。 『いや、今日は委員に出てはダメと神様からのお告げがあったので』 「頭大丈夫?」 『あんたがな』 「僕は大丈夫だけど」 『全然大丈夫じゃないですよね、キャラおかしいじゃないですか。変な物でも食べましたか』 「ここのサイトでキャラ保ってる人なんていないよ」 『口を慎め』 「それに僕は君のためを思ってさっきの行動にでたのに」 『意味分からないです』 あたしのためにキャラ崩壊したの?何故。むしろあたしを困らせただけですけど。あたしのためになってませんけど。 ていうかあたしのためというか、罪をあたしになすりつけただけじゃね?おいやめろ、あたしのせいじゃないぞ。 「昨日、ツンデレが好きって言ってたじゃない」 『言いましたっけ?』 「ほら、元彼のこと聞いた時」 ――… 「君って彼氏いるの?」 『何を突然。今は残念ながらいないですよ』 「前はいたんだ」 『まぁ、前は』 「ふーん…。どんな奴だったの」 『どんなって…。うーん。あ、ツンデレっぽかったような』 「へぇ…」 …―― 「って会話しただろう」 『いや、確かにそんな話はしましたけど。あたし1度もツンデレ好きって言ってないじゃないですか』 「元彼がツンデレだったんだからツンデレが好きなんだろう」 なにその判断。ツンデレ好きなんて一言も言ってない。しかもぽかっただけでツンデレとは言ってない。え、屁理屈?屁理屈だってな、屁のような理屈ってだけでちゃんと理屈なんだぞ!!屁のようなな!! …女の子が屁とか連発するのよくない。 『いや、別に』 「違うの?!何それ聞いてないよ!ちょっとさっき僕めちゃめちゃ恥ずかしいことした!黒歴史だよ、黒歴史!」 『落ち着いてください』 さっき恥ずかしいことした、って、今のテンションも相当恥ずかしいよ。黒歴史更新し続けてますよ。 「いやいやいやいや、落ち着けないよ。あ、さっきの無かったことにして、っていうかしろ!」 『嫌です』 「きっぱり言い切ったね。僕委員長だよ、絶対王政的なノリだよ。上司に逆らうなんて良い度胸じゃないか」 『お褒めに預かり光栄です』 「ワォ、ポジティブだね。あ、もちろん褒めてないから。それよりさっきのこと本当忘れなよ」 『だから嫌ですって』 「なんで」 『せっかく掴んだ雲雀さんの弱味ですし、そう簡単に忘れませんよ』 暴君委員長の弱味を易々と忘れるなんてことするわけないじゃないか。ていうか絶対王政的なノリって、痛いよ。自分の言うことが絶対とかジャイアンか。 「恐っ!僕の弱味を掴んでなにするつもりなのさ!」 『そうですね…。じゃあまずは何かある度にトンファーで脅してくるの止めてください』 「無理だよ。あれは条件反射だから」 『あ、じゃあやっぱりセーラー服を着て、』 「君にはトンファー構えないように頑張るよ」 『お願いしますね』 これで一つ交渉が成立した。雲雀さんが自分の意見を押し通すためにトンファーちらつかせて脅してくるとこ、正直苛っとしてたからやめてもらえて嬉しいよ。 権力や武力を行使するのよくない。ていうか雲雀さんの場合越権行為だよ。 「君って仕事もしっかりこなして周りに気を配る優しい子だと思ってたけど、お腹の中は真っ黒だったんだね」 『あれ?今ごろ気付いたんですか』 「否定しないんだ」 『だって腹黒はステータスですよ。むしろ誇るべきことかと』 「君ってなんかずれてるよね」 ずれてるって失礼だよね。雲雀さんほど道を外した人に言われたくないよ。おっと、失礼。失言。 『雲雀さんの髪の方がずれてますよ』 「髪?!僕づらじゃないよ、自毛だよ!」 『え?』 「何驚いてるの!この年でづらつけるわけないでしょ!」 そういう偏見めいた考えはダメだと思う。もっと視野を広げなきゃ。早くに出家した人だっているだろうし、このストレス社会、抜け毛に悩む若者は少なくない。 雲雀さんの考え方は井の中の蛙なんだよ!!!ちょっと違うか。 『でも持田先輩、この前カツラ売場で真剣に選んでましたよ』 「あぁ…。彼、ね…」 『だからてっきり雲雀さんもづらなのかと』 「そこの関連性は?やっぱ君ってずれてるよ」 またずれてるって言ったぞこいつ。だから雲雀さんほどはずれてないって。そりゃあたしにも多少はずれてる部分もあるだろうが、まだ修正可能な範囲だから問題ない。雲雀さんくらい道をはずしたらもう手遅れだけどね。おっと、また失言。 『雲雀さん、あたしのこと馬鹿にしてます?』 「それ僕の台詞だよ!君天然?絶対天然だよね。それ以外のなにものでもないよ!」 『雲雀さん今日テンション高いですね。少し、いやかなりうるさいんで黙ってください』 「またブラックな一面が…今日は新しい君を発見できたよ」 『私もですよ。まさか雲雀さんの弱味を握れるとは。今日はラッキーでした』 「僕は厄日だっ、……いや、僕もラッキーだったかな」 やばい。新たな発見だ。ラッキーだなんて雲雀さんはドMだったのね。なんてこった。こんな発見はいらなかった。上司の性癖が垣間見える瞬間ほど嫌なものはない。 『雲雀さんはMだったんですか、そうですか』 「ちがうよ!僕はSだ!じゃなくてラッキーだったのは君の新しい一面を見れたからだよ」 『あたしは腹黒いのを誇りに思ってるので弱味になんてできませんよ』 「さっき聞いたからそれは分かってるよ」 『ならいいです。じゃああたし今から校内見回りに行ってきます』 「ねぇ、僕がラッキーだった理由ちゃんと分かってるの?」 『新しい一面が見れて楽しかったんですよね』 「…君のことを知れたことが嬉しかったんだよ」 『部下と友好的な関係を築くのは大切ですもんね』 雲雀さんにしてはなかなか殊勝な心掛けじゃないか。うんうん。感心ですよ。えらいえらい。そんないい子な雲雀さんには、おばちゃんお菓子あげちゃう! ……なんてね。 「本当君は天然だね。まぁ、そんな所も好きなんだけど…」 『ありがとうございます。私も雲雀さんのこと好きですよ』 「ワォ!…じゃあ僕たち両お、」 『もちろん草壁さん方も好きです』 「…は?」 『皆さん優しい方ですから好きですよ』 ちょっと厳ついけど。近寄りがたい雰囲気だけど。フランスパン頭に乗っけてるけど。それでも根は優しい人達だよ、風紀委員の皆さんは。不良だけど…。ちょっとやんちゃボーイなだけだから!風紀仲間には優しいんだよ! 「僕が言ってる好きはライクじゃなくて、」 『あ、見回り行かなきゃ』 「……」 『さっさと仕事終わらせて帰りましょ、雲雀さん』 「一緒に帰る」 『いいですけど帰りに本屋寄りますよ。それでも良いんだったら』 「もちろんだよ!何かデートするみたいだね」 この人は何で恥ずかしげもなく言えるんだろう。可愛い女の子が言ってきたらきゅんとするだろうが、暴力的委員長が言ってもきゅんとこない。心の底から残念だ。 『いえ、別に。先輩と後輩、それか雲雀さんにおどされて仕方なく一緒に歩いてる可哀想な少女に見られます』 「僕すっごい悪役じゃないか!」 『日頃の行いが悪いから仕方ないですね。ま、そんなことはおいといて仕事しますよ』 「絶対に僕の魅力に気付かせてあげるから」 雲雀さんの魅力に気付かせる?何言ってんだこの人は。そんなものとっくの昔に知ってますけど。それとも、あたしが知ってる魅力以上のものを見せてくれるのか。それ今更なんだけど。 『まあ、期待せずに待ってます』 「…覚悟してなよ」 天然? いいえ、計算です (本当は雲雀さんの気持ちも分かってるけど) (すぐに恋人になるなんてそんなの面白くないでしょ) (だから当分は気付かないふり) (まだまだあたしを楽しませてくださいね) |