そろそろお父さんがあたしの部屋に来る頃だ。準備は万端。いつでも作戦にとりかかれる。さぁこい!! バタンッ!!と、ドアが思い切り開けられた。ちょ、ドア壊れちゃうからもっと静かに開けて!物は大事に扱って!!お父さんに限らずボンゴレの人みんなに言えるけど! 「なまえ、ただいま!」 『おかえりなさい』 「あ、今のなんか新婚さんみたいだったね」 『いや、そうでもない』 ただいま、おかえり、っていうやり取りは新婚さんじゃなくてもするよ。何故、新婚さんに結び付けた。普通に親子で良かったじゃないか。 「このままのノリで、ご飯にします?それともお風呂にします?それともあたしにする?って言ってよ。まぁ、選ぶまでもなくなまえにするんだけどね」 『言うわけないでしょ!どこの新婚さんですか』 「えー…」 『ふてくされてもダメ。そもそも親子の会話じゃないし』 「オレは初めて会った時から親子だなんて思ってないよ。1人の女性として見てた」 『これは笑うとこ?』 「いや、オレに抱き付くとこ」 どうしよう。会話が危ない。仲の良い親子で片付けれる話じゃないよ、これは。目がマジだ。本気と書いてマジだ。 何か別の話はないかな。……あ、あるじゃん。本来の目的忘れてたよ。危ない、お父さんのペースにのまれてた。 『ねぇ、お父さん』 「お父さんじゃなくてツナ」 いやいや。お父さんはお父さんでしょ。確かにお父さんのあだ名はツナだ。だがしかしあたしからしたらお父さんに変わりはない。名前で呼ぶ親子もよく見かけるが、あたしはお父さん呼びがしっくりくるのだ。 『…お父さん』 「ツーナー!」 ほっぺを膨らませてお父さん呼びを拒否するお父さん。成人男性が頬を膨らませてかわいいとかふざけるな。身内だからという贔屓目抜きにしても、お父さんはイケメンである。どんな仕草も許されるとかイケメンずるい。 お父さんの可愛さと頑固さに免じて、折れてあげようか。でないと先に進めない。 『はぁ。…ツナ』 「なに」 『喉乾いてない?』 「ん、まぁ言われてみれば少し」 よし。これで作戦を進めることができる。ここで喉乾いてないとか言われたらやる前から作戦失敗だったわ。リボーン召喚しちゃうところだったわ。そうならなくて良かった。 『じゃあコーヒー入れてくるね』 「ダメ」 何故だ。さっき喉乾いてるって言ったじゃないか。まさか、もう感づかれたかな。超直感とかいうチート技発揮しちゃったのかな? 「オレの側から半径1センチ以上離れちゃダメだから」 『いや、それもう密着してるよ!』 「離れるとオレ死んじゃうから」 『いやいやいやいや』 ウサギか!寂しいと死んじゃう的な。お父さん、そんなか弱くないでしょ。病んでるの?ねぇ病んでるの?ていうか1センチってむしろ離れるのが難しいわ。それなら密着してる方が楽だわ。 兎にも角にも困ったな…。コーヒー注ぎに行けないと元も子もない。……あ、そうだ。 『あたし、お父さ、…ツナのために一生懸命美味しいコーヒーのいれ方練習したんだよ』 あたしはお父さんに涙目でそう訴えてみる。自分で言うのもなんだが、即座に涙を出せるとか女優にむいてるんじゃないかなあたし。 涙は女の武器とも言うし、使えるものは最大限に有効活用しないとね!! そんなあたしの下衆な考えなど知らず、口元を押さえ頬を赤らめるお父さん。よし、あともうひと押し。 『ツナに喜んでもらいたいから頑張ったのに…』 「あーもう可愛い!オレのためとか嬉しすぎるよ」 『本当に嬉しい?』 「もちろん!」 『じゃあコーヒーをいれてくるね』 「うん、お願いするね」 勝った。あたしの手にかかれば、1センチの壁を壊すのなんて朝飯前さ!! ようやくこれであたしの平和を確保する為の作戦…げふん。お父さんの安眠を確保する為の作戦が実行できる。睡眠薬はリボーンにもらったものだから効き目は抜群だろう。それをカップに小さじ一杯ぶん入れて、と。無香料だから香りも問題ない。よし完璧。 『ツナおまたせ。はい、コーヒー』 「ありがとう」 コーヒーは完璧。あとはお父さんが飲むだけなんだけど。 「……」 飲みません。これはもうバレたな。間違いない。 まあボンゴレボスだもんね。超直感持ってるもんね。チートだもんね!! 『ツ、ツナ、飲まないの?』 「ん、あー。…あのさ」 『な、なに?』 ちょ、何を言うつもり?いやわかってるけど!! くそう作戦失敗だよ。早いわ。 「…いや、なんでも、あ…」 『どした!』 「なんか体調悪くなったから、悪いけどコーヒーなまえが飲んで」 『え…。あぁ、じゃあコーヒー片付けるね』 「いや、捨てるのはもったいないからなまえが飲みなよ」 『あ、後で飲むよ』 「冷めちゃうよ」 『あたしは冷たいほうが好きだから』 「ふーん」 危ない危ない。あたしが飲んだら何もかも終わりじゃないか。 あーあ。また新しい作戦考えなきゃいけないな。結構いい作戦だと思ってたのに…。やっぱりリボーンにねじ込んでもらうしかないな。 「…ねぇ、どうしてもそのコーヒー飲んでほしいの?」 『まぁ、そりゃ飲んでくれたらとても嬉しいけど』 「じゃあ飲むよ」 『え、飲んでくれるの?』 でも、睡眠薬が入ってること分かってるんでしょ?なのに飲むの?リボーンにねじ込んでもらおうと思ったことに感づいて、比較的安全なコーヒーを飲む方を選んだとか? 「うん、その代わりなまえがオレに飲ませてね」 『いいけど』 「本当!絶対だよ」 『うん?分かった』 「じゃあ飲ませて、口移しで」 なんですって?口移しでとかそんなバカな。今どきそんなの漫画とかでしか見ないよ。リアルに口移しとかしてる人って希少価値だよ。ていうか急に飲むなんておかしいと思ったら、それが目的だったのかちくしょう。 『口移しとかダメだよ!そんな破廉恥な』 「絶対飲ませてくれるって言ったじゃん」 『それは口移しって知らなかったし』 「でも約束は守らないとまずいよね。人として。約束を破るとかありえないよ。そんな子に育てた覚えはないんだけどな」 『う…』 人としてまずいとか屈辱的。しかもこういう時だけ親子関係持ち出して。確かに裏切りは絶対ダメだって教えられてきたけど。それとこれとは別でしょ。だからそんなしょんぼりした顔しないでよ。良心が痛む。……これはお父さんの作戦だって分かってるけど。えぇい、のってやろうじゃないか!今さら恥じらいも何もないよ!だって親子だもんね!!! 『分かった、ちゃんと飲ませてあげる』 「ほんと?じゃあお願い」 大丈夫。親子だもん。口移しなんて恥ずかしくないさ。ははは、きっと他の家庭も口移しとか日常茶飯事だよ。口移しフィーバーだよ。 ……。まってまって、やっぱ無理。いや、恥ずかしいわ、これ。口移しフィーバーってなんだよ。あたしはアホか。お父さんもお父さんで、普通にコーヒーを味わってくれたらいいじゃん。あたしが口移しする趣旨が分からん。 『ごめん、やっぱ無、』 「約束破るんなら罰として一ヶ月外出禁止ね」 『げ』 軟禁ですか。そんなの嫌ですよ。前に外出禁止になった時、毎日守護者がこぞってあたしの部屋にお土産持って、来てくれたんだよ。そんで雲雀さんと骸さんが喧嘩し始めて部屋が戦場になったという。またそんなことになるのは絶対嫌だ。部屋の物壊れちゃう。ていうか部屋が壊れちゃう。 あぁ、もう分かったよ。やればいんでしょ、くそう。 『飲ませてあげるから少し口開けててね。それで目つむっててね』 「うん」 コクッ。よし、コーヒーは口に含んだ。ではお父さんのもとへ…いざゆかん! 因みに、いざゆかん、はいざ行かむって書いて、「行く」の未然形+意志の助動詞「む」だから、さぁ行こう!って訳だよ!勢い立たせる言葉だよ!突然解説とかパニックかよ! |