「何、してるの…」 先生に明日の授業の準備を頼まれてこんな時間までかかってしまった。係りの子がクラスで流行ってる風邪で休まなければ私がやらなくてすんだのに。 辺りは薄暗くて皆下校済み。なのに物音がするから興味本位で見にきた校舎裏。 ここは死角になっていて周りからは見えない。 私の目の前には大好きな人。と、真っ赤に染まって倒れてる人。 1人は笑顔でこちらを振り向き、1人は既に虫の息。 「何って罰を与えてるんだよ」 そう言って彼はこちらに近付いてくる。あらゆる所に血をつけた彼が近付いてくる。 「何で後退りするの」 一歩彼が近付くと一歩私も後退る。 後ろを振り返ってそのまま走り去りたい。何事もなかったかのように。 「あぁ、血が怖いの?」 大丈夫、これ返り血だから、と安心させるように言う彼に恐怖を抱く。 彼の一歩と私の一歩は幅が違う。それ故すぐに捕まってしまった。 ぬめりと腕にまとわりつく感覚に吐き気がする。 「もう皆帰ったと思ってたけどなまえはオレをずっと待っててくれたんだね」 ほら、お前の入る隙はないんだよ。分かったら二度となまえに言い寄るな、と、彼は倒れてる人に吐き捨てるように言う。 おかしい、私にはいくら思い返しても言い寄られた記憶はない。 「今日のお昼、なまえあいつに言い寄られて困ってたろ」 お昼の会話は、宿題やった?、やってない、の会話だけ。近くに居た彼も聞いていた。 「オレのなまえに気軽に話しかけるなんて、言い寄るなんて、許されないよね」 彼がこんなにも独占欲が強かったなんて知らなかった。今までそんな素振り見せなかったから。 「なまえに言い寄る男は誰1人許さないよ」 もしかして、 「今までも私に話しかけた男子をこうやって…?」 「そうだよ」 そう言って笑う彼には人を殺めた罪悪感などはもちあわせてないようで。むしろどこかやり遂げたような達成感満ちあふれる笑顔。ただその笑顔には狂気が含まれてる。 「なまえが気にしちゃいけないと思って黙ってたんだ」 私が彼を知らなかっただけ。 もし今日係りの子が風邪で休まなければ…。 係りの男の子が男子の間で流行ってる風邪で休まなかったら、こんな真実知らずにすんだのに。 「別れよう」 その一言がやけに響いた。 どうして何で何が嫌なのどうして嫌だよ別れたくない嫌だ嫌だ何でどうしてどうしてどうして嫌だ嫌だ嫌だ別れてなんかやらないずっと一緒にいるずっと一緒に…そうずっと一緒に。 彼が発狂した。 彼の手には真っ赤なキョウキ。 「ずっと一緒にいようね」 どこからか明かりがもれている。見回りの人がまだ残っているのだろう。 ……ここからだと、どこに灯がついているのかは見えない。 |