爽やかだとか野球部のエースだとかそういう噂は聞いていた。誰に聞いても良い噂しか流れてなかったから、周りに信頼される良い奴なんだなって想像してた…のに。 「あ、パンツ何色だ?」 変態だなんて噂、聞いてないぞ。 パンツの色を聞いてきたこいつは良い噂をされていた当人、山本武である。クラスが違うため、普段はすれ違う程度。これまでに話したことは1度もない。 野球部で青春をしている山本武と帰宅部の私、しかもクラスまで違うのだから当然放課後に2人きりで話すなんてアクシデントはあるわけなかったのだが…。え、イベント?いやいや、アクシデントだよ、あってはならなかったよこんな出来事。 今日に限って放課後に担任と面談があり帰りが遅くなってしまったんだよ。辺りはオレンジに染まっていて、部活に励んでいた生徒達の声すらももう聞こえないよ、くっそ。うっかり話し込んじゃったよね。趣味の話の時に先生が実は俺もゲーマーだとかカミングアウトするから。しかも個体値や努力値とか孵化作業とかいう単語が出てくるって、やだもうただの廃人。純粋にプレイしてる私は恐れおののいたわ。 おっと話がそれた。兎にも角にも担任との話に花が咲いたばかりに山本武と出会うというアクシデントが発生してしまったのだ。まじで許さん担任。お前のデータ私のカセットに引き継いでやるからな。 「なぁ、何色?」 たしかに噂の通り爽やかだ。風がサワッという効果音と共に吹きそうなくらい爽やかな笑顔なんだが、なにぶん言ってることが爽やかとはほど遠いためにイメージダウンである。文の春に送るぞ。 「山本武くん」 「お、なまえはオレの名前知ってたんだな」 ニカッっと笑う山本武は実にかっこいい。イケメン爆ぜろ。 …じゃなくて。何故私の名前を奴が知ってるんだろうか。私が山本武を知ってるのは当然とも言える。何故なら彼はその気さくさとかっこよさ、また、野球部のエースという点から有名人であるのだから。並中で彼のことを知らないのは相当なもぐりであろう。 それに比べ私はこの学校に相応しく並の人間だ。何か飛び抜けてできるわけでもない、かといって全くできないわけでもない。どこにでもいるような平凡な人間である。個性がないのがむしろ個性。どういうことだってばよ。私もわからん。でも校歌でも「平々凡々並がいい」っていうし、いいことなんだよ。 兎にも角にもこんな平凡な私の名が知られているのは何故だ。 「あれ、もしかして名前違ったか?」 「いえ、あってますが」 「だよな。生徒名簿に書いてあったしな」 …あれ、生徒名簿ってそんな簡単に見れるもの?いや、そんなわけない。そんな簡単に個人情報出回っちゃまずいだろう。 しかも同じクラスならまだしも、他クラスの全く接点のない女の名前を覚えているっていったい全体どういうことなんだってばよ。まずどのタイミングで生徒名簿を手に入れた。 「ちょっと知り合いに頼んで見せてもらったんだ」 「…私、口に出して言ってなかったんですけど」 「ん?あぁ、小僧のおかげかもな」 答えになってない。彼の中では勝手に解決してるみたいだけど私には伝わってこない。小僧のおかげでなぜ私の心の声が聞こえるのだ。小僧ってのはエスパータイプのポケットに入るモンスターか何かか?わたしエスパー使いじゃないから分からない、そういうの察知してあげられない。サイキッカー辺りに頼んで。 「なぁ、今から帰るんだろ」 「え?あ、まぁ」 「なら一緒に帰ろうぜ」 なんて肝の座った男だ。普通、パンツの色を聞いてきた人と一緒に帰るわけないだろう。身の危険しか感じないわ。エスパータイプじゃなくてもそれくらいは察知できるわ。これ女の勘ってやつ。 「いや、無理だな嫌」 「…どうしても、ダメか……?」 眉をさげて悲しそうな目で訴えてくる山本武。なんてやろうだ。こいつ、自分の見目麗しさをわかってやっているな…! イケメンがそんな悲しそうな顔すんなよ!私が全部悪いみたいになるだろ!!断った私が罪人みたいなその顔やめろ!!被害妄想かよ。 「……。あー、学校の門までなら」 「ん、家まで送ってくぜ?」 「いや、えと、うち遠いんで…」 「気にすんなって!それに家の方向一緒だしなまえん家って学校から十分ぐらいのとこだろ?全然遠くないから大丈夫だぜ!」 特定厨かよふざけんな。…何故教えてもいない家の場所を知ってるんだ。…あぁ、知り合いから生徒名簿借りたんだっけ。それに住所載ってるから…。知り合いって誰だよコノヤロー。名乗り出てこいよくそ。今名乗り出たら許してあげるよ、土下座で床におでここすりつけるくらいで。 「んじゃ行くか」 「え、ちょ…!」 山本武は私の手を掴み、指を絡めてずんずん歩く。おい、やめろって!何するんだよ!!お前の手、あったかすぎるから!私も今ホットなんだからやめろ!熱いわほんと!主に顔が!! 世間で恋人繋ぎと言われる繋ぎ方をこんな形でするとは…!私の初めて、奪われちゃった…。この罪は重い。 「ははっ、真っ赤だな」 「なっ…」 「そんなところもかわいいぜ!」 おい、やめて差し上げろ。軽率に褒めるのはやめて差し上げろ!!褒められ慣れてないんだよ、男にかわいいなんて言われ慣れてないんだよやめて照れる!! 山本武的には意味もない言葉かもしれないけどな、純情乙女にとっては衝撃的な言葉なんだよ!!ビッグバン。 「オレは好きな奴にしか言わねぇぜ」 さっきまでとは違う、真剣な顔で言われた。この際また心の中が覗き込まれていることは無視である。そんなことができる理由が分からないしね。とりあえず私の中で山本武はエスパー使いってことになってる。もしくは本人がエスパータイプ。モンスターかよ。 「ははは、あまりそういうこと言うと勘違いするから、うん」 「じゃあはっきり言う。好きだ。彼女になってほしいのな。ちなみに返事ははいかYESしかねぇからな」 突然の告白、だと…?!やめて、私のHPはもうゼロよ!! それに選択肢は一択。なんて横暴な。だれだよこいつをジャイアンみたいに育てたやつ。みんなだな。みんなが山本武にきゃーきゃー言うからか。これが人気者の定め…。 女がみんなイケメンに騙されると思うな!! 「お互いのことあんまり知らないし、まずはお友達からお願いします」 ほら、お友達ができることは喜ばしいことだよね。うん。別にこれはイケメンに騙されたわけじゃない。イケメンのお友達で目の保養とかラッキーなんて思ってない。 「じゃあお互いのこと知るために先ずはパンツの色教えてくんね?あとスキンシップとして尻触っていいか?」 ほらな、だって顔がよくても山本武はただの変態だ。 …やっぱりお友達も破棄しようかな。 何いろですか? (なぁ、何色?) (……) (よっ…お、黒か) (んなっ!何すっ…!!) (いてっ!…これはスキンシップだぜ) (変態基準で語るなばかやろう) 2011.06.26 |