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□ひとめぼれ
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「あの、本当歩けるからおろして!」
「だめです!」

オレ、沢田綱吉は只今おぶられている。それも女の子に。仮にもオレ、男なんだけど…。

こうなった理由は2分前にさかのぼる。

オレが階段を上がっていると、上から人が降ってきた。もちろん天から落っこちてきた天女様などではなく、恐らく足を滑らせたのであろう女の子だ。オレは咄嗟のことに受け身も取れず、その子と一緒に落っこちてしまった。幸い2、3段しか上がっていなかったので、少し捻っただけですんだけれど。因みに女の子の方は無意識のうちに守っていたみたいで、特に目立った怪我もなく無事だった。
オレは足を捻ったから次の時間は休み、保健室に行こうと思って立上がろうとした。が、痛みからうまく立ち上がれない。そんな俺の様子に気づき、女の子は頭を床に擦り付けるかのように全力で謝ってきた。
そこまではまぁよかったのだが、突然オレをおんぶして保健室までお連れしますって…。
そういうことで今の状況にいたる。
もう授業が始まるから、廊下に人はいないとはいえ、恥ずかしい。14歳にもなって女の子におんぶされるのは精神的に辛い。いつも死ぬ気の時はパンツ姿になるけど、あれはもう慣れと諦めで乗り越えれる。いや、嫌なものは嫌だけどな。けど、まだどちらかと言えば耐えられる。
でもコレは…。
あぁ、シャマルに笑われるんだろうな。もしくは女の子になんてことさせてるんだと怒られるかもしれない。また不治の病にかかるのかよ勘弁してくれよ。

「失礼します。すみません、先生いらっしゃいますか」

オレをおぶりながらも器用に保健室の戸を開け、中へと入る女の子。
彼女の問いかけに誰も反応しないことから、どうやらシャマルはいないみたいだ。良かった、笑われなくて。不治の病にかからなくって本当に良かった。
彼女はオレをベッドの上におろし、おずおずといった様子で話しかけてくる。

「あの、先生いらっしゃらないみたいなので…」
「あ、うん、大丈夫だよ。適当に湿布はって休んどくから。運んでくれてありが、」
「いえ、私が手当てします!」
「はい?」
「お怪我をさせてしまったのは私の責任です。先生がいらっしゃらない今、私が手当てさせていただきます!」
「い、いいよそんな。これぐらい対したことないし」
「いえ、それじゃあ私の気がおさまりませんので、手当てさせていただきます!」

おんぶされた時から少し思ってたけど…。この子獄寺くんとかぶるところがある。なんか勢いとか…勢いが。オレの話を聞かないけれど全力で尽くしてくれるところとか。まぁ怪我をさせたことの罪滅ぼしだから尽くすと言うとニュアンスが違うが。

「今湿布とか持ってきますね」

パタパタと軽く走り、焦ったように湿布を取りに行く彼女。
少し捻ったぐらいリボーンから受ける傷に比べたら全然大丈夫なのにな。折れたわけじゃないんだし、包帯を巻くような怪我でもない。
……いや、待てよ、これが普通なのか。そうか、これが普通の反応であり対処であるんだ。非日常に慣れてきてる自分が怖い。オレは一般人だ。

「ちょっと脱がしますね」
「え…えっ?!」

なに、え、どうして。脱がすってオレを?オレを脱がしちゃうの?!さっきまで純粋に処置をしてくれようとしていた子が急にそんな…!保健室、保健室というこの場所だからちょっとそういうフラグがたったの?それともシャマルのテリトリーだからシャマル病がうつったの?保健室って怖い!

「手が冷たくて申し訳ないんですけど、失礼します」

そう言い彼女はオレの足もとに手を伸ばす。ああ、なるほど…。脱がすって靴下のことか。なんだそうだよな。よく考えれば足を捻ってるんだから、靴下を脱がずに決まってるよな。よく考えなくてもそうだ。くそ、無駄に変な汗かいてしまった。思春期の男子って恐ろしいな。いや、オレのことだけど。

「わ、腫れちゃってる…。ごめんなさい…」
「いや、大丈夫だよ」

目に涙をためて上目遣いでこちらを見やる彼女。しゅんとしたその姿から、あるはずのない耳と尻尾が見える。かわいい。
……。まて、オレ今かわいいって…。いやいや、だってさっきまですごい勢いだったのにいきなりしおらしくなるから…。そりゃかわいいとも思うよ。なんていうか生理現象だよな。呼吸をするのと一緒だよな。当たり前のことだよな、うん。
でも、だからってかわいいとか…。オレには京子ちゃんがいるんだから。いると言ってもオレの片思いだけどな!うるさいわ!かなしい。

「あの、明日ちゃんと病院代とか払いますね」
「いやっ、そんな対したことじゃないからお金とかいいよ!」
「でも、」
「本当大丈夫だから!」

軽く捻っただけ。今更こんな怪我で病院には行かない。だからお金もいらない。普段のリボーンから受ける怪我ですら病院に行かないしな。
それに今日初めて会った人にお金払われるのは気まずいというか、申し訳ないし。

「…分かりました」

あ、意外とすんなり分かってくれた。良かった。もしかしてまた獄寺くんのように、オレの言葉が無効化されるかも、と少しばかり不安だったが、そんなことはなくて安心。

「私、責任をもって嫁がせていただきます」
「……。はい?」

安心とか言ったやつ誰だ。
今この子、嫁がせていただきますとか言った?え、そう言った?嫁ぐって何、嫁にくるの?オレの?いやいや待て待てどうしてそうなった。
いや、待てよ。もしかして聞き間違い?そうか聞き間違いか。ならきっと、とっつかせていただきますって言ったんだな彼女は。なるほど、絡もうってことか。つまりお友達になりましょうってことか。うんうん、それくらいおやすい御用だようんうん。

「傷物にしてしまった責任として、生涯お側につきそうことを誓います」
「ちょっと待って」

くっそ、やっぱ嫁ぐって言ったんだこの子!何がどうなってそんなぶっ飛んだ結論に至ったわけ?!獄寺くんでもそんなこと言わないよ!!言われた日には右腕お役御免だけど。解雇だよ解雇。いや、右腕にした覚えはないけど。オレは男と結婚する趣味はない。獄寺くんも恐らくない。って今はそんなこと考えてる場合じゃない。

「嫁がなくても大丈夫だよ。オレ、傷物になってないし捻っただけだし」

これだけで嫁にきちゃったら親御さんびっくりするよ。娘が当たり屋に捕まったと思うよ。あ、下手したらオレが訴えられる。

「でも母が人様に怪我を負わせてしまった時は、責任をもって嫁に行きなさいって」

お母さんんん!お宅の娘さんが些細なことで嫁に行っちゃいますよ!大事な娘さんが嫁に出ちゃいますよ!まさかお母さんもこんなシチュエーションを望んでいたわけではないし、想定もしていなかったろう。怪我のレベルが捻挫って。オレが母親なら止める。全力で止めて教えを撤回する。

「あのね、軽い怪我だから嫁ぐほどじゃないんだよ。受け身のとれなかったオレも悪いし」
「それでも、」
「それでもも何もないの!」
「……」

あぁ、また目にたくさんの涙をためてしゅんってしちゃったよ。
ちょっときつく言い過ぎた?いや、でも強く言わないと聞いてくれなさそうだしさ、オレは別に嫁がれてもいいけどお母さん達は反対すると思うよ、うん。……まって、嫁がれてもいいって思ったオレ?大丈夫かオレ…。

「…嫌、なんですか」
「え?」
「私じゃ嫌、ですよね。すみませんでした」

目に溢れんばかりの涙をためていた彼女は、下を向いた。それにより彼女のスカートにポタリと雫が溢れる。
ああ、そんな悲しまないでよ。

「別に嫌じゃないんだよ。ただ大切なことだから…」

……。まてまてまてまて。今オレなんて言った?いや、間違ったことは言ってないけど…言ってないけど!大切なことって、どういうことだよ。いや、どういうことも何も、そんな気軽に嫁ぐとか言っちゃダメだよってことだよ。そういう意味の大切なことだよ。

「…嫌じゃないんなら、嫁ぎに行ってもいいんですね?」
「えと、そうじゃなくて…君もたったこれだけのことでオレのお嫁さんになるの嫌だろ」
「そんなことありません。…実は私が階段から落ちたの、見惚れてたからなんです」
「それって」

話の流れで言うとオレに、か。…まてまて、この話はギャグのはずだ。メタ発言とかそんなことは今どうでもいい。重要なのはオレに見惚れてたのか否かという点だ。どうせアレだろ、実はたまたま近くにいた雲雀さんに見惚れてましたとかそういう流れなんだろ。ああ、それ有りそう。キャラ投票で調子に乗ってるよな雲雀さん。口が裂けても本人には言えないが。

「あなたに見惚れて足元への注意が怠り踏み外してしまったんです」

ははは。…オレだった!ギャグはどうした、ギャグは。何で普通に話進んでんだよ。世界観間違えすぎだよ。それより焦りすぎだよオレ。落ち着けオレ。

「一目ぼれなんです。だから、私は全然嫌じゃないですから」
「えぇぇ…」

どうしよう…嬉しいんだけど。
はっ…また!京子ちゃんが好きなはずなのに何ときめいたり喜んだりしてんだよ。
いや、でも好意をもたれて嫌な気分になる人そうそういないよな。しかもオレ、普段モテないから一目惚れとかされたらそりゃ嬉しいよ。

「…やっぱり明日お金払います」
「え?」
「勝手に見惚れてお怪我をさせて…ご迷惑おかけしてすみませんでした。それじゃあ、失礼します」

どういうこと?急展開についていけないんだけど。オレと結婚するんじゃないのこの子?やっぱりお金でチャラなの?この発言だけ聞くとオレいやらしいな。

「ねぇ待って。どういう、」

保健室から出ようとした彼女をつい引き止めてしまった。のはいいんだけど…。
泣いてる?
確かにさっき涙をこぼしていたが、数滴のはず。今はもう、涙がとめどなく溢れ頬をつたっている。

「え、あ、ごめん!腕痛かった?」

引き止めるために咄嗟に腕を掴んだから、力の加減が出来なかったのかもしれない。仮にもオレは男だ。オレがどんなにダメツナでも男と女では力も防御力も違うよなそうだよな。
そう思って慌てて掴んでいた手を離す。

「だ、じょぶです。い、痛くなか、たですから」
「じゃあオレがなんか傷つけるようなこと言った、のかな」
「……」

彼女は俯いて泣いたまま何も答えない。
黒だ。これはオレが傷つけたんだ。
しかしオレのどの言葉に彼女が傷ついたのか、さっぱり分からない。別に嫌いとか言ったわけじゃないし、むしろかわいいとかプラスなことしか考えてなかったし。
本人に聞いた方が早いな。

「ごめん。ちゃんと謝るから、まず何が嫌だったのか教えてもらえる?」
「……って」
「うん?」
「えぇぇ、って言ったじゃないですか…」
「あ、うん」
「……」

……。うん?え、もしかしてそれで傷つけちゃったの?なぜ?
…もしかして拒否から出た言葉だと思った?なるほど、そういうことか…。

「あのさ、えぇぇって言ったのは意外なことに驚いたのと嬉しかったからで、」
「優しいんですね。でも大丈夫です。突然泣いたりなんかしてすみませんでした」

あぁ、違うんだって。気をつかってるとかじゃなくて本当のことなんだって!オレ浮かれてるから!好意持たれて浮かれてるから!!

「先ほどのことは忘れてください。明日お金を渡したらもう関わりませんので」

ちょ、なんだって!関わらないってそんなの嫌だよ!いや、嫌っていうのはそういう深い意味じゃなくて、いや、でも嫌なものは嫌なんだけどそうじゃなくて、ってああパニック!落ち着いてオレ!
頭の中でパニックを起こしている間にも彼女は再び保健室から出て行こうとする。
ちょ、待ってよ!!

「待って!オレ、君のことが好きなんだって!!」
「え…?」

え…?
落ち着けって言ったじゃんオレ。もう少し考えてしゃべれよオレ。全オレがびっくりしたよ。

「あ、えと…」

オレの言葉で赤くなった顔を両手で覆い隠す彼女。うんかわいい。
…もう何度かわいいって思ったんだろう。これはもしかして、

「うん…好きみたいだ」
「う、嘘つかないでください。私なら本当もう大丈夫ですから」
「こんな嘘ついたりしないよ」

確かにモテないオレは一目惚れされたと聞いて浮かれている。調子に乗っている。それは否定しない。しかしかわいい女の子にここまで好意を向けられて頷かない男がいるだろうか。そういうと可愛ければ誰でもいいように聞こえるが、もちろんそうじゃない。
多分オレは、最初から惹かれていたんだ。相手を思いやって少し突っ走るところとか、素直なところとか。

「えっと、これからよろしくね」
「あ、え…。…こ、こちらこそ不束ものですがよろしくお願いします!」


ひとめぼれ


(あ、今更だけどクラスと名前教えて?)
(3-Aのみょうじなまえです)
(3年!?(年下じゃなかったのか)あ、オレは、)
(2-Aの沢田綱吉さんですよね)
(何で知ってるの!)
(鞄に書いてありました)
(あ、なるほど…(ん?この重い鞄を持ったオレをなまえはおぶって保健室まで走ったのか…!))
(どうかしたんですか?)
(いや、何でもないよ(今日から真面目に体力つけよう…))


――――
初めはツナくんがおぶわれてそれを見たリボーンに体力作りの内容を増やされる、っていう恋愛要素無しのギャグになる予定だったんだけど、世界観ミスった。


2011.07.27
 

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