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□最恐の恋敵
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並中のマドンナである笹川京子。天然で可愛くて、男なら誰もが守ってあげたくなる、そしてなによりあたしが守ってあげたいと思う子。全体的にふわふわしていて、癒しオーラも出ていて、ああ本当もう彼女にしたい。そんな最上級に可愛い子だから愚かにも淡い恋心を抱く者がたくさんいる。もちろんあたしもそのうちの1人。ライバルはとても多いけど、女であるあたしは1番有利な位置だから焦りはしない。京子とショッピングに行ったりお泊り会をしたり、男はなかなか出来ないだろう。だから安心してた、のに。
最近ある男が異様なまでに京子に近付いているらしい。とある赤ん坊に聞いた話では、奴は京子の下着姿を見たらしいし、一つ屋根の下で暮らしたこともあるらしいのだ。これは許すまじき行為だ。普段は羊の皮を被り、いたいけな京子を騙すなんて、腹立たしいことこの上ない。なぜ赤ん坊がそんな情報を持っていたのかは謎だが、論点はそこではない。京子に近づく狼がいることが問題なのである。
だからあたしはお灸をすえてやろうと、奴を放課後の屋上へ呼び出した。力には自信があるんだ。心配性の従兄弟に護身術やら何やらを教えられてるからそこらの草食動物、じゃない、草食系男子には負ける気がしない。
さぁ来るがいい!京子の下着姿を見た罪は重いんだよ!!!

たてつけの悪い屋上の扉がキィッと音を立てながらゆっくり開く。キタキタキタキタキタァ!!!

「あ、えと、みょうじさん?」
「うん」

来たな!おどおどなんかしちゃって…。残念だが、そんな芝居はお見通しなのだよ。このあたしにかかれば解けない事件はない!じっちゃんの名にかけて!!じっちゃん八百屋だけどな。

「何の用事、かな」
「心当たりはない?」
「心当たり?」

あるだろう、たくさん。もしここでしらばっくれるなら殴る。殺られる前に殺る。これうちの家訓。物騒な家訓である。誰が決めたんだよ。

「あるにはあるけど…違うかも」
「いや、それ多分あってると思うから」

さぁ早く言うのよ!!自首するのよ!!正直に言っても一発殴るけど!
でもあたしが暴力で解決しようだなんてそんなワイルドなことしたとバレたら、心配性な従兄弟に怒られるわ。なんで呼ばなかったのかって怒られるわ。「あくまで護身術なんだからね、基本は僕を呼ぶんだよ」と口を酸っぱくして言われているがまぁ今回は仕方ない。従兄弟に任せたら多分目の前のこいつは死ぬ。マジで死ぬ。流石にそこまでは恨んでない。あたしだって理性のある人間だ。とりあえず殴ろうとは思っているけどな。理性とは。

「…オレもみょうじさんが好きだよ」

……。……。は?オレも?も?オレも、と言うには前提として彼以外にも好きだと思っている人物が存在するわけだ。そして今この場に私と彼しかいないことから、恐らく私が彼を好きだというのが前提となる。
しかしそんなことがあるわけないのだ。いつ私が好きだと言った。
いや、待てよ。目の前のこいつは成績がいつも悪い。国語の成績だってよく赤点を取っている。つまり、が、は、も、の使い分けができないのではないだろうか。そうだ、そうに違いない!謎は解けた!!

「みょうじさんよくオレのこと目で追いかけてたし、オレが京子ちゃんと話してた時にふて腐れてたよね。最初は自意識過剰だって思ってたけど、今日はっきりしたよ」

くっ、謎は迷宮入りか…。
いや、確かに沢田を目で追ったりふて腐れたりした。でも恋する乙女の眼差しで見てたわけじゃなく思いきり睨んでやったはず。ふて腐れてたのは京子のことが好きだから。京子に嫉妬したんじゃなくて沢田に嫉妬したんだ。

「あ、あのさ、」
「嬉しいな、みょうじさんと付き合えるなんて」
「いや、ちょっと待って。だからそれは、」
「これからよろしくね。あ、今日は獄寺くんと約束してるからもう帰るけど、明日からは一緒に帰ろうね」
「え、あ、明日はあたし部活だから、って、そうじゃなくて、」
「じゃあまた明日ね」

笑顔で手を振りながら、奴は屋上から出て行った。
おい、あたしのこと好きなら話聞けよ…。びっくりしすぎて自慢のパンチも出し忘れちゃったよ。うっかり八兵衛だよ。ってそうじゃない。

最大の恋敵、沢田綱吉。奴はとても恐ろしい男のようだ。


(十代目、なんか良いことあったんすか?)
(ようやく欲しいものが手に入ったんだ)
(よかったっすね!)
(うん。1年半望み続けたものだから本当嬉しいよ)

(ああ、明日どうやって誤解をとこう。というかあたしは敵意むきだしだったはずなのに何で好かれたんだよ、ドMかよドMなのかよ…。…殴らなくて良かった)



―――
一年の時からヒロインちゃんのことが好きだったツナくん。→でもヒロインちゃんに嫌われてる(理由は分かってる)。→うーん、どうやって好かれようかな。→そんな時ヒロインちゃんからの呼出しが。→あ、何かコレうまいこといくんじゃないか?→だから呼び出された理由は知ってるけどあえて勘違いしたふりで告白。→ヒロインちゃんに有無を言わさぬよう弾丸トーク。それと早めの退散。

コレ、京子ちゃん夢にするはずだったんだけど…。


2011.08.04
 

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