short story

□帰還
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 ヴァンダヴィーアの小さな寂れ宿の一室に宿を取ったコンラッドは持っていた僅かばかりの荷物をベッドの上に投げ出し、腰を降ろした。

ユーリとの思い出に囚われてついここに来てしまった。
ここは…ユーリと初めて旅をした思い出の地。
あの時は魔剣モルギフを求めてこの地を訪れた。

自分の生まれ育った地と環境も習慣も何もかも違うというのに…ユーリは持って生まれた性分というか…
自らの手で目的のモルギフを手に入れてこの地を後にした。
何人もの人々に彼の素晴らしい人柄と偉大さを刻み込んで…。

それからさほどたっていないのに…
日の光の暖かさも変わらず、
この地に漂う独特の硫黄の臭いも変わらないというのに…


今はこの地に一人…

あの時ともに笑った者たちは今は自分の傍らに誰もいない…

「わかりきっていたことなのに…この地に来ることはあのときの懐かしい思い出に囚われるということなど…」

コンラッドは自嘲気味に笑った。

そのときだった



コンコン…

部屋のドアが小さくノックされた。
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