人外と人界
□第一話
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―夜の帳に覆われている都は静まり返り、人の往来はない。そんな夜も深まる頃に活動しているのは妖であって人ではない。普通なら。
狩衣に身を包み髷を結わずに首の辺りで一つに括られている髪。年の頃は十二くらいだろうか?
少年は夜の都を徘徊していた。
その少年の前方には奇妙な姿をした獣が佇み少年を凝視している。
獅子の頭に山羊の躯、蛇の尻尾という異形な獣の瞳は紅い。
大人の腹部程の大きさがあるその獣は警戒心を露に少年をひたすらに見ていた。
「もっくん、あれ何だと思う?」
「異形の類いだとは思うが…」
少年の足元にはこれまた奇妙な姿の生き物がいる。
白い体躯に長い耳、大きさは犬や猫くらいだろう。首には紅い勾玉の様な突起が一巡し、大きな瞳は夕焼け色を溶かし込んだよう。
もっくんと呼ばれた白い物の怪は、前方を睨むように見つめたまま答えた。
「襲ってくる様子は無いみたいだけど…どうしよう?」
「こっちの出方を窺っているんじゃないか?」
「うーん…」
異形の獣は少年に襲い掛かる気配がない。ただじっと少年を見ているだけにすぎない。
それが何故かは解らないが、攻撃してこない相手に理由もなく自分から攻撃するのを少年は躊躇っていた。
別に獣は姿が異形なだけで何も悪いことをしていない。それなのに牽制のためだ何だと理由をこじつけて攻撃すれば、逆に獣が怒って暴れだすに違いない。
自分がもし逆の立場なら怒るだろう。自分がされて嫌な事をいくら異形の獣が相手でもしたくはないのだ。
結局どうしようか考えていた少年は不意に空を見上げた。つられて物の怪も空を見やる。
―と同時に獣が動く気配を感じ、前方に顔を戻せば既に少年の前に来ていた。
「っ!?」
「昌浩!!」
少年が息を詰め、物の怪が焦りながら声を張り上げ、獣が咆哮したのは同時だった。