人外と人界

□第一話
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「消し炭どころか塵一つ残さねえ方が良さそうだな」

「!?ま、待て…!」

「お前の様な三流をクレイに喰わせても腹を壊すだけだろうしな」

「俺が悪かった!だからっ」

「消え失せろ、目障りだ」

「!!?」


それは一瞬の事だった。
青ざめる相手を冷徹に見ながら、相手はパチンと指を鳴らした。直後には青ざめていた者の姿が消えていて気配は疎か、何の痕跡も残ってはいなかったのだ。

そんな事を容易く当然の様にやってのけたもう一人の人外の者は、何事も無かった風情で地上に降り立ち、獣を撫でている。

呆然としている少年の足元では物の怪が警戒をしている。


「さて、そこの人間」

「………え?あ、はい…?」

「此処は人界に違いないか?」

「はあ……そうですけど…」


唐突な問いに驚きはしたものの肯定すれば、相手は何やら考え出した。

それを眺めつつ少年は相手の姿を改めて見た。


尖った耳、紺青の髪に紺碧の瞳。そして背中には漆黒の翼がある。身に纏う衣装は見たことのない装いで、黒一色。
背が高く整った顔立ちは正に人外だと思える。


「あの…」

「ん?」

「貴方は一体…」


誰なのか?何者なのか?
言葉の続かない少年の顔を見た相手は、小さな笑みを口許に乗せた。


「そう言うお前は何なんだ?」

「あ……俺は――」

「それを聞いてどうする?」


答えようとした少年の声を遮ったのは物の怪だった。
鋭利な眼差しには敵意と警戒が見て取れる。

これに相手は気分を害した様子もなく、相変わらずの笑みを浮かべたまま。


「何がどうするなんだ?相手に何者なのか尋ねるならば先に己が何者か明かすべきではないのか?」

「………」

「警戒するのは良いことだが、相手に無礼且つ不躾な言動を取るのが人界では当たり前、と?」


嘲笑めいた含みで物の怪に言葉を返す相手は、暗に責めてもいた。
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