人外と人界

□第一話
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返す言葉を失ったのか物の怪は渋面で、少年は困惑していた。


「まあ、お前の気持ちも解らんでもないからな、今回は特別に許してやる。有り難く思えよ?俺が無礼や不躾を許す者はお前達が初めてだ」

「………」


心が狭い、器が小さい、態度がでかくて偉そう、別に嬉しくもない、等々、幾つか物の怪と少年の中に言葉が浮かんだのは相手には絶対に秘密だ。

とにかく、偉そうで嫌な奴ではあるが許してくれるらしいので物の怪は気にしない事にした。


「で、俺が何者か、だったな」

「…はい」

「俺の名はアビス、魔族の端くれだ」

「あびす?」

「アビス、だ」

「う…」


何だかよく解らないけれどもアビスと名乗った彼は魔族と言う種族らしい。


「俺は答えてやったぞ。お前達は何なんだ?」

「俺は安倍昌浩で、こっちが物の怪のもっくん」


少年―安倍昌浩は物の怪を見ながらそう言ったのだが、アビスは納得しなかった。


「昌浩と言ったな。俺に嘘を吐く気か?」

「えっ?嘘なんて…」

「そいつは物の怪なんてモンじゃねえだろう」

「……………あ」


アビスに指摘され、何かに気が付いた昌浩。
その様子に天然かと感じながら物の怪を見る。


「お前も自分で名乗ったらどうなんだ。化けたまま人任せってのは幾らなんでも許せねえぜ?」

「!」


思いもよらない言葉を受けて物の怪はアビスの顔を見た。
にやにやと意地の悪い笑みで自分を見ているアビスを目にした瞬間、物凄く無性に腹立たしく感じて瞬き一つの間に本性へと戻った。

褐色の肌に金の双眸。尖った耳に僅かに見える犬歯、紅い髪は短く額には金冠が嵌められているのが見える。


「ほう、それがお前の本性か」

「…十二神将、騰蛇だ」

「神将、神の末席か……成程、道理で神気が強いわけだ」

「っ…」


神気が強いと聞いて表情を険しくする騰蛇を気にも留めず、だが、と言葉を繋ぐ。


「本気の俺と、本気のお前、勝るのは果たしてどちらか…」

「…何?」

「まさか俺が力を抑制していないとでも思っていたのか?」


可笑しそうに、愉しそうに笑うアビスを見て騰蛇は目を丸くしていた。
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