己の道を突き進め
□過去一話
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然程深くはない森の中。
獣道を行く若い人間の男が一人いた。
年の頃は二十代、長い髪を肩の辺りで緩く結った狩衣姿の男。
名を安倍晴明と言う。
晴明は都にて活躍している陰陽師で、こんな獣道を歩いているのには訳があった。
この山には昔から名も無き神がいるのだと言い伝えられ、ずっと崇め奉られていた。
その名も無き神とやらが、今尚現存するとされていてこの山を守り続けているのだという話を晴明は耳にした。
その話を耳にしたのが一月前。
しかし現在この山には微弱ではあるが、確かに邪気が漂いはじめていた。
もしもこの山が妖によって蝕まれ、穢されてしまえばその影響は都にも出てしまうだろう。
それを防ぐためにも晴明は自らここへ出向き、名も無き神とやらの存在を確かめに来たのだ。
『この山、本当に神がいると思うか?』
「それを今確かめようとしているんだろう。」
『そうだが、存在していなかった場合どうする?』
「存在していなければ、言い伝えは無く、この山も妖の巣となり都に害をもたらしているだろう。」
妙に存在していることを確信しているような口振りの晴明。
彼に質問を投げ掛けた十二神将朱雀は訝しげな視線を送った。
「それに―――」
何か言いかけて、晴明は周囲に素早く視線を走らせた。
朱雀も同様に周囲を警戒している。
「……白虎よ、何かいるか?」
晴明の静かな問いに、十二神将白虎が顕現した。
「………近くにはいないようだが……この先に何かいるのは間違いない。」
この先、と示したのは正に進行方向で晴明らは周囲に気を配りながら先へ進んだ。