己の道を突き進め
□過去二話
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形容しがたい沈黙が場を支配していた。
名も無き神の存在を確かめにきた安倍晴明と十二神将朱雀と白虎。
しかし対面したのは何かに囚われている人間の霊。
晴明は思考を巡らせていた。この者‐壊人‐の話に出てきた子供というのは、今まさに目の前にいる壊人自身のことだろう。
そして父親が告げた壊れ人というのは、人格そのものを壊すために壊人に放たれた言霊。
だが、壊人の人格が壊れることはなく、本人の話の中にもあったように山を守るためにこの場に留まっているならば、何らかの力を得ているはずだ。
つまり、壊れ人にはならず壊し人となったのだろう。
どうしてそうなったのかはわからないが、可能性として考えられるのは放たれた言霊以上に、壊人の思いの方が強かったのかもしれない。
「今一度お尋ねする、この山に神は坐されていないのだな?」
「ああ…」
「わかりました。それではこの山で最も邪気が強いのは何処か、知っているのであれば教えては頂けまいか。」
言い方としては問い掛けているようにも聞こえるそれは、否やを是としてはいなかった。
それに気づいている朱雀と白虎はやれやれといった息を吐いた。
「知ってどうする?」
「おや、ちゃんと目的を先に伝えたはずだが…?」
「………邪気を祓っただけでは山に清浄さなど戻らない。」
確かにただ邪気を祓うだけでは意味が無い。再び穢されてしまえばそれをまた祓うことになる。
が、同じ事を晴明が繰り返すはずが無かった。
「そんな心配は無用だ。邪気を祓った後、この山に結界を張るつもりだ。」
さも当然だと言うかのような晴明に壊人は嫌そうな顔をした。