己の道を突き進め
□過去五話
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――その名を呼ぶなっ!!
壊人の微かな声が聞こえたかと思うと、壊人と木箱を囲む小屋の壁が炎上した。
その炎は晴明達のよく知る者が操るもので、三人は煙の奥に目を凝らした。
「騰蛇……」
褐色の肌に金の双眸。
十二神将の中で最も強く、凶将と呼ばれる火将――騰蛇。
彼が何故この場にいるのかという疑問は後回しだ。
騰蛇は足元にある木箱、そして壊人を一瞥してから晴明へと視線を移した。
「…紅蓮よ、その子をこちらへ。」
「………」
晴明に言われて再び壊人を見る騰蛇。
頭を掻き抱いて蹲るそれは人の霊。何故こんな場所にいるのか気になったが、それ以上に壊人から微かに感じる気配の方が騰蛇は気になった。
「こいつは何だ。」
「この山に深く因縁ある尊き方さ。」
「何?」
「晴明、それは…」
それ以上を今話す気はないらしく、口を閉ざして静かに騰蛇を見ている。
無言で早く連れてこいと訴える晴明の眼差しに、騰蛇は渋々と壊人を抱え上げた。
力なく騰蛇に抱えられていた壊人が、ゆるゆると首を動かして騰蛇を見上げてくる。
騰蛇もまた壊人へ目を向ければ、苦しそうな顔をした壊人と目が合った。
真っ直ぐに自分を見る黒い双眸に畏怖の色は無く、どちらかと言えば不思議そうに見える。
自分が誰なのか気になるのだろうか?
「一度外へ出るぞ!」
晴明の鋭い声に騰蛇は思考を中断させ、小屋の外へ向かう三人の後に続いた。