人外と人界
□第一話
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「………?…あ……」
獣の咆哮に身を固くして目を閉じた少年だったが、何の痛みもない事を不思議に思い目を開けば獣は少年ではなく、少年の真上を見据えて唸り声を上げている。
それを認めて獣の視線を辿った先には人の姿をした、けれども人ではない者がそこに居た。
「…何、あれ……?」
人の姿に尖った耳、見たことのない衣装を身に纏うそれは人外だと認識するには十分だが、それ以上に認識してしまう理由は背に生えた翼と気配にあった。
蝙蝠に似た大きな翼。
霊力でも神気でもなければ妖力や邪気でもない気配。
それが人外だと瞬時に理解できた要素なのだ。
「あの獣はお前が狙いじゃないようだな」
物の怪の言葉に首肯しつつ安堵するが、疑問が浮かぶ。
「俺が狙いじゃないにしても、庇う理由にはならないよね?」
「まあ…そうだな…」
獣が初めに咆哮した時、現在進行形で浮いている人外の者が少年に攻撃を仕掛けたのだ。
獣の咆哮はそれを弾き返していた。
つまり、獣は少年を庇うと言うよりは守ったことになる。
それが少年には不思議でならないのだ。
「ちっ、あいつの駒が居るとは…面倒な」
人外の者が小さく呟いた言葉に獣は反応を示すと唸りを一層低くし、躯を屈めると飛び掛かった。
それを相手は避けると右手を獣に翳した。その刹那ー
「クレイ、下がれ」
「!?」
相手の背後から落ち着きのある低い声がその場に響き、獣が後方へ飛び退いた。
全員が驚いて声のした方を見やれば、同じ人外の者が静かな笑みを浮かべて少年達を見ていた。
「貴様っ…!」
「俺の可愛いペットを虐めてんじゃねーぞ、消し炭にされてえのか」
「な、何が可愛いペットだ!悪趣味も大概にしろ!!」
悪趣味と聞いた途端に獣の飼い主だろう相手はくつくつと笑いながら、悪趣味と言った相手を見る。
その表情はゾッとする程に妖婉で畏怖さえ抱く様な笑みだった。