PRESENT

□過保護?
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連日の徹夜続きで、細い双眸が余計に細くなる。
座り続けていたおかげで、僅かでも体を動かせば、骨の軋みが聞こえる始末。
ここ最近で、まともな食事をとったのは何日前だったろう。
今はコーヒーを喉に通すだけでも、胃が満たされるような感覚すらあった。


吐気すら堪えている。
これほどにまでないほどの偏頭痛。
いつから頭痛と友達になったのだろう。
悲しくて溜め息すら出てこない。
それでも目の前の紙束を見ると手が動く。
これは職業病と言うより、もはや無意識のうちにしていることだ。


「准尉、ここのスペル…間違ってますけど」

「何…?」


普段の穏やかさはどこへいっただろう。
フュリーは眼の前にいるファルマンを恐る恐る眺めて、引き吊った表情を隠さない。
それに気付いたファルマンは、短く“すまない”と謝ると、指摘された書類を受取り、確認をする。


フュリーは心配そうな表情を崩さなかった。
何だかんだ言ってはいるが、ファルマンの限界はだいぶ近くに迫っているような気がした。
その証拠だろう、書類にミスが目立つ。
普段なら間違いなく誤りなど起こさないこの男が。


「大丈夫ですか…?顔真っ青ですよ」

「問題ない」

「准尉…」


ファルマンの場合、他人の“問題ない”とは異なっているのだ。
これで普段通り快調ならば、“問題ない”も通る。
だが今は状況が違う。
今にも倒れそうな様子でそう言われても、問題ないより問題あると受けとるだけだ。


「少し休みましょう?」

「いや、俺は続ける。曹長は休んでてくれ」

「准尉も休んでください!いい加減、倒れますよ?!」


フュリーの剣幕にややたじろいだのか、久しく瞳の色を隠していた瞼が、はっきりと上げられた。
ヘーゼルグリーンの美しい色合い。
知らぬ間に、フュリーは感嘆の声を上げていた。


「…分かった。すまない、心配をかける」


瞼が閉じられてすぐに、ファルマンは疲れきったような微笑を返す。
再び隠された瞳の色彩に、少々ながら残念な表情をするフュリーだったが、休息を承諾してくれたファルマンに、多少の安堵を覚えた。


―――パタン…


簡素な音を立てて、扉が閉まった。
出ていった長身の背中をみて、フュリーは小さく微笑みを浮かべた。


「良かった。休んでくれて」


届かない声で小さく呟くと、いまだ結構な量が残るファルマンの書類へと手を伸ばしたのだった。
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