煌神羅刹

□Plaisir de Noel
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「早く来ぬか…馬鹿めが」


 乾いた喉を潤すついでに、暖を取ろうと買った缶コーヒーも遂には冷めてしまった。
 ふとその時、司馬懿の目の前に黒い軽自動車が停車する。見慣れない形の車の運転席から出て来たのは、見慣れた男・夏侯惇だ。


「…すまん。道が混んでて遅れた」


 長い間顔を合わせなかった恋人との再会なのだが、司馬懿はびっくりして開いた口が塞がらなかった。


「…ひ、髭は?!」
「ん?あぁ…。コレな」


 夏侯惇が蓄えていた髭が綺麗サッパリと無くなっているのだ。流石に、違和感を覚えずにはいられない。


「この前、ドンパチやった時に一部が無くなったんでな。見苦しいから、全部剃った」


 『お陰で寒い』と顎の辺りを擦る夏侯惇は、髭が無くなった所為か恐ろしく若く見える。
 それに加えてエナメルのライダースジャケット、細身のストレートパンツに弾丸が幾つもあしらわれたベルトを巻き付け、先が尖ったダガーブーツという格好が若さに拍車をかけている。今の夏侯惇なら、二十代前半と言っても通じる気がする。


「やっぱり…変か?」


 夏侯惇は先程から食い入る様に自分を見て、言葉を発さない司馬懿にそう尋ねた。


「…おかしくは無い」
「なら良かった。さぁ、お姫様。お手を拝借」
「その様な事を、恥ずかし気もなく言うでないわ!馬鹿めが!!」


 夏侯惇は照れて顔を真っ赤にしている司馬懿の手を取り、荷物は後部座席に放り込んで助手席の扉を開けて座らせる。当の本人は運転席に座り、エンジンをかけ車を発車させると車内がブルーのイルミネーションに彩られる。


「で、何処に向かうのだ?」
「天保山(てんぽうざん)」
「山?」
「山もある。本命は海遊館」


 大阪は港区にある天保山。
 その名の通り山なのだが、標高は5メートル程しかない日本一低い山だ。
 天保山は海遊館を始め、大観覧車や美術館、商業施設が集まっており、遊ぶにはもってこいのスポットになっている。


「大阪の水族館で思い出したのは、海遊館しか無かった」
「成程な。あ、天保山出口って書いてあるぞ」


 一般道と高速道路を乗り継ぎ、なんだかんだで阪神高速・湾岸線「天保山出口」が見えてきた。



 目的の海遊館まで後少し。






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