煌神羅刹

□Plaisir de Noel
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「何だ…この部屋は?」


 天保山で夕食を取った後、夏侯惇が取っているホテルへと向かい、ドアを開けると部屋は非日常的な数の薔薇に飾られている。
 薔薇は勿論だが、そもそも部屋の広さがおかしい。一通り見て回った司馬懿は、余りの部屋の広さに頭がクラクラした。


「ザ・リッツカールトンスイート。このホテルで一番広いスイート」


 夏侯惇はそう言うと、部屋の真ん中に位置するリビングルームのソファーに、脱いだライダースジャケットを掛けて、煙草に火を灯す。


「グランドピアノが普通に有るなんて、何かの間違いだ」


 ザ・リッツカールトンスイート


 リビングルーム・ダイニングルーム・パーラールーム・ベッドルーム・キッチンからなる『第二の我が家』をコンセプトに作られた、ザ・リッツカールトン大阪の中で最高級の客室である。
 最高級のランクに位置付けられるだけあって、司馬懿が見下ろす窓の外は大阪の中心部の摩天楼が広がり、光の洪水が幻想的な夜景を彩っている。


「こんな部屋、映画の中でしか見た事がない」


 試しにソファーに座ってみると、ふわりと司馬懿の体重を受け止める。最高位の部屋に相応しく、誂えてある品々も最高位のモノと言えるのだろう。


「偶には、こんな贅沢をするのもよかろう」


 そう言うと、夏侯惇は司馬懿にピンク色のスパークリングワインが入ったフルートシャンパングラスを渡す。
 司馬懿はグラスに注がれた中身を口に含んでみると、さくらんぼを思わせるフルーティーな香りが鼻を抜けるが、口当たりは甘い香りと裏腹にスッキリとした辛口だ。


「ドン・ペリニヨン?」
「残念。ロジャーグラート・ブリュット・ロゼ」
「スペインのカヴァか。騙された」


 カヴァとは、スペインでシャンパンと同じ製法で作られたスパークリングワインを指す(シャンパンは、フランスのシャンパーニュ地方で規定に則って作られるスパークリングワインの呼称)


「何故ロゼを?白が好みではなかったか?」


 夏侯惇が好んで飲んでいるのはクリュッグの白で、ロゼを飲む姿を司馬懿は見た事が無かった。
 当の夏侯惇は一杯目を飲み干し、二杯目をグラスに入れ司馬懿の隣に座る。


「お前の好みは、他の誰よりも知っているつもりだが?」


 夏侯惇の言葉を聞いて、司馬懿の顔がかあっと朱に染まる。
 夏侯惇自身の好みよりも、司馬懿の好みを優先してくれたのだ。


「ふ…風呂に入ってくる!」
「一緒に入るか?」
「いらぬ!一人で入る!!」

 夏侯惇の顔をまともに見れない司馬懿は、飲みかけていたグラスをテーブルに置いて、そそくさとバスルームに逃げる。
 残された夏侯惇は、笑いを堪えるのに必死だった。





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