夏祭り

□夏祭り F
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純さんってこう見えて照れ屋なんだよな〜。
いつものように自分に絡む伊佐敷に対し、本人に聞かれたら殺されるだろうことを倉持はこっそり思っていた。
伊佐敷は自分の感情をごまかすことが極端に苦手な正直者だ。だからいつも本音で接してくれる。優しく、時に厳しく。その言葉の全てが彼の心からの言葉で、だからこそそれはいつも誰の胸にも熱く響いていた。そして、倉持はそんな伊佐敷に同じ男としての理想像を見ている。だから、普段もなにかと伊佐敷と一緒にいることが多い。それを御幸がよく思っていないことは当然知っているが、倉持には自分の中のヒーローである伊佐敷と距離をとることなんて考えられないのだ。

しかし。

今日は御幸の視線がいつに無く痛い。
そりゃ、そうだろうな。
ここまで来る道中、御幸はらしくなくはしゃいでいた。いつも飄々とした、人を食ったような笑みを浮かべて一歩離れたところにいるくせに、今日の御幸は歳相応の子供(自分もだが)に見えた。

季節の行事が好きなんだと御幸は以前言っていた。
そして、できるなら好きな人とそれを楽しみたい、とも。

こうなってしまったのは不可抗力だし、こうなる恐れはもともとここが近所だという時点で十分にあったのだけど、なんだか倉持は御幸に対して申し訳ない気持ちになる。どうにかして二人になれないものかと思いをめぐらしてみるが・・・なかなかいい口実が思い浮かばない。沢村と増子だけなら、倉持はある程度遠慮も無く物が言えるのでどうにでもなると思っていた。しかし、結城や伊佐敷が相手となると勝手は違ってくる。そのあたりは普通の体育会系の縦社会なのだ。とりあえず様子を見ようと御幸は言っていたが・・・そう思い御幸の方に視線を送ると御幸と目が合った。御幸は半分諦め顔で力なく笑う。
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