夏祭り

□夏祭り C
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「お前何匹?」
「俺2匹とれましたよ!倉持先輩は?」
「うるせー!」

小さな子供達に交じって高校生が二人真剣な表情で覗き込んでいるのは金魚すくいの水槽である。
増子に綿菓子を買いに来たはずが、沢山並んだ屋台を目の前にした二人はもう止まらなかった。もともと、特に子供っぽい二人の組み合わせである。寄り道をするなという方が無理な相談かもしれない。

沢村は意外に器用で、その薄い紙で上手に金魚をすくっている。

「お兄ちゃん上手!」
「いやー、はははっ」

近くにいた小学生くらいの子ども達に手を叩かれ、沢村がちょっと照れた時、隣で

「あ゛〜っ!!」

という倉持の叫びが聞こえた。
結局、沢村が3匹、倉持は沢村がすくっている間に3回挑んだが全敗という結果に終わった。屋台のおじさんはすくえなかった倉持にも金魚をくれようとしたのだが、倉持は断固として断った。「んな情けはいらね〜よ!」なのである。「ま、お前にもたまにはいいカッコさせてやるかな、俺、先輩だし」なんて笑って言ってはいるがどう考えても負け惜しみで。倉持はこういうささいなことにでもムキになる、根っからの負けず嫌いだ。そんな倉持を横目に「この人って本当、子供っぽいよな」と思いながらも、「大きいやつばっかり狙うからダメなんですよ。水面に浮いてきた小柄なやつがとりやすいんです」とは絶対に教えない自分も似たようなもんかと沢村は思った。
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