夏祭り

□夏祭り D
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倉持は自分が1年だった時のことを思い返す。
1軍に定着したのは自分と御幸だけだった。最初は御幸を変なヤツだな、と思っていたような気がする。
それが共に1軍で扱かれているうちにいつの間にか隣にいた。
そして・・・気付けば友情とは違う別の情を抱くようになっていた。
それに気付いた時のショックは今でも鮮明に覚えている。しかし、それを認めてからはいたって順調で、なるべくしてこうなったのだと、今となっては思う。

自分と同じ道をこの後輩達が歩むとは到底思えないけれど、これから起こる色々な出来事を共に乗り越えていけるような、そんな信頼や絆をお互いに築いて欲しいと思う。
そして、お互い純粋に「会えてよかった」と思えるような関係になって欲しい。

「お?春市それりんご飴?お前好きなの?」

倉持の視線の先、春市の手にはしっかりとりんご飴が握られていた。
りんごに飴をかけて固めたそれは夜店では定番メニューである。りんごの部分はフィルムで覆われ、その首の部分でピンク色のタイによってとめられている。

「あ、はい。今日はこれを買いに来たんです」

春市が恥ずかしそうに答えた。

「小さい時、よく兄貴に近所の祭りに連れて行ってもらって・・・二人で食べたんです」

そう言いながら、春市は少しだけ寂しそうな表情を浮かべた。

その春市の思いは見ていて痛々しい、と倉持は思う。

前を走る兄をストイックに追いかける弟。

一見微笑ましい光景にも思うが、彼らは同じ野球部員。しかもここは名門高校だ。いつ自分のポジションを誰かに奪われるか分からないという非常にシビアな状況である。その状況をまだ分かり切っていない弟は、兄の突き放すような態度の意味が分からないのだ。
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