夏祭り
□夏祭り B
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「哲んちのお袋さんに無理矢理着せられてたんだよ!!なあ、哲。あれ?」
そう言って照れくさそうに伊佐敷は後ろを振り返る。しかし、そこにいるはずの結城の姿が無い。
「哲さんも一緒だったんですか?」
御幸が問う。
「おぉ。亮介も一緒だ。哲に誘われてな。俺ら去年も一昨年も日にちが合わなくて来たことなかったんだよ。哲は子供の頃はよく行ってたんだと。で、せっかくこっちの学校に来たんだから記念に行こうって言われてな。そうそう、お前の部屋にも行ったんだぞ」
伊佐敷はそう言って増子に視線を合わせた。
「それはすまん、俺達が出た後だったかもしれんな」
「でよー、お前いなかったから俺と亮介で哲んち行くじゃん?そしたらあいつのお袋さんが出てきて・・・これだよ。恥ずかしいっつーの!」
伊佐敷がため息を零しながらそう事情を説明した。
「でも似合ってるぞ、純。てことは哲と亮介も?」
御幸は増子の意見にその通りと心の中で賛成しながら、増子と同じ疑問を浮かべていた。
「哲は浴衣着てる。これが嫌味なぐれーキマッてんの。腹立つぞ。で、亮介は残念ながらそのままだ。これももともとは哲のを借りてんだけどさ、亮介は態度はでかいけど体はチビだからサイズがあわねーんだよ」
伊佐敷が上から目線で亮介について話すのを御幸は、ここで本人が現れればお約束だな、と思いながら聞いていた。すると・・・
「聞こえてるよ、純。チビで悪かったね」
いつの間にか伊佐敷の後ろに笑顔の亮介が立っていた。
人並みに紛れ、いつの間にか伊佐敷のバックを取っている亮介はやはり只者じゃないなと御幸は、青ざめていく伊佐敷の表情を見ながら思った。
お約束の状況なのに誰も笑えないのは亮介の迫力に気圧されたからに他ならない。